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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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閑話 見合い




「誰が見てるわけでもないし、堅苦しいのはやめようよ」



 ――白馬に乗った王子様みたいな人。



 この人を説明するのに1番適切な表現だと思います。


 別に私は頭がお花畑な少女じゃないですし、そんなものを求めていたわけではありません。一般論としてそんな感じかと思っただけです。


 とりあえずみたいな金髪碧眼、当たり前のような高身長、見るからに高価な装い、下心なんて全く感じない視線。


 お互いの両親を含めた6人での食事を終え、2人だけで対談する時間になりましたが、いまのところこの人の悪いところは一つも見つかりません。ちょっとだけ距離が近い気はしますが、私が人嫌いなだけでこのくらいが普通なのかもしれません。

 

 悪いところなんてひとつもありませんけど、得意なタイプでもありません。悪人よりはずっとマシですが、全く欠点がないというのも気味が悪いものです。


「いえ、私のような者が格式高い…………なんですか、いきなり?」


 ソファの隣に座る彼が唐突に手を握ってきました。

 何で向かい側じゃなくて隣に座るのかと思っていましたが、彼は物理的な距離を縮めれば心理的な距離も縮まると思っているようです。

 彼が距離を縮めようと思った女性は私が初めてなので、残念ながら行動パターンが読めません。


「私が堅苦しいの苦手なんだ」


「そうですか、じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね。私も得意ではないので」


 私も息を抜きたくなっていたのでちょうどいいです。


 食事からこれまでかれこれ3時間。

 お見合いの準備から合わせると5時間程度気を張り続けていました。ただでさえ人と話すのは疲れるのに、お見合いともなると私には負担が大きすぎます。


「思っていたのと違ってガッカリしましたか?」


「イメージとは違うけどガッカリしてはいないよ」


 私も成長して社交会や学校内では愛想良く振る舞えるようになりましたので、彼にとっての私のイメージはもっと見た目にふさわしい女の子らしい女の子だったのでしょう。それこそ『お姫様』みたいな。


「好みの女性を教えていただければ、それに近づけるように努力はします」


「……好みの女性、か。 ――スノウは私と婚約をすることに不満はないのかい?」


「不満もなにも、結婚していただきたいと思っています」



 ――レオニア・ヨン・パドリクス

 

 パドリクス家の次代当主であり、当代『王剣』。


 王家は私という異常個体を王家に嫁がせるかパドリクス家に嫁がせるか深く悩んだそうですが、最終的にはパドリクス家に嫁がせることに決めたそうです。


「違う。君の両親が結婚させたいというのは君の意思じゃない」


「両親が望んでいるのは国王陛下がそう望まれているからです。国王陛下が望まれているのなら、それが私の願いです」


「なら君は、陛下に結婚しろと言われればどんな奴が相手だったとしても従うのかい?」


「そのように言っていますが?」

 

 彼は無意識でしょうが、案に自分なら納得できるのはまだわかると言っています。そう思えるだけの人間ではあると思いますし、ナルシストでも不快だとは思いません。



「――いや、嘘だ。君は私との婚約を望んでいない」


「なんですか、それ?あなたのような人間が自分を卑下しても嫌味にしかなりませんよ?」


「君は他人の過去を見て人のことを理解するらしいけど、私は他人の目を見て人を理解する。 ――君は嘘をついている。本当は婚約なんてしたくないんだろ?」


「ユーモアのあるアピールですね。生憎ですが目を見たらわかるとか佇まいを見たらわかるとか、血液型がどうとか星座がどうとか、そういうオカルトみたいなの信じてないんです、私」


「どうしてそんな頑固に……。私が強引な婚約を望むような人間に見えるのかい?」


「少なくとも私は、結婚してもらいたいと思って貰わないと困ります」


「なら少なくとも私は、自分の本心を話してもくれないような人とは結婚したいと思わない」


 いいえ、それこそ嘘です。

 あなたの願いはより強い子孫を生むことです。『王家のためのパドリクス家』のために生きることがあなたの誇りですから。


 何でそんなに私の本心を聞きたがるんですか?

 王家のために生きたいって、あなたと全く同じじゃないですか。なにもおかしくないでしょう。


「『本心ではあなたと結婚したくなんてありませんよ。ずっと昔に会った方に今も心を奪われたままなんです』って言えば満足なんですか?私は心の底からあなたと結婚したいと思っているのに」


「周りの人間にも自分の気持ちにも嘘をついて、自分だけが不幸ならそれでいいと悲劇のヒロインぶっても、誰も幸せにはならないよ」


「…」



「婚約は君だけの問題じゃないんだから、独りよがりの悲劇で完結させないでくれ。私は君と話がしたいんだ」








「…………なんですか、それ。私がいつ悲劇のヒロインぶりました?」



 私が悲劇のヒロイン?





「好きな人を諦めて、自分が1番幸せになれると納得できる婚約をすることがそんなに悲劇ですか? あなたみたいな恵まれた人間はどれほどの数の人が失恋を経験しているかも知らないのかもしれませんけど、失恋なのかは別として初恋の人と結婚するなんて人はほとんどいませんよ。今この瞬間にも沢山いる『一般的な夫婦』を見てあなたは『不幸』と言うんですか? 確かに私は王家のために生きること自体が願いではありません。でもそうすることでしか守れない『幸せ』があるんです。叶わない恋を追い続けるのをやめて、今ある幸せを守るために生きることが悲劇ですって?ふざけないでください」


「…例え初恋の人じゃなくても、好きな人と結婚するのと好きでもない人と結婚するのは明確に違うと思う」


「ああ、確かに悲劇かもしれませんね。この人なら私のことを幸せにしてくれるかもと思っていた人がこんなにも浅慮な人だったなんて。大体あなたに言われたくありませんよ。あなただって好きでもない人と婚約しようとしてるじゃありませんか」


「私は家のために、国のために生きることが何よりの幸せだ。恋愛感情なんてのはわからないけれど、私がこの世で1番結婚したいと思う女性は君なんだ。 ――でも、」


「だったらなにも言わずに結婚してください。それで2人とも幸せになれます」


「でも、今日君と話をして、こうやって君のそばにいて、君に幸せになって欲しいと思った。大切なものが壊れないように怯えている君を守ってあげたいと思った」



「……だったら」




 だったら…








「………………スノウ?」




 やめてください、その情けない声。




「……私、大切な人がいるんです」


 たった1人の友達。


「昔の私に言ったら絶対信じないと思いますが、いま幸せなんです私。生まれる前もこんなに幸せな日々はありませんでした」

 

 私がお見合いなんてしたくないとか、婚約なんて嫌だとか、自由に恋愛したいなんて言ったら簡単に壊れてしまう。



 家族と食べる食事がおいしいと感じます。

 世話係のメイドと話すのが楽しいと感じます。

 魔術を教わりにくる弟を可愛いと思います。

 父と社交会に行くのも悪くないと思います。


 カレンといると幸せだと実感します。


 別にいいんです。

 どうせ叶わぬ恋でしたし、結婚相手を決められるくらいで今の幸せを守れるなら本当にいいんです。結婚相手だって悪い人間じゃないんですから、本当に幸せだと思っているんです。



「すまない。泣かせるようなつもりではなかったんだ…」


「いま改めて失恋を受け止めたところなんですから、抱きしめて胸の中で泣かせるくらいしてくださいよ。婚約者でしょ?」


 隣に座ったり手を握るのは平気なのに、泣いている女性を抱きしめることも出来ないんですか。オロオロした挙句握った手に力を込めるのやめてください。痛いです。



「……私はスノウがなにに怯えているのかわからないけれど、それがなんであったとしても絶対に君を守るよ。私は王国で2番目に強いんだ」


 力が強くてどうにかなる問題だったらとっくに解決できていますし、2番目ってのは正直ですけどカッコ悪いですし、決め台詞としては落第点です。

 完璧だと思っていましたが、案外この人も抜けたところのある可愛い人なのかもしれません。


「それから、私は君が婚約してよかったと思える男になるよ。今はまだ君の想い人には勝てないかもしれないし、6つも歳上で伸び代も少ないけれど、誰よりも君を幸せにしてみせる。私が君にとって本当に結婚したい相手になれば、2人とも幸せになれるんだ」



 抜けているし、思っていたよりずっと体育会系の人。

 私はあなたが何をしてくれるまでもなく今が幸せだと言っているのに、幸せにしてみせるっていう口説き文句はなんですかまったく。

 脳の代わりに筋肉が詰まってるんじゃないですか。



「まあ、期待はしないでおきます」



 これ以上幸せにできると言うのなら是非やってみてください。


 

 

パドリクス家は第一貴族の中で最も身体能力(魔力も含め)の高い家系です。それゆえにパドリクス家は王国の番犬という役割を果たしています。


『王剣』というのはパドリクス家の中で最も戦闘力の高い人間に渡される異名です。


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