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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第六十七話 遠征2日目①




 俺は昔から起きたい時間に起きることができる。

 例えば、前日に体がボロボロになるまで運動したうえで夜更かしまでしようが、4時に起きろと言われればなんなく4時に起きることができる。


「そろそろ起きないと集合時間に間に合わないよ」


「…ん―、俺は起きてるよ…」


「じゃあベットから降りて他の3人を起こすの手伝ってよ」


「…んー」


 旅行先で男が5人も同じ部屋に集まっていたら夜更かしするのなんて当たり前だが、だからといって遅刻していいとはならない。かろうじてエディーは起きてはいるが他の3人は呼びかけても返事すらない。

 ドミンドとレノはともかくドレッドまで起きないのは予想外。昨晩の主役だったからまあお疲れなのだろう。


「遅刻したらシャローナ先輩に嫌われるよ」


「……」


「…もう無理矢理叩き起こすしかないんじゃない?」


「あと3分待って起きなかったらそうしようか」


 部屋は男女それぞれ1部屋の2部屋。ドルモンドとテタは授業の後屋敷に帰ったので泊まっていない。

 1部屋にまとめられてはいるが5人用の部屋だから狭くはない。ただ、宴会用ではなくあくまでも大人数の旅行客が安く泊まるための部屋だから枕投げやらなにやら、暴れるには手狭ではある。

 そのおかげで昨晩俺はカサディンからもらったプリントを読むことができた。


「よっしゃぁ!!!いくぜ!!!!」


「!? な、なんだ!」


「も、もう朝か…」


 いきなりドミンドが飛び起きたおかげで残りの2人も起きた。狙ってやったのかは微妙だがお手柄だ。


「3人ともやっと起きた。朝ご飯まで後10分だよ」


 ついさっき起きたばっかのエディーが偉そうに急かす。目を離した一瞬で着替え終えてるし、エディーの猫被りテクニックは健在だ。


「うぇっ!?お、俺早く寝癖ととのえないと!!」


「ま、まって!俺も!」


 綺麗な緑髪を爆発させているレノはともかく、そこまで寝癖のついてないドレッドが気にしているのは昨晩の話を経てシャローナ先輩を意識しまくっているからだろう。シャローナ先輩は綺麗好きそうだし。


「まったく、洗面所が混むことくらいわかるんだからそれを想定して起きないと」


「エディーは寝癖とかつかないタイプ?」


「そうだね、そんなに激しくはつかないかな」


「いいね。俺はレノみたいに寝癖が結構つくタイプだから羨ましいよ」


「リーシャなら寝癖もかわいいって行ってくれそうだしね」


「かわいいって褒め言葉?」


「嬉しくは感じないだろうけど、どちらかと言えば褒め言葉に該当するんじゃない?」


「んーまあ、リーシャがどうとか関係なく寝癖を残したまま人前に立つことはないからいっか」


「意外と短髪の方が寝癖って目立つよね」


「明らかにシルエットがおかしいからね」


「エディー!今日って半袖着るべき!?」


「シャローナ先輩は長袖着てると思うよ」


「そ、そっか!じゃあ俺も長袖にする!」


 洗面所の方から聞こえてきた声にエディーが対応する。エディーは昔からお洒落だから服装に関しても男子のリーダー的存在だ。

 ちなみに、俺とエディーは半袖を着ている。


「……俺は半袖着るべきだと思うけど?」


「俺はシャローナ先輩が長袖着てると思うって言っただけだよ?」


「てか、領主様に会うわけだし統一したほうが良くない?」


「いいんじゃない?固くならないで欲しいって手紙にも書いてあったし」



 最低限のマナーはある気がするけど、まあ制服だしいいか。




――――――――――――――――――――――――――




「ギリギリセーフ!!!」


「誰のせいでギリギリになったと思ってんだよバカ」


「レノだってわりとギリギリだっただろ!!寝癖がーーーって!」


「う、うるさい!お前のトイレが長かったせいだろ!」


「おいクソガキペア、まずは挨拶だろ」


「「おはようございますキシルスさん!!」」


「おい!!俺への挨拶はどこいった!!?」


「あんたたち朝からやかましいよ!!」


「ロアさん配膳終わりました」


「ありがとねシャローナちゃん!」


「!よかったなドレッド!シャローナ先輩長袖だ!」


「おはよートゥリー!!よく寝れた?」


「おはようリーシャ。まあまあかな」


「せんせーの横もーらい!」


「僕の横なんて取り合いになりませんよ…」


「トゥリーおはよっ!隣座ってもいい?」


 俺たちが一階に着く頃には女子と先生は全員揃って朝食の準備をしていた。久しぶりの再会で積もる話もあったと思うのだが、生徒たちより先に起きて準備をしているあたりヨーグ先生もカサディンも大人だ。

 レラーザ先生は見当たらないが、寝坊する人ではないし何か仕事があるのだろう。


 こんなに賑やかな朝は初めてだったりする。外泊することは過去にもあったけど、朝食を全員で準備して食べるというのは新鮮だ。


「アリシア先輩寝癖すごいですね」


「きいてよ!起きたらみんなもう準備終わってて私のこと置いてこうとしたから寝癖も直さず下りてきたの!もっとはやく起こしてくれてもよくない!?」


「なんか気持ちよさそうに寝てる人って起こし辛いんですよね」


「そっかトゥリーは起こす側の人間か!」


 隣に座ったアリシア先輩がところどころ重力に逆らった髪をいじりながら楽しそうに笑う。サリアと同じ部屋で寝泊まりなんてどうなることかと思ったけど、この様子だと昨晩は平和だったのだろう。


「そういえばアリシア先輩ばっさり髪切りましたよね。なんかあったんですか?」


「あ、やっと気がついた!」


「いや、昨日の朝から気がついてはいましたけど」


 いつも1つに結いていた長い金髪が肩まで切られていた。

 これだけ切っていれば気が付かないはずがない。直接言っていなかったのは言うタイミングがなかったからというだけだ。


「どうかな?似合ってる??」


「アーニャで見慣れていたはずなんですけど、やっぱり女性で髪が短いのはインパクトありますね」


「…へ、変かな??」


「ポルメイウス市でショートヘアが流行りそうです」


「あはっ!もっと素直に褒めればいいのに!」


 かわいいと褒めたら褒めたで『あ、浮気だ!リーシャに言っちゃおー』とか言われるだろうし、こういう時どうしたらいいのだろう。

 アーニャは女性がイメチェンしたらとりあえず褒めとけと言っていたが、褒め方までは教えてくれなかった。まあアリシア先輩の機嫌は良さそうだしそこまで間違えてはいないはずだ。


「どうしてそんなにばっさり切ったんですか?」


「えー?どうしてだと思う??」


「アーニャとお揃いにするため?」


「んー1割正解かな」


「残りの9割は?」


「それを聞いちゃ野暮ってもんよ!」


 人差し指で唇を押さえられる。

 危うくドキッとしたことが表情に出るところだった。


 俺はリーシャ一筋だから何してもいいと思っている人が結構いるが、普通に心が揺さぶられるからやめてほしい。


 俺はリーシャ以外の人に全く心が揺れないような鋼の心があるわけではない。そもそもリーシャと付き合うことになった時点でもアーニャにも惹かれていたくらいの男だ。

 体や態度に表さないのは理性で抑えてるからだけであって、別に興味がないわけではないのだ。


「トゥリーまたアリシア先輩とイチャイチャしてる…」


「イチャイチャはしてないし、またってどこからきたの」


「なんかトゥリーとアリシア先輩って最近距離近いじゃん。夏休みも何回か2人で会ってるし…」


「剣の稽古つけてもらってるだけだって」


「でもさっきのアリシア先輩のはちょっと…。アリシア先輩みたいにイケイケの人からしたら普通なのかもだけど…」


 それを俺に言われても。


「アリシア先輩とは全くそういうのじゃないから大丈夫だよ。不安にさせてごめんね、もう少し気をつける」


「…私も朝からめんどくさくてごめんね。アリシア先輩もごめんなさい…」


「んー??んーーーま、いっか!」


「!? え、い、今の反応なんですか!アリシア先輩トゥリーのこともしかして!!?」


「んー??どーかなー??」


「だ、だめです!!渡しませんからね!!」


 朝から美女に囲まれてご飯を食べる。男冥利に尽きることだとかなんだとかアーニャはよく言っていたが、実際そんなにいいもんでもない。アリシア先輩はリーシャで遊んでるだけだが、リーシャはそういうのを本気にしちゃうタイプだからこの後また少しめんどくさそうだ。


 朝食のメニューはパン、スープ、骨つきソーセージ×2、サラダ(葉物)、ポテトサラダ。普段家で食べるよりちょっとだけボリュームがある。

 今日の予定は朝一で領主様の屋敷に行って挨拶、その後屋敷内の自由行動となっている。屋敷にはいろいろなジャンルの一流がいるから好きなところへ行って学んで欲しいということだ。昼食をパークス家の皆様と食べた後はまた屋敷内の自由行動。夕方に部員全員で大浴場に行って風呂に入り、宿に戻ってきて夜ご飯を食べて終わりとなる。


 唯一堅苦しく感じる領主様への挨拶だが、この挨拶の本来の目的はドルモンドとテタの紹介だったらしい。昨日会って一緒に授業を受けたのは急な予定変更とのことだ。

 だから本当に顔を合わせて一言二言話すだけの挨拶になる。今日のスケジュールのほとんどは屋敷内の自由行動だ。



「トゥリーはやっぱり屋敷では剣術を教えてもらうの?」


 アリシア先輩はフォークを使わずにナイフだけで器用にソーセージを切り分け、剣の達人アピールをしてくる。俺が同じことをしようとしてもソーセージが皿から飛んで終わるのが落ちだろう。同じ刃物を使っていても使用者によって切れ味は全く変わるものだ。


「体術を教わろうかなと思ってます。せっかく現役の騎士様に教えを乞える機会ですし」


「体術?」


「地道だけどやっぱり基礎を底上げしてもらうのが1番かなって」


 昨日ドルモンドとも話をしたが才能に劣る人間は根本的な体の動かし方が下手だ。剣の構え方や振り方以前に、相手とどう向き合うかというレベルの基礎的な段階で『天才』達とは差がある。


 センスがないのは仕方がない。

 ただ、センスがないのなら一丁前に自分の考えで動こうとしてはいけない。センスがないのなら天才達が創り出してくれたセオリー通りに動くのが1番なのだ。


「えーなんか勿体無い気もするなー」


「アリシア先輩は何を?」


「私は屋敷にいる騎士様全員に試合をお願いしようかと思ってるよん」


「うわ」


「うわってなんだし」


 言ってることあまりにも非常識ですよ。


「リーシャは?」


「私はトゥリーについていこうかな??」


「リーシャが興味あるようなことじゃなくない?」


「そうでもないよ?魔術に比べたら優先度は低いかもだけど」


「じゃあ魔術を教わりに行ったほうがいいよ」


「うーん、失礼だとはわかってるんだけど私のことを1日で成長させられる氷魔術師さんっていないと思うんだよね…」


「なるほどね。じゃあ聞くだけ聞いてみていなかったら……あーでも氷魔術師の方がいたにはいたけどそんなに教わりたいほどの方じゃなかったって時に断り辛いか」


 氷魔術師の方いますか?って聞けばまず間違いなくいるだろう。でも多分リーシャの言う通り1日でリーシャを成長させられるような方ではないだろう。

 思っていたよりずっと難しい問題だ。


「ドルモンド様に聞いてみればいいんじゃない?」


「それが一番無難ですね」


「な、なんて聞けば失礼がないかな??」


「俺から聞いてみるよ」


「! ありがと!!」


 俺からすれば大したことじゃないけど、リーシャからするとドルモンドに尋ねるのは難易度が高いだろう。

 別に普通に聞けばいいだけなのだが、リーシャは真面目すぎるから変にかしこまって難しくなってしまうのだろう。


「ごちそうさま!!じゃ、私は寝癖直してくるからお二人はごゆっくり〜」


「出発までゆっくりするほどの時間はないですけどね」


「わわ!急いで食べちゃわないと!!」


 リーシャは上品に一口ずつ切り分けて食べるうえに、その一口がめちゃめちゃ小さいから時間がかかる。さらに、喋りながら食べられないタイプだからほとんど進んでいない。


 俺は食べ終わっているし、ずっとリーシャが食べているのを眺めているだけというのは退屈になってくる。


「切り分けて口まで運んであげようか?」


「!い、いいよっ!そ、そんなことしないでもだいじょぶだから!!、!」


「そうやって揶揄ってたらリーシャ食べ終わらないよ」


「なんだいたんですか先輩」


「え。なんかあたり強くない?寝癖直し終わったから帰ってきただけなんだけど」


 2人でごゆっくりとか言っておいて帰ってくるのは普通に犯罪だろう。俺だって人に見られたくない時というのはある


 アリシア先輩の後ろの方でカサディンが立ち上がって部屋全体を見回しているのが目に入った。


「ガキども全員食い終わったか」


「すいません。リーシャがまだです」


「何やってんだ狐。魔術師様は上品すぎるから食うのが遅えんだよ。ソーセージなんてかぶりつけ」


「女の子に無茶言うんじゃ無いよこのバカタレが!!」


「あ、あねさん!!でももうすぐ出発の時間なんですよ!!」


「まだあと10分あるだろ!!怒鳴ってる暇があるなら片付けと準備を済ませときな!!」


「別に俺怒鳴ってないですよ!!!」


 キシルスさんの中で完全に「カサディン=バカ」というのが成立しているせいでカサディンが若干不当に怒鳴られる。正直今回は食べるのが遅いリーシャにちょっかいを出し続けた俺とアリシア先輩にも非があるし、カサディンもただ早く食べろと言っただけだからカサディンは悪くない。

 ちなみに怒鳴ってるのはカサディンじゃなくてキシルスさんである。


「昼ごはんの時は頑張って急いで食べようね」


 リーシャがパンを噛みながら頷く。

 



 朝から惚気て悪いが俺の彼女は多分世界で1番かわいい。

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