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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第一章 僕爆誕
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第五話 センチメンタルなのである



 ―楽しい時間はなぜあっという間にすぎるのだろうか―



 いや、理屈的な意味ではなくセンチな意味での話である。



 僕がこの世界に生まれてから間違いなく一番楽しい日だった。

 父と母がソワソワしているのを笑いながら見ていた朝も、トゥリーに教育を施した昼も、父とセドルドさんを待っていた夕方も、



 みんなで豪華な食卓を囲んだ夕食もあっという間に終わってしまった。



 母の膝の上ではケーキは食べられないなーとか思っていたら、母は食べたそうにしている僕にスポンジを少しくれた。うちの母は『あまあまのあ(まま)』なのである。


 父もセドルドさんもお酒を飲んですごいテンションになっていた。母もカラさんも普段なら注意しそうなのに今日は笑って見ていた。



 食事が終わるとプレゼントの時間になった。



 父と母からは『黒猫のぬいぐるみ』だった。



 尻尾を入れた全長は30cmくらいで、赤ん坊の僕が持つと結構な大きさだ。

 毛皮は魔獣のお腹のものが使われていて、手触りがいいだけでなく、とても丈夫なのだ。

 そしてなんと、中のビーズには水晶玉と同じ素材のものが混ぜられているため、黒猫を動かすことができるのだ。


 めっちゃくちゃ嬉しかった。


 僕は猫派だし、可愛いぬいぐるみがそもそも好きなので、見た時からドストライクだった。さらにそれが動かせるのである。もう超嬉しい。こんなに僕がピンポイントで欲しいプレゼントが来ると思っていなかった。プレゼントなんて何を貰っても嬉しいのに、ここまでドストライクなものが来たらそれはもう、もうである。


 プレゼント袋を開けた瞬間を一生、いや、転生したとしても忘れないだろう。



 カラさんとセドルドさんからは『本』と『靴』だった。



 魔術の才能があることも、歩けることも知っていたから『初級魔術の本』と『お洒落な靴』をくれたのである。


 これもピンポイントに僕が欲しいものだった。


 魔術の本はついに!といった感じだ。


 転生したのが異世界だと気がついた時からずーっとやりたかった魔術の練習を、僕はついに始められるのである。


 まあ、まさか僕が字を読めるとは思ってもいないだろうし、母に呼んでもらえって意味なのだろう。


 魔法ではなく魔術と訳した理由は、属性的にそっちの方がしっくりくるからだ。

 うまく言えないのだが『魔力を正確な術式を用いて使用することで発動する』といった感じなので、魔法っていうには少し理論的すぎるのだ。


 そして靴である。


 靴が何でそんなに欲しかったかというと、母に抱っこしてもらうことなく、外を移動できるようになるからである。

 母はもうそろそろ僕を抱っこすることが難しくなるんじゃないかと思っているので、なるべく負担をかけたくないのだ。


 2つとも、本当に僕が欲しかった実用品だったのだ。飛んで跳ねて喜びたかったが、僕はまだジャンプできないので、猫を跳ねさせた。



 父と母は僕が一番喜びそうな趣味のものを、カラさんとセドルドさんは僕が一番欲しがりそうな実用品を選んでくれたのだ。

 どちらも『らしい』といった感じでくすりと笑ってしまう。



 僕だけがプレゼントを貰っていたのでトゥリーが泣き出してしまった。

 しかしどうやらそれは想定済みだったようで、トゥリーの誕生日プレゼントも用意されていた。5日後のトゥリーの誕生日は食事だけにするらしい。


 父と母からは水晶玉と同じ素材が少しずつ埋められた、角の丸い『積み木セット』、カラさんとセドルドさんからは僕とお揃いの『靴』と魔術が施された『絵本』だった。


 トゥリーはその場ですぐに積み木を始めてしまって、靴と絵本には見向きもしなかったので4人とも大笑いしていた。

 そしてそのまま糸が切れたように寝てしまったのである。



 僕はずっと黒猫を動かしながら本を読んでいた。




――――――――――――――――――――――――――




 ―楽しい時間はなぜあっという間に()()()()()()のだろうか―




 寝ているトゥリーはカラさんが抱っこし、荷物はセドルドさんが持っていた。セドルド家に帰るのである。



 僕は父の腕の中で、黒猫を抱っこしたまたずーっと泣いていた。



 明日になればまたすぐ会えることなんて別にわかっているのだが、そういうことではないのだ。

 今日という1日が終わってしまうことがどうしても悲しくて、寂しくて、帰って欲しくないのである。




 魔法でどうにかならないのだろうか?おわらせたくないのだ。今日をおわりにしたくないのだ。





「…ぱぱぁ…」


「!? あ、あーにゃ!? おまえいまパパって… い、いや、どうした?」


「…っ…ぱぱぁ…」


 魔法が使えるのだろう。どうにかしてくれ。


「……アーニャ、また明日会えるから泣かないでくれ…。 今日は楽しかったか…?」


「…っひっ…う…うぇ…っ…」


「…まいったなぁ…」



 …ごめんなさい。困らせるつもりはなかったのだ。ただ寂しくて、名残惜しくて、仕方なかったのだ…




――――――――――――――――――――――――――




「アーニャ寝ちゃった?」


「…ん。寝ちゃったよ。 ははっ…まいったな…初めてパパって呼んでくれたのに何もしてあげられなかったや…」


「ね、ほんと」


「あれ、ちょっと厳しいよトリシア。俺も泣きそうなんだけど…?」


「私だって悔しくて泣きそうよ。なんでパパが先なのよー」


「いや、それはさぁ…」


「……まあでも、お別れが寂しくて泣いちゃうなんて、今日をすごい楽しんでくれたってことじゃないかしら? ぬいぐるみも気に入ってくれたみたいでずっと抱っこしてるし。 ――ふふっ。かわいいなぁ…」


「ははっ。そうだな。ここまで喜んでもらえると、めちゃくちゃ嬉しいなやっぱり」


「でもパパは最後の最後で頼りなかったもんねー」


「…うぐっ…」


「ふふっ、冗談よ。 アーニャのお風呂は今日はやめときましょっか。 明日の朝少しだけお湯沸かせて貰える? 汗が溜まったところを拭いてあげるだけだから、浴槽ごとは温め直さなくて大丈夫」


「ん。また明日の朝忘れずに言ってくれ。おれは忘れちゃいそうだ」


「はーい。 私たちもささっと入って寝ちゃいましょっか」


「そうだな。アーニャ布団に入れとくよ」


「起こさないようにそーっとね」


「大丈夫だよ」





「…ねぇロンド?」


「ん?」


「だぁーいすき」


「へへっ。おれも大好きだよトリシア」


パパとかママって発音しやすいですよね。

この世界でもパパとママはパパとママです。

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