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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第一章 僕爆誕
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第四話 バレバレなのである



「「おはよーアーニャ!」」


「おあうー」


 僕の両頬に ちゅっ とキスされる。


「ふふっ!アーニャ、楽しみにしててね!」


「へへへ!なるべく早く帰ってくるよ!」



 明らかに今日は朝から父も母もそわそわしていた。

 隠しているつもりなのだろうが、残念なことに僕は賢いのですぐわかる。



 今日は僕の誕生日なのだろう。



 …いや赤ちゃん相手にサプライズってどうなんだ?そんなにそわそわするくらいなら朝一番におめでとーってやればいいじゃないか。どうせ赤ん坊に誕生日なんてわからないのだ。


 まぁ、僕は例外だが。


 変に楽しみにしすぎて、父が仕事でミスをするんじゃないかと心配である。




――――――――――――――――――――――――――




 父も母もずっとそわそわしていたが、いつも通り朝の準備や食事をすまし、いつも通りセドルドさんと父の出勤を見送った。

 セドルドさんもそわそわしてはいたが、僕におめでとうとかを言うことはなかった。おそらくサプライズなんだと父に釘を刺されていたのだろう。



 ―果たして今日は何月何日なのだろうか?―



 6ヶ月の祝いから今日まで、数えていたわけではないが大体180日くらいだったし、本でも1年が12ヶ月というのは書かれていた。

 つまり (6ヶ月の祝いがあった時点で半ば確信していたが) 1年は12ヶ月の365日で確定だ。


 そうなると、疑問点は『週』の概念があるか否かである。本には『週』についての情報は何もなかった。

 父は週7勤務だし、毎週日曜日の礼拝とかもないためノーヒントである。さて、いったいどうなのだろう。



 ちなみに『季節』という概念は存在する。



 これは本で得た知識だが、4人の神がこの世界を創造し、時期ごとに4分割して統治することにしたという伝説だ。それがこの世界の『春夏秋冬』なのである。

 1.2.3月が『Phony(フォナイ)』の月で冬、4.5.6月が『Padriks(パドリクス)』の月で春、7.8.9が『Pegl(ペグロ)』の月で夏、10.11.12が『Phelinua(フェリヌア)』の月で秋なのである。


 この国の4大貴族の姓はここからとられたらしいが、それはまあ今はどうでもいい話だ。


 『気候』は存在はするが、日本ほどの温度差はないと思っていいはずだ。

 6ヶ月まではずっと家にいたからなんとも言えないのだが、それ以降の気温は、段々と上がっていったが、それほど暑くなる前に下がってきた。

 だから、僕の誕生日はおそらく秋に当たるのだろう。もしかすると冬は寒いのかもしれないが、夏の様子から考えてそんなに寒くならないと思う。



 まあ、考えすぎなくても成長したらわかる話だ。



 何の日かなんてすぐわかるが、自分の誕生日が何月何日なのかはすごく気になるのである。




――――――――――――――――――――――――――




 今日はカラさんの企画でトゥリーvs僕の『お互いのママまでハイハイ競争』が実施されていた。

 カラさんは僕に対しての態度が普段と全く変わらない。一番大人なのである。



「ほら!トゥリーもここまで頑張って!アーニャちゃんもトリシアも待ってるわよー!」


「トゥリーくんがんばれー!」


「あう!あう!ぅぅうあ!!!」


「……アーニャちゃんすごい迫力の応援ね…」




 『お互いのママまでハイハイ競争』もトゥリー相手ではお話にもならない。


 僕は既に手すりがなくても、わりと歩けるほどのレベルなのに対して、トゥリーはまだハイハイしてる途中でコケるレベルなのである。



 おい、トゥリー貴様ふざけているのか!? なぜ4本足で立ってコケるのだ!? おい!サボるな! お「びゃーーーー!」い!泣くな!!!



「もう、トゥリーったら…」


 カラさんは軽いため息をつくと、泣いているトゥリーのもとへ迎えにいってしまう。



 …甘やかすから成長しないんですよ。ここまで来れなければ飯抜きとかにしましょうよ。



「うー」


「? どうしたの、アーニャ?」


 僕は立ち上がってトゥリーのもとへ向かう。


「え?あ、アーニャちゃん? トゥリーを慰めてくれるの?」


 座って動かなくなってしまったトゥリーの横で慰めているカラさんが、不思議そうに僕のことを見てくる。



 慰める?まさか。



 僕はトゥリーの目の前に立つと、トゥリーを軽く叩く。



「ぅ?」「え!?」「!? ちょっと!?アーニャ!?」



 びっくりしたトゥリーを捨て置き、カラさんの袖を掴み母のもとへ帰ろうとする。


 カラさんはトゥリーよりもびっくりしていたが、僕の意図を理解してくれたようで、僕についてきてくれた。

 母は慌てた様子で立ち上がり、急いでトゥリーのもとへ向かおうとした。  ――が、それを僕は許さない。


「あう!」


「!? え!? アーニャどういうつもり!?」


「アーニャちゃんはトゥリーを甘やかすなって言いたいのよ! トゥリーとは5日しか変わらないのにとってもお姉さんみたいだわ!」


「で、でも…トゥリー君はまだ赤ちゃんよ?甘やかすなって言っても少し…ね? そ、それに、アーニャも暴力なんてよくないと思うの。 ごめんねカラ。トゥリー君にも謝らないと…」


「トリシア、アーニャちゃんを怒らないでね? ここで厳しくするのも優しさの一つだと思うの。 トゥリーを信じて一緒に見守りましょ?」


「…っ…。 わ、わかったわ…」



 砂糖よりもあまあまの甘の(まま)は、少し心を痛めながらも僕とカラさんの意思を尊重してくれる。

 

 トゥリーの方を見るとあれからずっと呆然としていたようで、まだ口を開けたままこちらを見ている。


「うー!」


「ほら!トゥリーがんばれ!」


「…っ!びゃーーーーーーー!」


 状況を理解したトゥリーが再び泣き出す。

 おい。貴様嘘泣きだろ。いままで泣いたら何とかなってきたから癖がついているんだ。



 僕の嫌いなことは『舐められること』と『甘えること』である。ちなみに『甘える』というのは母親に甘えるとか、祖父母に甘えるとかそういう意味ではない。なんというか、ほら。ニュアンスでわかって欲しい。



 要するに男らしくない弱さは嫌いなのである。



「うあー!!!!(てめぇ!さっさと来いこの野郎!)」


「トゥリー!がんばれっ!」


「トゥリーくん!がんばれーっ!」


「…っ!」



 トゥリーは泣いても意味ないことを理解したのか、なかなかの勢いでハイハイしてくる。あと少しだ。



 そしてなんとかカラさんのもとにたどり着いた。



「トゥリー!できるじゃない!えらいわよ!」


「トゥリーくん!ほんとーによくがんばったわね!」


 僕はトゥリーのもとへ歩いていく。

 よしよし、よくやった。頭を撫でてやろう。



「!」「え!? ま、まって!」「あ、あーにゃちゃん?」



 なんでびびんだよ。叩かねーよ。



「うー(よしよし。えらいえらい)」


「!」「あ、え? え?」「まぁ! 本っ当に賢い子!」



 トゥリー。これは大きな一歩だ。泣いてもどうしようもないというのを理解したということも、自分もやればできるというのを理解したことも、どちらも大切なことだ。






 …おまえ、嬉し泣きとかはしないのな。ニヤニヤすんのやめろや、腹立つ。




――――――――――――――――――――――――――




 昼は普段通りに終わったが、家に帰るときに変化があった。

 カラさんがトゥリーを抱っこしてついてきたのだ。


 …いやまあ驚かないけど。


 僕の誕生日パーティーは6人で開催するのだろう。

 僕はできた子供なのでちょっと驚いたフリをし、その後すぐに何でもないかのように振る舞ってあげることにした。


 トゥリーはいつもこの時間は寝ているらしく、家に着くとすぐに寝てしまった。


 僕は普段通り水晶玉を持ってきて遊んでいた。


 最近5cm程度だが、水晶玉を浮かせることができるようになったのだ。

 ちなみに父と母の前で水晶玉を浮かせて見せたところ、褒められはしたが驚かれはしなかった。浮かせることは動かすことの延長線として当たり前のことのようだ。


 母とカラさんは2人で料理を作っていた。僕は離乳食しか食べられないので関係ないのだが、パーティーなのだから食事は豪華にして当然だろう。



 あとは父とセドルドさんが帰ってくるのを待つだけだ。


 プレゼントが楽しみである。




――――――――――――――――――――――――――




「まだかなぁー?」


「パン屋でhanoluを引き取ってから帰ってくるからもう少しかかるんじゃない?」


「あ!ダメよカラ!tottotoliaなんだから!しーっ!」


「えー?別に会話なんて聞いてもわからないわよ」


「でもだーめ!」


「はーい」


 …わかってしまうのである。

 hanoluはケーキのことだろうし、tottottotoliaなんて響きからしてサプライズという意味だろう。


 まぁ別に今更の話だから関係ないのだが、初めてカラさんのミスっぽいミスを見た。新鮮である。



 …ケーキか。ケーキいいなー。



 僕は甘いものが大好きなのだ。まだ離乳食しか食べられないので、ケーキなんてもらえるはずがないのだが、もしかしたらと期待してしまう。

 ……父にせがんでみよう。こっそりくれるはずだ…。


「うー」


「?」


 お?どうした、トゥリー?この水晶玉が気になるのか?


 貸してみる。


「おー」


 トゥリーはセドルドさんと同じ色の瞳を輝かせて水晶玉を見つめている。どうやって動かしてたのかが不思議なようで、一生懸命ぺたぺた触ったり、僕の真似をして力を込めたりしているが何も起こらない。


「あう」


 仕方ない僕がお手本を見せてやろう。まだ教えるというのは無理だからよく見て感覚を掴むんだぞ。


 僕が水晶玉を浮かせようとしたところで玄関が開く音がした。残念タイムアップ。



「ただいまー!」「お邪魔するぞー!」


「! おかえりっ!! お疲れ様! 私朝から我慢してたからうずうずしちゃって!もーたいへん!」


「おかえりー! トリシアってばずーっと、まだかなまだかなーって言ってたの! まだまだ子供ね、ふふっ!」


 何それ、めちゃくちゃ可愛いんですけど。そのトリシアさんって人僕のお嫁さんにしたいなぁ。なんて。


「おれも!おれも!仕事中もずーっとうずうずしちゃってさ! これケーキな!」


 いや、それはやばいって。あなた警護責任者でしょ。


「よし!手を洗って食卓につこうか!俺も朝からずーっとウズウズしてたんだ!」


 いや、あなたもですか。




――――――――――――――――――――――――――




 母は僕を、カラさんはトゥリーを抱っこして食卓につく。


 僕は普段赤ちゃん用の座席でご飯を食べるのだが、今日はテーブルの上の食事の量が多くて危ないからか、誕生日だからかはわからないが、母の膝の上で食べるらしい。


 ……これは理由は言わないがピンチである。



 父とセドルドさんが手を洗ってきて食卓につく。



 …ふむ。僕までソワソワしてきた。



「すごい量だな。どれも美味しそうだ」


「ちょっと張り切りすぎたかしら?」


「セドルドがいれば食べちゃうわよ。 ――それじゃ、ロンドお願いね?」


「あんまり大きな声出すとトゥリーくんがびっくりしちゃうからほどほどにね」


「まかせろ!みんな準備はいいな!? せーのっ!」







  「「「「ハッピーバースデーアーニャ!!!」」」」





 ……えへへ。


《生年月日上から年齢が高い順》+現在の年齢


セドルド 天暦2510年11月3日 21歳

ロンド 天暦2511年2月14日 21歳

トリシア 天暦2515年1月2日 17歳

カラ 天暦2515年3月15日 17歳

アーニャ 天暦2531年10月1日 1歳

トゥリー 天暦2531年10月6日 0歳


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