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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第四十九話 一方その頃なのである

――――――――――――――――――――――――――


 side : サリア




 むむむむむむむ…


 自分の席から1番離れたところにいる2人が気になって仕方がない。だって、アーニャが悪ガキとイチャイチャしてる…


「あの〜…ローラムちゃん…?」


 隣の子の名前はカユ・ドルフ。犬系の獣人で風魔術師。

 好きな食べ物はドングっていう獣人のメジャー料理。いろんな野菜と川魚と玄米を一緒に煮込んだものらしい。嫌いな食べ物は生魚。生魚が好きな獣人は多いけどカユは嫌いらしい。

 毛の色は焦茶で、ふわふわしていてかわいいと思う。犬耳も垂れ耳でかわいい。ちょっとだけ顔はアーニャに似てる気がする。だからかわいいのかも。


「…は、ハレアちゃんすごくかわいいね!初学校でもモテモテだったんじゃない?」


「そうだね。アーニャはモテるよ。いまも、ほら」


 それにどうやら賢そう。

 アーニャの話なら私が答えると考えたぽい。


「…ハレアちゃんが心配だね」


 アーニャの隣の悪ガキは昨日獣人に対して差別的な発言をして、喧嘩を売ったやつだ。カユはきっとあいつのことが苦手なんだと思う。明らかに嫌そうな顔をしているし。


 それもそのはず、昨日あの悪ガキは『獣のくせに弱えのな!』とか『強えだけが取り柄なのに弱えなら森に帰れよ!』とか『本当に人間と並んで勉強できんのかよ!?』とか、それはまあひどい暴言をはいてた。トゥリーが止めなかったらもっと酷いことを言ってたと思うし。


 あ、そうだ。

 なんか、ケシ村の子達のトゥリーを見る目がハートマークだしそのあたりちょっと聞いてみーよお。


「まあ、誰が言い寄ってこようと無駄なんだけどね。アーニャにはトゥリーっていう婚約者がいるし」


 きっと『えぇ!?あの2人って婚約してるの!?嘘だよ!サリアちゃん!?嘘って言ってよ!』みたいな感じになると思う。にしてもトゥリーもモテモテね。


「…ぇ?…あ、そか。そうなんだ…あはは、ばかだなぁ私…」


 ありゃ。ミスっちゃった。


「うそうそ冗談。アーニャとトゥリーはそんなんじゃないよ。カユが可愛いから揶揄っただけ」


 いやだって、出会って2日でそんなにマジ恋してると思わないじゃん。


 犬系の獣人の子が落ち込むと尻尾と耳が露骨に垂れるからすぐにわかるし、なんだかすごく悪いことをした気になってきてしまう。

 逆に喜んでいると尻尾をふりふりするから、そっちもわかりやすい。トゥリーの隣の犬系の獣人の子は真っ白な尻尾をずっとふりふりしてる。


 残念ながらトゥリーはアーニャ一筋だから基本的に希望はないんだけどね。アーニャはトゥリーに全く興味がないし、もしかしたらという可能性はあるけど。

 でもきっと、アーニャを諦めたトゥリーを射止められる子がいるとしたらラファか2組のあの子くらいだと思うし、やっぱり希望はないかな。


 ちなみに、私はアーニャを射止め切れると思ってる。

 アーニャはまだ恋心とかそういうのをわかってないみたいだけど、明らかにその辺の男子生徒諸君よりも私に脈がある。アーニャは優しすぎるし、このまま私が強引に押し続ければ多分なんやかんやでうまくいくと思う。


「も、もう!勘違いしないでね!別に、そういうことじゃないからっ…!」


「はいはい。わかってるわかってる。トゥリーはめちゃくちゃ倍率高いから頑張ってねー」


「だから、違うってばぁ!も〜!ローラムちゃんのいじわる!!」


 何だかまた揶揄いがいのある友人ができた。

 トゥリーも面白いけど、カユもかなり面白そう。



 ――て、あ!!あの悪ガキ!だれの許可を得てアーニャの髪を触ってんだよ!!ぶっ殺すぞ!!






――――――――――――――――――――――――――


 side : トゥリー



 俺、なんかしたかな?


 嫌なやつに聞こえてしまうかもしれないが、正直に言って去年くらいから自分に惚れた女の子というのはわかるようになった。わかるようになってみると、あの時からもしかしたらあの子は俺のことが好きだったのかもな、というのもなんとなくわかる。


「トゥリー様はお魚はお好きですか!?うちの家は生魚を中心にした料亭をやっているんです!」


 で、この子、リーシャ・ユティは多分俺に惚れてる。

 いや多分てか明らかにそうだと思う。狐みたいな形をした純白の耳はずっと嬉しそうにピクピク動いてるし、尻尾もずっとふわふわ揺れている。


 だが、どうしてこうなったのかはわからない。俺は初日から喧嘩した不良みたいなもんだし、顔は半分潰れてるし、戦えば多分リーシャよりも弱い。

 考えられる可能性は喧嘩っ早い不良が好きだという線だ。俺が喧嘩したやつは獣人差別主義者だったし、そうなると消去法で俺が好きになってしまうわけだ。


「魚は大好きだよ。リーシャのお店に行ったらリーシャの手料理が食べられたりするのかな??」


 今となってはいい思い出だが、5年前くらいにラファに手料理を出してもらったことがある。男として食べないわけにはいかなかったのだが、食べる前から危険だとわかる見た目をしていたし、案の定その日の晩お腹を壊した。

 ラファはそれから料理の勉強をこっそりとしているようなのだが、まだ食べさせてもらえていない。


「!? え!?い、いや!まだ私は修行中だからお店では…!で、でも!私のお家にきてもらえたら…その、まだママみたいには上手じゃないけど…な、なーんて!あは、あはは…」


 対するアーニャの手料理は丁度3日前に食べた。今まで食べた料理の中1番美味しかった。もっというと、人生で1番幸せな時間だった。入学直前にいつもの4人でピクニックに行ったのだが、その時の弁当を全部アーニャが作ってきてくれたのだ。母さんには悪いけど、俺は一生アーニャの手料理を食べて生きていたい。


「大きくなったら家の店を継ぐの?」


 かといって、俺が『一生飯を作ってくれ』なんて言ったらそれはもうプロポーズになってしまう。別にプロポーズをしても構わないといえば構わないのだが、今しても絶対にokを貰えないからしたくない。

 それとなくまた食べたいということを伝えたら、気が向いたら作ってくれると言っていた。あと俺にできることはアーニャの気が向くのを待つことだけだ。全てのことに関して。


「はい!私はうちの店が大好きなので! ――まあ、獣人はみんなハンターになった方がいいんでしょうけど…」


「そんなことは絶対にないよ。むしろリーシャのお母さんはリーシャがハンターになるより店を継いでくれる方が嬉しいんじゃない? あ、こんなこと言ったらリーシャがハンターになりたくなったときに気にしちゃうか」


 気が向くといえば、サリアは明らかに俺が恋敵なのをわかった上でおちょくってくる。自分の方にアーニャの気が向いている自信があるから、あの余裕があるのだろう。別に嫌いではないし、友達だとは思ってるけど、ムカつくやつだ。


「…トゥリー様はやっぱり優しいですね…」


 エディーがサリアのことを好きなんじゃないかみたいなことを一回アーニャに言われたことがあったが、そんなことはないと思う。一時期エディーは俺とサリアが言い合ってるのを止めるみたいなことにハマっていたが、あれはある種の厨二病?みたいなやつで最近はめっきりそんなことはなくなった。


「…トゥリー様!」


 正直エディーはいま自分磨きに夢中で恋愛には全く興味がないように思う。元の才能というのもあるけれど、全てを自分磨きにかけるようになってからまた一段エディーは強くなった。


「ん?」


 俺は昔からずっとアーニャに追いつくために必死だ。強くなるのも、勉強をするのも全てはアーニャに相応しい男になるため。そんな不純な動機だから強くなれないのかもしれない。

 アーニャを想うから強くなりたいのに、強くなるためにはアーニャを想う気持ちが邪魔になる。どうしようもないジレンマだ。



「私、あなたが好きです!!すぐに答えが欲しいなんて言いませんが……わ、私とお付き合いして欲しいです!!」



「え?」



 え?どうしてこうなった?






――――――――――――――――――――――――――


 side : エディーレ




「あたしはあんたが学年代表とは認めないから!」


 隣席の女子生徒が嫌に高圧的な態度で話しかけてくる。学年代表に選ばれた以上、こういったプライドの高い人から絡まれる可能性があることくらい分かっていたが、この後すぐにお互いを紹介しあわなければならないという状況でわざわざ敵対してくるとは思わなかった。


「発言の意図がわからないな。君が認めるも何も俺が代表なのは事実であって、個人の考え方や受け止め方で変わるものではないと思うんだけど」


 この女子生徒は俺とまともに話し合うつもりは無さそうだし、他己紹介をすることは諦めて、俺はちゃんと仲良くなろうとしたんだという体裁を整えることに専念しよう。


 人が生きていく上で最も大切なのは他者からの評価だ。

 例えば、今ここで俺が彼女に対してどんなに酷い対応を取ろうが、今まで築き上げてきた俺の評価や、その後の外部への接し方次第では彼女のことを一方的な悪役にすることができる。いや、むしろ彼女を一方的な悪役に仕立て上げたほうが俺にとっては都合がいい。


「…っ!あんたよりももっと相応しい人がいるっていってんの!」


 感情的になって声を荒げてくれれば好都合。

 俺達の席は教室右端最後列。各々が話し合っている状況下では遠くの席の人から目立つほどの大事にはならない。それでいて、近くの人には彼女が声を荒げ、俺が嗜めていたという状況が伝わる。


「…まいったなぁ。どうしたら他己紹介の準備を一緒にしてくれるの?感情に流されて何をすべきかが分からなくなるようでは学年代表なんて絶対になれないよ?」


 形だけの嗜め。当然彼女にだってそのくらいのことは理解できる。俺だってわかりやすく煽ってあげてるんだから、もっと感情的になってくれないと困る。


「あたしがなりたいなんていってない!!あんたみたいな卑怯な男よりももっとふさわしい人がいるっていってんの!」


「で、君が俺よりも相応しい人がいると思ってて…それで何? ――あれ、俺がさっき言ったこと覚えてるかな?」


 君が認めるも何も俺が代表なのは事実であって、個人の考え方や受け止め方で変わるものではないと思うんだけど。もう一度同じことを言ってあげてもいいが、この発言は好戦的に捉えられる可能性が高いし、周囲に何度も聞かせることは都合が良くないのでやめておく。


 先生が此方を見ているところでため息を一つ。

 先生に気がつかない彼女が拳で机を叩く。


「頼むから落ち着いてくれよ。今は喧嘩するべきときじゃないだろ?文句なら後でいくらでも聞くから今は自己紹介をしようよ。 ――知ってると思うけど俺はエディーレ・ウヌキス。ナスフォ初等教育学校出身で、この学年の代表生徒だ。好きなことはピクニック。家族ともいいけど友達とピクニックに行くのが1番楽しくて好きだな。嫌いなことはあまりないんだけど…うーん、そうだな。強いて言うなら『喧嘩』かな?」


「――ッ!!あんたまじでうっっざいわね!!」


「!? ちょっとちょっと!おちついておちついて!どうしちゃったのよカフェトちゃん!」


 限界点に達した彼女――ララ・カフェトが両手で机を叩いて立ち上がる。大事になってしまいそうなタイミングで先生がやってくる。タイミングは完璧かな。


「…ごめんなさい先生、俺が悪いんです。昔から女の子と話すのが苦手で、よく怒らせちゃうんですよね…」


 多分大爆発が起こる。その前にアーニャに誕生日プレゼントで貰った魔術具を使っておく。

 アーニャがくれたのは魔術具の周り数メートルで防音壁を作るもの。完全に音を消すことはできないが、範囲外にはほとんど音が漏れなくなる。アーニャ曰く俺はモテるからこれを持っておいた方が良いってことだったが、初めて活用するタイミングは人に怒鳴られるタイミングだった。本来の使用用途がどういうつもりだったのかはわからない。


「あんたって思ってた何倍も最っっ低!!そうやって被害者ヅラして!先生にいい子ぶって!それでいい成績貰ってそれで満足なの!?あたしみたいなのを煽って、バカにして!!まじて最低!!しね!!」


「ちょちょちょちょ!!!『死ね』は良くないわよ!『死ね』は!ここは先生の顔をたてて落ち着いてはくれないかしら!?喧嘩は2時間目にさせてあげるから!」


 2限は体育の授業。俺と彼女ではとても喧嘩にすらならないが、彼女を落ち着かせるのにはいい提案だろう。


 感情に任せて声を荒げたせいで呼吸が乱れた彼女は、一度深呼吸をした。先生の言葉が響いたのかもしれないし、怒りが回りすぎて逆に冷静になっただけかもしれない。


「……………なんかもう、もういいです。あたしはララ・カフェト。嫌いなものはあんた。…お騒がしてすいませんでした先生」


 まあどんな理由にしろ落ち着いた彼女は、先生に頭を下げて謝罪をすると、机に向かって教科書を読み始める。

 思ったよりもちょっとだけ彼女は大人だった。


 少しだけ拍子抜けな結果で終わってしまったけど、まあ俺の評価が落ちることなく他己紹介を切り抜けられそうだし、当初の目的は達成したと言える。


 お楽しみは2限だ。

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