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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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閑話 雪解け




 トールマリス王国はそれほど治安の良い国というわけでもない。

 都会であろうが田舎であろうが、殺人事件、放火事件などといった凶悪犯罪は毎年少なからず起きている。


 だがそれは、国が犯罪対策を怠っているからなどではない。

 この世界における凶悪犯罪は、どれほどに手を尽くそうが取り締まりきることができない、いわば仕方のないものなのだ。


 生まれながらに魔術の才を持つものが、犯罪に手を染めてしまった場合、どれだけ警備に力を注いだところで防ぐことは愚か、捕まえることすらできない。これは犯罪に手を染めるものと比べて、騎士の実力が劣っているということを意味するわけではない。


 騎士の仕事というのはあくまでも、「犯罪者を捕まえること」ではなく「国民の安全を守ること」なのだ。


 強力な魔術師にもなればかなりの量の人間を人質に取りつつ犯行現場から逃げることが可能になる。そうなった場合に「国民の安全」を第一に考える騎士達では、人質を見捨てて犯人を捕まえるという選択肢が取れない。だからいつも逃げられることになってしまう。


 それにそもそも、絶対に見つからないように殺人を行えるだけの手練れであったり、あるいはその手のことを実行しやすい固有魔術を持っているものであれば、犯人特定さえされることなく犯行を行えてしまう。



 つまり、自分の実力を見極め、しっかりとした計画を立てた犯罪者からしてみれば、殺しも盗みもやりたい放題というわけだ。




――――――――――――――――――――――――――




「まーた、連続殺人事件だって。物騒だねぇ」


 登校時間の30分前から自席につき、新聞を読みながら親友にちょっかいを出すというのがカレン・デイビスの日課だ。


 机の上に広げられた新聞は王国立初等教育学校の前のコーヒーショップで売っているものだ。教師が買うことを想定に置かれているものであり、生徒で買っているのはカレンしかいない。

 カレンとしては一緒にコーヒーも買いたいのだが、学校に飲食物を持ち込むことは禁止されているため、それは叶わない。


「名探偵さんの見解では、今回の事件の犯人は誰だと思います?」


 新聞を読んでいようがコーヒーを飲んでいようが、黙れないというのがカレン・デイビスの特徴だ。隣に座った親友から返事が返ってくることなどまずないのに、カレンのおしゃべりが止まることはない。

 朝の学校はとても静かであり、カレンの元気な声の他には窓の外の鳥の鳴き声くらいしか聞こえてこない。


「私的には今回の事件の犯人は女の人だと思うんだよね。だってね、襲われた女性の年齢はまばらなのに、男性の年齢は20代ばっかりなのよ。これは多分そういうことじゃない?どう、私の推理は」


 王国立初等教育学校は王国の中心である王都にある。だから当然、新聞の内容も王都のものになる。

 トールマリス王国では被害者の身元が特定された場合、名前、性別、年齢に加えて推定死亡時刻、遺体発見現場が公開される。今朝の新聞に載っている身元の特定された被害者だけで18人。王都で起こる殺人事件にしてはかなり大きな事件といえる。


「でねでね、不思議なことに死体の推定死亡時刻から考えると、女性が殺されてるのはいつも男性が殺される前なの。で、殺される男性は必ず1日に1人。つまりこれは女性を殺してる最中にボルテージを高めて、男性を殺してスッキリするってことだと思うわけ。どう、私の推理は」


 カレンは「ふふん」と鼻を鳴らし、桃色の髪をわざとらしく払い上げると、満足したかのように新聞を畳む。


「あ!そうだ聞いて聞いて!昨日さ、お兄ちゃんがチョコ買ってきてくれたの!あの新しくできたチョコの店のやつ! んでね、それを食べるためにコーヒーいれよーって思っていれてたんだけどね、そしたら、新しく入ったメイドの子が『お嬢様にこんなことをやらせてしまって申し訳ございません!』とか言って泣きながら謝ってきてさー。私的にこれはメイド長の問題だと思うんだよね!」


 喋る時にずっと手が動くのがカレンの癖だ。話の内容に合わせてジェスチャーを必ず付けるのだが、彼女の親友はずっと本を読んでいるため、それを見てることはない。


「だって、普通そんなことで泣く?これは多分いじめがあると思うね、私は。いじめ?いびり?まあ、コーヒーを私にいれさせちゃったくらいで怒られるかもーって思っちゃうほど追い詰められてたってことだよね。てか、私が自分でコーヒーを入れることくらい教えておいてあげるべきじゃない?とも思わない?ーーこれはメイド長が犯人だね。今回の殺人事件も。どう、私の推理は」


 カレンのめちゃくちゃな話に流石に耐えられなくなり、彼女の親友は本を読んでいた手を止める。


「カレンの家のメイド長は犯人じゃありませんよ。犯人はもっと若い女性。――いや、女性と呼ぶより少女と読んだ方が良いくらいの子ですよ」


「あ、やっぱりもう見つけてたんだ!もうちょっとヒント!どこで見つけたの!どうしてその子を見ようと思ったの?」


 上手いこと親友がトラップに引っかかってくれたので、カレンはさっきまでよりまた一段と元気になり、彼女の燃えるような瞳を輝やかせて親友に詰め寄る。


「…別に、たまたまですよ。あのレベルの犯行ができる実力者を片っ端から見ようかと思ってたらいきなり当たったってだけです」


 カレンが燃え盛る炎だとしたら、彼女は凍てつく氷。熱で溶かされるのを嫌がるかのように身を引きながら、全くヒントにならないヒントを出すと、再び本を開いて読書に戻ってしまう。


「えー!めっっっちゃ気になるなー!!どんな子だった?可愛かった?可愛い女の子が殺人鬼みたいなのってちょっといいと思わない!?」


「流石に不謹慎すぎますよ…」



 カレンがいつまでもしつこく話しかけ、反応が返ってきたり返ってこなかったり。側から見れば性格が合わないように見えてしまうかもしれないが、2人はこの関係を心地よく感じている。





 カレン・デイビスとスノウ・カルモンテは間違いなく親友なのである。


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