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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第五十四話 謝罪なのである




――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――




「明日で2年生も終わりか。長いようで長かったね」


 1年生の頃となんら変わらない生活を繰り返し、ようやく今日終わりを迎える。正確に言えば春休みも別にやることなんてないので、3年生になるもうしばらくは繰り返しとも言えるのだが、まあそれはそれで別にいい。


「うーん、確かに長かったけど、最後の1ヶ月は早かったなぁ…。わたしはやっぱりちょっと寂しいかな…」


 僕以外のみんなもやっと終わりかとせいせいしているかと思えば、別にそんなこともない。

 というのは、2年生と3年生の間にはクラス替えがあるからである。僕的にはクラス替えはめちゃくちゃ正の要素なのだが、アラネーのように現状維持を望む一部の人達にとっては負の要素であったりもする。


「? また3人いっしょのクラスになるかもよ?」


 おもらシスターズの片割れであるサリアは良くも悪くも能天気に育ったので、あまりクラス替えで離れ離れになるということに危機感は抱いていないようだ。

 実際問題、3人が同じクラスになれる可能性なんていうのは低い。サリアが脳天気なだけで、アラネーの心配の方がどちらかと言えば正しいだろう。


「…そうだね、なれるといいんだけどね…」


 そしてアラネーは自分は僕と一緒のクラスになれないと確信している。誰かに教えられたというわけではないが、子供の感覚というのは大人の思ってる以上に敏感だ。なんとなくの雰囲気から読み取ったのだろう。


「クラス替えくらいでそんなに不安になる必要ないよ。大丈夫、クラスが離れても休みの日とか放課後にお話することなんていくらでもできるよ」


 自分で言っておきながらひどい慰めだ。

 クラスが変わってしまえば接点なんてほとんどなくなることを経験からわかっているくせに、今この空気に耐えられないから出まかせを言ったのである。



「…それにね、寂しいってのはちょっとうそなの。今までずっとアーニャちゃんに守ってもらってきたから、本当はアーニャちゃんのいないクラスが怖いんだ…」



 ――自己満足の慰めは的を射てすらいなかった。


 アラネーは友達と別れる不安よりも、新しい環境で虐められる可能性への恐怖に押し潰されていたのだ。

 弟子の心を正しく理解してあげることすらできず、思ってもいないことを口に出し、形だけの慰めをしてしまった。僕としたことがあまりにも情けない。


「アーニャはクラスがちがってもまもってくれるからだいじょうぶだよ。アラネーは心配しすぎ」


「そうそう。気にいらない奴がいたらすぐ言ってくれれば任せてよ。なんならクラスのトップにさせてあげよう」


 さっきの失敗に引きずられて、フォローが遅れるところだった。この手のフォローが遅れてしまっては逆に相手を不安にさせてしまう。例えるなら「浮気してないよね?」に対してワンテンポ遅れて「…してないよ」なんて言おうものなら、それは「している」という意味に捉えられても仕方がないという話だ。


「…ふふ!私がクラスのトップなんて、アーニャちゃんでも無理だよ〜」


 アラネーは冗談混じりの僕の言葉を聞いて少しだけ安心してくれたようだ。今回ばかりは脳天気なサリアに感謝なのである。


「無理なんかじゃないよ。この学年のトップがアーニャなんだから、アーニャの弟子をアーニャのいない方のクラスのトップにするなんて朝飯前よ」


 このフォローは形だけじゃない。クラスが離れてもアラネーをいじめるような奴がいるのであればかけつけて守ってあげるつもりは勿論ある。アラネーが舐められないように新学期初日に格付けしてあげるのも悪くないかもしれない。


「え〜、じゃあ、中学校になって他の学校の子達が来たらどうするの?」


「そんなの簡単だよ。入学式の後に他の学校の1番偉い奴らを呼びつけてボコボコにするね」


 必要とあらば本当にやってみせよう。アラネーのためというのもあるが、僕も舐められるのは嫌いなのである。後から面倒ごとになる可能性があるのであれば、初日に潰してしまおうという作戦なのである。


「暴力は反対だけどそれなら安心だね!」


「うん。アーニャはぜったいにまもってくれるから安心」


 まったく、僕1人ならそこまで野蛮なことはしないのだが、可愛い愛弟子たちのためだと思えば仕方ないことなのである。

 トゥリーと違っておもらシスターズは、なんかこう、守ってあげたくなるというか、カッコつけたくなるというか、まあ、やっぱり男の前より女の前でカッコつけたくなるのが男ってもんなのである。


「うむ!信じてついてきなさい!」


 例え中学校の入学式で2人とも漏らしたとしても守ってあげよう。それが師匠というものなのである。



「うん、信じてたよ!」



 うそつけ。さっきまでアーニャとクラスが離れたくらいで守ってもらえなくなると思ってたじゃないか。もっと自分の偉大な師を信じて欲しいのである。


 さっきまでのしんみり顔が嘘みたいに、アラネーは笑顔で僕を見つめてくる。

 アラネーもサリアも弟子というよりも、わんこみたいな感じだ。飼い主を見つめる忠犬のようにキラキラした瞳で僕を見つめてくるのである。悪い気はしない。




「信じてずっと待ってたよ。いきなり街からみんながいなくなったときも、アーニャちゃんがきっと来てくれるって!」




 アラネーはそのままの笑顔で話し始める。


 笑顔は変わらないのに、僕に対する感情はさっきまでと真逆のように感じられて、少しずつ怖くなる。



「知らない男の人が来た時も、服を脱がされた時も、爪を剥がされた時も」



 次第に世界が変わる。

 教室からアトリス通りへ。



「ずーーーっと、信じて待ってたんだよ?痛いけど、怖いけど、大丈夫だって。アーニャちゃんが助けに来てくれるって」



 アラネーの眼が地面に落ちる。

 地面に落ちてなお、輝いたまま僕を見つめてくる。



「ずっと、本当にずーーーーっっっと信じてた。信じてたんだよ」




 愛弟子は赤黒い肉塊へと変わる。









「――信じてたのに、アーニャちゃんは来なかったね」








――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――







「ゔっ!ゔぉえぇっ………!!」



「!? アーニャ大丈夫!?」


 いっっった!喉が痛い!鼻も痛い!

 肺にゲロが入った気がする!肺だけに!


「げほっ、げほっ!――さ、サリア、水!水、ちょうだ、うぷっ、おぇぇぇっ……!!」


 本当にやばいと思った時はすぐに体が動くもので、いつの間に自分が座ったのかわからないが、肺にゲロが入るようなことにはならずに済んだ。

 が、第二波が来たせいで自分の体に思いっきりゲロをかけることになってしまった。座ったことの弊害とも言えるが、肺に入るよりはマシだと諦めるしかない。


 久しぶりに嘔吐なんてした気がする。


 嘔吐自体久しぶりだが、寝ている時に吐くのは初めてだ。喉も鼻も痛いし、ゲロが臭いし、全身ゲロまみれでべちょべちょだしで気持ち悪い。

 精神的な面もあるが、もしかすると転生前も含めて過去1番気分が悪いかもしれないのである。


「待って、ゆっくり!急いで飲んじゃダメだからね!」


 サリアは背中に手を回して僕の体を抱き寄せると、水の入ったコップを口元に当ててくれる。サリアにゲロをつけてしまって大変申し訳なく思うが、今はそれどころじゃないので甘えさせてもらう。


 水を飲んで冷静になってくると、少しずつ頭が回り始める。どのタイミングで僕は寝ていたのか、なんでサリアがいるのか、最後の記憶はなんだったか。


 まずは場所の把握、家ではない。あ、保健室である。

 つぎは時間の把握、カーテンに囲われているので不明。


「あ、アーニャ大丈夫…?」


 心配そうに話しかけてくるのはアリシアパイセン。僕の周りにはサリアとアリシアパイセンとシャローナ先輩がいる。カーテンの外では保健教師のレラーザ先生とヨーグ氏が話をしている声が聞こえる。


 最後の記憶はなんだったか。アリシアパイセンのビッグバンアタック◯をくらったとこまでは覚えている。

 逆にそこまでしか覚えていないということはそういうことなのだろう。気を失うような痛みとかは特にしなかったのだが、まあ背中の肉が吹き飛んだのだから気を失って当然と言えば当然だろう。

 きっと何かしらかの防衛本能が働くのか、本当に気を失うような痛みを感じた時は、痛みを感じる前に落ちるのかもしれない。


「アリシア先輩は気にしなくていいですよ。部活の事故は全部顧問の責任ですから。今回の活動はもっと広いところでスペースを取ってやるべきでしたね」


 いつも元気なアリシアパイセンがこうも落ち込んでいると調子が狂う。今回の件を気にして、今後一生こんな感じになってしまったらむしろ僕が悪い気までしてきてしまう。怪我人が出ただけで済んだのだから、もう笑って終わらせればいい話なのである。



「こういうのは隠してもなんの意味もないから言うけど、右の肩甲骨あたりに割と大きく傷跡が残ってしまったよ。君たちの顧問が1番悪いのは勿論だが、テドルにも悪いところはある。怒りや恨みは燻らせず、すぐにぶつけるべきだと年長者として助言をしておこう」


 カーテンの外からバケツとタオルを持ってレラーザ先生が入ってくる。

 レラーザ先生が入ってきた時にカーテンの隙間から少しだけヨーグ氏が見えたが、相当こっぴどく怒られたようで目元を真っ赤にして泣いた跡があった。


「じゃあぶつけますけど、先輩達が気にしちゃうので傷跡のことは私だけに教えて欲しかったです。これで先輩たちとの関係が微妙な感じになったらどうするんですか。恨みますよレラーザ先生」


 まったく、背中に傷がついたくらいで大袈裟な。そのくらいで魅力が欠けるような僕ではないし、むしろ肩甲骨のあたりなら羽がむしられた感じになって堕天使っぽくてかっこいいまである。傷跡を確認してないからなんとも言えないけど。


 着替える時に背中を見せないようにしてたり、水着の時に傷を隠して上着を着てたりなんかする感じとか妄想は膨らむし、背中に傷があるというのも悪いもんじゃない。それについた理由が悪いもんでもないし。


「……確かに私がノーデリカシーだったな、すまない。どうか許してくれないだろうか?」


 レラーザ先生は少しだけ驚いたようだが、静かに笑うと僕の服を脱がせてくる。なんかエロい。


 あ、そういえば僕の服は◯ビッグバンアタックで吹き飛んだのだから今来ているのは治療後にレラーザ先生が着せてくれた保健室の備品ということになる。つまり僕がゲロをぶちまけたのは…いやそもそも布団もベッドもゲロまみれだし、いくら光魔術師のレラーザ先生が相手とはいえど迷惑をかけてしまったことは間違いない。


「…私が汚してしまった保健室の備品とおあいこってことでお願いします。あと私とサリアも綺麗にしてもらえると嬉しいです…ごめんなさい」


 ついでにサリアのトイレ掃除の件も許して欲しい。


「本心なのか気遣いなのかは詰めないが、君は出来た人間だね。お言葉に甘えさせてもらって、ローラムのトイレ掃除の件も含めておあいこにさせて貰うよ」


 ついでに許されたのである。


 まあ実のところを言えばレラーザ先生を責めたのは先輩達に気を遣わせないようにするためだ。直接気にしてないよと言い過ぎてもあれなので、先生に対して「関係を崩したくない」ということを先輩達にも聞こえるように伝えることで、ってことなのである。

 つまり、別にレラーザ先生に対して特に怒っていることは何もないので、一方的に何もかもが許されただけだったりもする。


「ヨーグ先生聞こえますかー?」


 あとはヨーグ氏を慰めれば一件落着といったところだろう。別にヨーグ氏に怒ってもいないが、今回の責任のありかを決めないとアリシアパイセンが苦しいだろうからヨーグ氏を責めるのである。


「!あ、あ、うん。聞こえますよ!」


 明らかにバツの悪そうな、弱った返事が返ってくる。少なくとも大人の男が出すような声ではない。情けない。


「女の子の体に一生消えない傷をつけたんですから、嫁にもらうくらいの覚悟はできてるんでしょうね?」


「!?」


 こらサリア、ハウス。

 安心しなさい。貰われる気なんて毛頭ないから。


「! こ、今回は僕の認識の甘さからきたものだ!本当に申し訳ない!本当に、本当に申し訳ないことをした!残りの人生を全て捧げて償わせて欲しい!!」


「いや、貰いたくもないから結構です。変に責任感じられて、教員辞職なんてされても面倒だから言っておきますけど、私は今回のことについて誰にも怒ってませんから、みんな気にしないで下さい。明日からも今まで通り部活を続けさせてください」


 本当に最後の言葉につきる。


 僕は誰かに謝罪も求めないし、賠償も求めない。ただ普通に今まで通りの活動を続けたいというだけの話なのである。

 逆に言って仕舞えば、これでヨーグ氏が教員を辞めたりして第二魔導部が中途半端に終わるのが1番嫌なのである。


「あ、でも明日からは校庭で活動したいかもです。体に傷をつけたいわけじゃありませんし、顔に傷跡なんて残ったらそれこそヨーグ先生を許せませんからね」


 顔に大きな傷跡なんて残ったらマジで発狂するかもしれない。なんのために第二魔導を学んでいるんだって話にもなってきてしまう。

 ああ、剣士は辞めててよかったのである。背中に傷のある剣士なんてなんとやらって話だ。


 まあ何はともあれ、これで一件落着だろう。何週間、まあもしかしたら何ヶ月かは少しくらいの距離が生まれるかもしれないが、そのくらいは仕方ないことだ。教員になりたてのヨーグ氏にとっても勉強になったのではないだろうか。


 僕の隣で優しく介抱してくれていたサリアがついに口を開く。全然一件落着じゃなかった。ラスボスが残っていたのである。



「アーニャは優しいからこうやって言ってますけど、私は先生を許しませんし、アーニャのご両親も許してはくれないと思いますよ?」



 いかんサリアがラスボスかと思っていたが、真のラスボスは家にいたのである。




――――――――――――――――――――――――――




 謝罪会場はマイハウスになった。

 学校に親が来る方が自然な気もするが、謝罪する側が相手を呼びつけるとはどういう了見だってことらしい。ちなみにそう言ったのはうちの親じゃなくてサリアである。


 これがなんだか大事になってしまったのだが、アリシアパイセンとそのご両親、ヨーグ氏とレラーザ先生、それから何故かサリアがやってきた。

 人数的な問題もあるのでシャローナ先輩とそのご両親は別日に来てもらうことになった。来なくていいと言ったのだが、ちゃんとお礼と謝罪をしたいということだ。一体何を謝るつもりなのかは知らない。


 まずアリシアパイセンとテドル夫妻からの謝罪があった。


 長く引き止めるのも悪いし先に聞きましょうっていうことである。この発言をパパがした時点でヨーグ氏が簡単に返してもらえないことはわかった。

 だが、テドル夫妻は全て終わるまで残らせて欲しいと言ってきた。被害者側が気にしてないと言っても加害者側が気にしてしまうというのはある話なのである。逆もよくある話だが。


 まあとは言っても、パパもママもアリシアパイセンには全く怒っていない。魔術を学ぶ上で失敗が起こるのは当然のことだから、失敗したこと自体を責めるのは違うってことらしい。当たり前の話である。


「若い若くないは関係ない話で、その道に詳しいというのであればどのくらいの場所が必要かということくらいわからなかったのか?こういった事故が起こる可能性というのは全く考えられなかったのか?」


 つまり、怒りの矛先は全てヨーグ氏の方に向かうわけである。事故を防げなかったというのは全て指導者の問題であるということらしい。まあ当たり前の話である。


 1番ブチギレているのはパパだ。同性同士の方が怒りやすいというのもあるのかもしれないが、ママが静かに謝罪を聞いていたのに対して、パパは謝罪の途中で舌打ちをしたりしていた。器が小さいのである。


「自分がめんどくさかったからなのか知らないけど、危ないことくらい分かってたんならもっと広いところでやれよ。なあ、人の家の娘に傷つけてどうやって責任取るつもりだよ?」


 僕の嫌いな説教ランキング1位『疑問系』。

 何かを答えなければ「黙ってんなよ」と怒られ、何かを答えたところで怒られる。

 今回の例だとどういう答え方をしたところで「てめぇの〜で責任なんて取れるかよ!」と言われるのがオチだろう。最初から怒ることが目的の質問なんてめちゃくちゃ性格が悪いと思うのである。

 ちなみに、僕は人に怒る時にこの『疑問系』を多用する。理由は1番メンタルに効くからである。


「謝罪を聞いてみれば、やれ『認識が甘かった』だの、『こんなことになるとは思ってなかった』だの。可能性があることくらいわかってたんだから机の移動とかさせたんだろ?嘘つくんじゃねえよ」


 ヨーグ氏はインドア系の若者なので、パパみたいなタイプに怒られて耐えられる耐久値はない。すでにメソメソ泣いて可哀想な感じになっている。なんならママはもう半ば同情している。


「なあ、なんで謝罪しに来たって言って嘘ついたんだよお前。この期に及んで自分の罪を少しでも軽くしようと思ったのか?ちゃんと『サボって教室でやらせました』って言えよ」


 テンプレート説教構文「〜って言えよ」。

 そんな風に思ってないと言えば、嘘つくんじゃねえよと言われるし、そのまま〜って言えば罪が重くなる。実質選択肢のない2択を強いることで相手のメンタルにダメージを与える技だ。


「なんでお前が泣いてんだよ!!被害者なのかお前は!?加害者だろうがよ!!」


 泣いている相手に対して、「泣けば済むと思ってる?」っていう風に言ってくる人は、意外と泣かれて心に来ていると思う。

 経験に基づく考えなのだが、生徒に泣かれた時に「泣けば済むと思っているんですか?」みたいに言ってくるおばさん先生の説教はその後数分で終わったりすることが多い。


 逆に、今回のように泣いていることに対して怒鳴ってマジギレしてくるタイプは泣かせてからが長い。つまりまだ長いということだ。


「(ママ、ラファあがったみたいだし、私とアリシア先輩はお風呂に入ってくるね)」


 なんで僕が大人の男が自分の父親に怒鳴られているのを見ていないといけないのかわからないので、ここから抜け出して風呂に入るのである。ついでにアリシア先輩のメンタルケアもしてあげないとである。


「(お風呂から上がったら寝てもいいからね。まだずっと時間かかるだろうし、アリシアちゃんにも今日は泊まってもらって)」


 ママは少し泣きそうな顔をしながら、優しく僕の背中を撫でる。やっぱり僕の背中に傷痕が残ってしまったのが相当心に来ているようだ。僕は子供がいたことがないからわからないのだが、自分の背中よりも子供の背中というのは大切なものなのだろうか。


「アーニャごめん2人で入ってきて。私も先生に言いたいこと沢山あるし、アーニャの前で言いたくないこともあるから」


 うん大丈夫。絶対そう言うと思ってたから最初からサリアを誘う気はなかったよ。

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