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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第三十八話 僕も老いたものである




 退屈な日々の繰り返しというのは死んでいるのと同じだ。



 毎日毎日同じ日々の繰り返し。ただ生きているだけの人生なんて意味がないというものなのである。



 日々を生きる上で大切なことは『節目』なのだと僕は思う。



 『節目』がないのなら、それはただ『生きている』それだけのことであり、種の存続という観点さえ除けば死んでいようが生きていようがなんの違いもないのである。


 何かを始めたり、何かを終えたり。そこに人としての、あるいは生き物としての『生き甲斐』を感じるから人は生きているのではないだろうか。

 学校に入った、卒業した、仕事についた、子供が産まれた、えとせとら…そういった大きなイベントだけじゃなくても日々の中に退屈や飢えを満たす『節目』があるからこその人生なのではないだろうか。


 それなのに、毎日毎日退屈な日々の繰り返し、祭りもなければ遠足もないなんて日々を送っていたら生きているのか死んでいるのかさえわからなくなってきてしまうわけだ。






 そんなこんなで気がついたら僕はもう老人になっていた。





 何もなせないまま2度目の人生も終わってしまったのだ。





                       〜fin〜




――――――――――――――――――――――――――





「で、やっとイベントだと思ったら式典だというわけよ。誰が好き好んであんなアホみたいなイベントに行くのよ」



 子供の時間は長い。小学生にとってはどんなに退屈な日々の繰り返しであっても案外時間の経過というのがないものだ。


 思い出してほしい。小学校の6年間と比べて中学校の3年間はどうだっただろうか?

 そもそも半分だから短いというのは当たり前なのだが、小学校の3年間と比較しても短く感じなかっただろうか?


 まあつまりそういうことなのだ。

 僕としてはもうなんか2度目の人生終わったんじゃなかってくらいの退屈な時間を過ごしたはずなのに、たいして時間はたっていないのである。



「…だから、卒業式をサボるときは協力してあげたじゃんか。妹の入学式くらいは出ないと余計嫌われるぞ?」


「あっ!自分はラファと仲がいいからってそういうこといっちゃうんだ! へー、ふーん。モテる男は余裕があっていいですねー」


「あのなぁ…」



 イケメンぶったトゥリーが眉をひそめて迷惑してるんだぜアピールをしてくる。

 めちゃくちゃムカつくから、やめてほめしいのである。


 そもそも迷惑だというのなら、別に僕のことなんてほっといて勝手に入学式でもなんでも出ればいいじゃないか。

 エノーラちゃんやママに文句言われる理由はあっても、お前に文句を言われる理由なんてない。


「しらないよ、私を捨ててこれからはラファとティアと3人でイチャイチャしてたらいいじゃん。 あーあ!トゥリーのせいで余計に入学式出る気なくなったもーんだ!」


「…あのなぁ…」


 知らないよ。みんな僕のことはどうでもよくて、トゥリーのことが好きなのだ。


 ティアは多分まだ僕のことも好きでいてくれてはいるんだろうが、優先度がトゥリーまっしぐらなせいで、無意識に僕のことをぞんざいに扱ってくる。

 悪意がないことがわかる故、余計に傷つくのである。


 ラファは僕のことをとても嫌いだ。

 姉妹らしい会話をしたのがいつだったのかもう思い出せない程度には仲が悪い。

 ついでにラファはママのことも嫌いだ。根っからの男好きなのだろう、パパとトゥリーとは仲良さそうに話をしているのである。



「…本当に置いていくぞ?」


「…勝手にすればいいじゃん」


 ほら、結局トゥリーも僕よりもラファの方が大切なんじゃないか。そこは「アーニャがどうしても出たくないなら俺も出ない」くらい言ってくれてもいいもんじゃないのか?

 昔は僕にべったりで、僕以外のものに興味なんてなかったくせにいつのまにか僕のことなんてどうでも良くなっていたようだ。


 結局男なんてそんなもんだ。

 自分にとって都合の良い、自分のことを好きだと言ってくれる顔のいい女が出てきたらそっちの方にふらふら行ってしまうものなのだ。

 意外と1人の女を思い続けるなんて男はそんなにいないものなのである。



「俺はお前を置いて入学式に出るからな?終わった後で拗ねたりするなよ?」


 そんなもん拗ねるに決まってるじゃないか。もしかしてアホなのかこいつは?

 こんなアホに育てた覚えはないのだが、いつのまにかどうしようもなく察しの悪いやつになっていたのである。



「しつこいってば!勝手に出てくればいいじゃん!?」


「…なぁアーニャ、一緒に入学式に出てくれよ。俺はラファのためにも出てあげたいし、そこにアーニャもいて欲しいよ」


「…別にラファは私に出てほしいなんて思ってないよ」


「俺がお前にいて欲しい」


 急に真面目な表情になったトゥリーは僕のことをやけに熱のこもった視線で見つめてくる。残念ながら、僕は男を愛する趣味がないので他を当たってくれ。


 てかこいつ、よく7歳でいろんな女の子を誑かせておきながら他の女の子に「俺がお前にいてほしい」なんて言えるな。

 トゥリーの性格から考えて僕を口説いてるとかそういうことじゃなく、たとえラファが僕のことを嫌っていようが、出てもらえなかったら寂しいだろうとかそういう思いやりなのだろう。

 言わんとしてることはわかるが、僕は出ないのである。



「私は絶対出ないから、もうほっといて」


「ほっといたらほっといたでアーニャは拗ねるじゃん」


 せっかく僕は気持ちを落ち着かせたのに、トゥリーの気の利かない一言でまたヒートアップしてしまう。

 

 もう出席者のほとんどがホールの中に入ってしまったので、大声で喧嘩をしていても周りの人に不審がられることもない。

 まあだから、呼び止めるトゥリーを振り払って僕が適当に逃げるなんてことは簡単にできてしまうのだが、僕としてはそれはそれでおもしろくないのでやらない。


 要するにトゥリーに折れてほしいのである。


「じゃあほっとかなければいいじゃん!」


「でも俺は入学式に出たい」


「アーニャとラファどっちが大切なの!?」


「アーニャのくだらないわがままよりラファの入学式の方が大切だよ。後で文句は聞くから行くぞ」



「っ!?」


 こいつついにやりやがった!


 トゥリーは僕の腕を掴むと無理矢理ホールの中に連れて行こうとしてくる。

 女の子を力づくでねじ伏せていいなんて教育をした覚えはないのだが、いつのまにかDV男になってしまったのかもしれない。






 ……まあ、抵抗しようと思えば簡単にできるのだが、ここは抵抗しないで大人しく引きづられてやるってのが大人な僕の優しさなのである。感謝してほしい。




――――――――――――――――――――――――――





「まあ姉としてね、妹の入学式に出ないわけにも行かないでしょ。いくら仲が悪くても私はお姉ちゃんなんだから。妹は姉の卒業式に出なくてもいいけど、姉は妹の入学式には出ないといけないわけ。わかる?」




 やっぱり長くて面倒かった式典を終えて、僕はとても疲れたのだが、これも姉の責務と思えばそんなに悪くない気分なのである。

 何か言いたげな表情でトゥリーがこっちを見てくるが、あえて無視しておこう。やつもわざわざ嫌味を言いに来るなんてことはしないはずだ。



「いえ!さすがですよアーニャちゃん!基本的に不良生徒なのに、抑えるべき要点は押さえているところがなんとも憎めないというか、先生は素敵だと思いますよ!むははは!!」


「アーニャちゃんのいいところはいつかちゃんと妹さんもわかってくれるよ!わたしだったらこんなお姉ちゃんいたら嬉しいもん!」


「あーにゃはやさしくてかっこいいよ」



 クラスメイトやエノーラちゃんからしたら僕が入学式に出ていたことが少し意外だったようだ。入学式を終えてクラスに帰ったらみんなから驚いた顔をされた。

 まあでも、妹がいるからという話をしたらみんなすぐに納得した。アーニャ・ハレアという人物はきちんとするときはきちんとする出来た人間なのだ。



 …実際のところもし出ていないかったら今まで積み上げてきたアーニャ・ハレアという人物像を崩してしまったのだろうか?

 僕はそこそこに裏表のある人間なのでその辺りは心配なのである。もしかしたらトゥリーに感謝しなければいけない案件なのかもしれない。



 見回すと見慣れたメンバーがいつものように賑やかにしている。


 残念というべきか、良かったというべきか、うちの学校は1年生から2年生に上がるときにクラス替えがない。いつもと変わらないメンバーに囲まれて、また1年が始まるのである。

 全く同じ日々の繰り返しになるし、面白みも何もないのだから基本的には残念なことなのだが、一個だけ良かったことがある。


 それは何故かエノーラちゃんが担任を引き続き受け持つということだ。

 エノーラちゃんが引き続き担任のことに喜びを覚えてしまうとは、僕としたことがこの1年で四十路痛おばさんに飼い慣らされてしまったものなのである。


 エノーラちゃんは自分でも言っていたが、今まではずっと1年生の担任だけをしていたらしい。

 今年初めて2年生の担任になるのに何の理由があるのかよくわからないが、まあ1つあるとしたら新任の先生が入ったということだろう。ラファのいる1年2組の担任は今年から初めて教師になった若い男の先生だ。


 でも、新しく人が入るだけならそいつとエノーラちゃんで1年生の担任をやればいいのに、ヨスナイア氏が1年の担任残留で、エノーラちゃんがうちの学級を引き続き受け持つのには何かそれ以外の理由があるのだろう。


 まあ概ね、僕やサリアといった癖のある生徒がいるからとかそういう理由なのだとは思うのだが、新しく入った生徒たちの方に問題があるという可能性もある。例えば女の先生を認めないとかいう毒親がいるとかエトセトラ…


 とにかく、先生もクラスメイトも変わりがないので、新学期になっても変わったのは教室くらいのものなのだ。またまた退屈な日々が始まってしまうのである。別に春休みも退屈だったので今更改めていうほどのことでもないが。



「はいじゃあうちのクラスは先生の自己紹介もいりませんし、今日はこれでおしまいでーす!!!みなさんまた1年元気にやっていしましょー!!むはははは!!!」


 そういえば去年は入学式の後ホームルームで自己紹介をしたりと長かったのを思い出した。長いには長かったけどあの頃はまだ学校に期待を膨らませてたなぁなんて思うと、感慨深いものなのである。


 …その後ティアの家で食事をしたのも思い出した。あの頃はまだティアは僕一筋だったなぁなんて思うと、感慨深いものなのである。



「あーにゃまたあした」


「アーニャちゃんまた明日!今年もまたよろしく!」


 まあ、変わったのは悪い方向ばかりじゃない。手のかかる可愛い子分2人をみると穏やかな気持ちになるのである。



「2人とも気をつけて帰るんだよ」


 あの頃はまさかお漏らし少女2人とここまで仲良くなるとは思っていなかったというものだ。漏らした子が2人いるなぁって思ってたら2人とも子分になってしまった。

 ちなみに2人とも今年は漏らしてない。



「ラファちゃん待ってから帰りますか?それとも先に帰っちゃいます?」


「まだかかりそうだし先帰ろっか」


 それに別にティアやトゥリーと仲違いしたわけでもない。昔ほどべったりではなくなったが、今でもなんやかんや言って3人でいる時間が一番長いだろう。


 まあ、殆ど家族みたいなものだ。2人の子供ができたら姪か甥のように可愛がってあげようと思えば、悪い関係でもないのだと思う。



「ヨモンドはどうする?」


「どうしよっか?」


 ヨモンドとは相変わらずなんとも言えない距離感ではあるが良好な関係だと思う。

 奴からのアプローチはスルーすれば済む話だし、それ以外は相変わらずいいやつだし、唯一僕の苦しみをわかってくれる同士でもある。ヨモンドもティアとトゥリーに邪魔者扱いされているようだ。



「お兄様は待たなくていいですよ。お友達と勝手に帰ってくると思います」



 と、まあこんな感じだ。


 いやまあ、これは初対面の時から別に変わってないかもしれない。



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[気になる点] なんかアーニャちゃん初期に比べ退化してない?
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