第三十二話 犯罪でしかないのである
………………………
…………………
…………ん?
「……?あれ、もしかして僕寝てた?」
もしかして僕は寝ちゃっていたのだろうか?
さっきまで食事をしていたはずなのだが、気がつけばソファの上に寝かされていたのである。
それに13人もいたはずなのにいつのまにか人が少なくなっている。いまリビングにいるのは僕とティアとヨモンドだけなのである。
ティアはもくもくとプレゼントを見ているし、ヨモンドは何をするわけでもなく椅子に座って、プレゼントを見ているティアを見ている。
――あ、プレゼントを持っているってことはプレゼントタイムも終わったのか。
僕も記憶がないだけで渡したのだろうか?それとも普通に寝落ちしてて渡していないのだろうか?
「なんか面白い夢でも見てたのか?」
いや特になんの夢も見てないかな。
「完全に記憶が飛んじゃったって感じだからよくわからないのだが、僕は一体どのくらい寝ていたのだろうか?ティアとヨモンドの様子を見る限り、少なくとも1時間以上は寝ていたようなのである」
「…なんかおかしなことになってるんだが…どういう夢を見ていたんだほんとに…?」
本当になんの夢も見ていないといのになんでこうも疑われないといけないんだ?
「まったく…お酒を飲ませた大人が1番悪いですが、飲むアーニャもアーニャで悪いです。せっかくのパーティーなのにぐっすりと眠ってしまってたじゃないですか。ちょっとだけ悲しかったです」
いやまあ…ティアには本当に申し訳ないのである。
でも子供の僕に何ができたというのだろうか?
お酒を飲もうと思って飲んだわけじゃないし、飲ませた大人が10割悪いのであって、僕に非はまったくないと思う。
そうは言っても僕のせいで誕生日会を台無しにしてしまったようなものだ。ティアにはなんか埋め合わせしてあげないのだが、こういうイベントの埋め合わせは実際問題できないものなのである。
例えば後日に同じようなパーティーをやるとしてもそれは『誕生日会』ではない。どんなに盛大にパーティーを開こうと、特別な日を愛する人々に祝ってもらえる誕生日特有の幸せには遠く及ばない。
来年の誕生日で埋め合わせをしようとしても、それはただの8歳の誕生日会であって、僕が奪ってしまった7歳の誕生日は奪われた形で完結したままなのである。
小さい頃の誕生日は心に強く残る。それが不本意な形で終わったものならなおさらなのである。
僕は5歳くらいの頃におじいちゃんに誕生日ケーキの蝋燭の火を消されたことを今でも覚えている。生まれ変わってもまだ、あの幼い日の衝撃的な誕生日を忘れられないのである。
だから、ティアも親友が誕生日会で酔っ払って寝落ちしたという思い出をずっと忘れないだろう。ティアから奪ってしまったものはどうやっても返すことができないのである。
「んー…ごめんね?」
「怒ってはいませんわ。寝てた分はこのあとしっかり取り返してもらいますから、お母様がお風呂から出るまでとりあえず大人しく頭を覚ましておいてください」
「?へ?今どういう状況?」
リシアたんがお風呂に入ってる?
いろいろと状況判断が遅れているのだが、とりあえず覗きに行ってみるべきなのだろうか?
いやいやいや、僕は何を考えているんだ?
んー……あれ?なんかリシアたんと僕はお風呂くらい一緒に入ってもおかしくないような関係のような気もするのだが、その根拠は別にないというかなんかまだ寝ぼけているのである。
「父上と母上はカチュアを連れてすでに寝室にいる。僕もすでに入浴を終えているし、あとはティアとアーニャがお風呂に入れば今日はもう終わりだよ」
「あ、僕はお泊まりな感じ?着替えも何も持ってきてないけど…ママたちが持ってきてくれてるの?」
それで僕たち以外の人が見当たらないわけなのか。本当に随分と長い間寝ていたようなのである。
「いえ、アーニャ以外の方はもう家に帰りましたよ。ちょっと小さいかもしれませんが、今日は私の服で我慢してください」
僕の疑問にティアが首を振って答えてくれる。
――なるほど、普通にみんなはもう帰っただけなのか。
僕はやっぱりまだ寝ぼけているようだ。
パパが泊まるのは明日の仕事の負担になりすぎるし、ママたちだけで夜道を歩くなんて危険すぎる。
普通に考えて、この時間に着替えを取りに行ってまた帰ってくるというのは現実的な話ではなかったのである。
「サイズなんてほとんど変わらないからいいんだけど…いいんだけど……パンツを借りるってのはダメじゃない?ちょっと、えーと、なんだろ、汚くないかなーって…」
確かにティアは僕よりもちょっと小柄だが、そんなのは誤差の範囲なのでサイズなんてまったく問題ないのである。
問題なのはパンツなのである。
ティアのパンツを僕が履くというのは犯罪なのではないだろうか?急に街長に街の衛兵に突き出されたりしちゃわないだろうか?
もしそうなる可能性があるのなら今日と同じパンツを明日も履くとしよう。
流石に3日4日同じのを履けと言われたら抵抗があるが、2日くらいじゃそれほど汚くもならないし、衛兵に突き出されるよりはましなのである。
「わ、私の下着はそんなに汚くありませんわ!!失礼すぎです!!もう知りません!アーニャは明日パンツを履かないで学校に行けばいいんじゃないですか!?」
「!?ちがうちがう!逆だよ!アーニャが汚いってこと!いや、汚くはないけど!――だって…パンツってさ…その…ふ、触れているといいますか、当たっているといいますか……そういうものじゃないですか?さ、流石にティアも貸すのに抵抗があるかなーって…」
ちょ!ものすごい言ってて恥ずかしいんですけど!?
7歳児に僕は何を言っているんだろうか。間違いなくいろいろと犯罪なのである。
いろいろというのはいろいろだ。言及している内容が限りなくセクハラだし、それを実行に起こそうものならもうロリコン変態犯罪者なのである。
ロリっ子のパンツを履いて自分のに擦り付けたなんて、好きなこのリコーダーを舐めたとか、体操服を持って帰って匂いを嗅ぎながら1人でしたとか、そういう連中の上をいく変態なのである。
「…何を言っているんですか?泊まっていいと言っているのにお風呂に入っちゃダメなんて言うはずないじゃないですか」
…あー。ティアは僕の言いたいことがわからないのか。
「いや、お風呂には勿論入らせてもらえることはわかってるけど、別にお風呂に入ればまったく問題ないってわけじゃないでしょ?――いやだってパンツって、どこを守ってるものかって話なんだけど…い、いいたいことわかるかな?」
おいヨモンドうつむいてないで助けろ!お前はませてるから僕の言いたいことがわかるだろ!?
ティアだって7歳とは思えないくらいしっかりしているのにこういうところはしっかり7歳児なのである。
にしても、なんでわからないかなー。だってパンツってあそこに思いっきり触れてるものなんだよ?エロさがわからないとしても、少なくともうんことおしっこに触れているってことくらいはわかるだろ。
「?よくわかりませんけど…私は別にアーニャに下着を貸すことになんの抵抗もありませんわよ?ちゃんと洗って返してくれればなんの問題もないです」
「そ、そか…。じゃあお言葉に甘えて…借りよう…かな?」
「ええ、そうしてください。――さっきはああ言いましたけど、学校にパンツを履かないで行かせるつもりは絶対にありませんでしたし、履きたくないと言うのならアーニャの下着の洗濯が終わって乾くまで家から出さないつもりでしたわ」
「あ、あはは…」
どうしよう…。僕は犯罪者まっしぐらなのである…。
あー、何も考えられない。こうなったらもう何も考えないで普通に履いて、普通に過ごすのがベストなのだろうか。下手なことさえしなければ本人の了承を得ているのだし、もうこれは許された犯罪なのであろう。
「あら、アーニャさんやっと起きましたか。もう遅いですし2人で一緒に入っちゃってください」
後ろから急に声が聞こえたと思ったら、湯上がりリシアたんがいたのである。完全に思考が停止していたので割とびっくりした。
湯上がりリシアたんは、僕に竿が生えてたら完全に襲っていたレベルの色気なのである。
白いバスローブは袖も裾も長いので露出は少ないのだが、濡れた髪の毛と合わさるととてつもないエロスを醸し出す危険な服だ。
濡れたブロンドも、ほんのり赤く染まった頬も、湯上がりで余計にツヤツヤした肌もとても色っぽいのである…。
――ま、まずい!この後ティアとお風呂に入るというのにかなりよくないテンションになってきちゃった!!
しかもその後ティアのパンツを履くのである。もう完全に何かしらかのスイッチが入ってしまったかもしれない。僕に息子がいたら完全に立ち上がって天を貫いていたことだろう。
竿が生えてなくて本当に助かったのである。
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――結論から言おう。別にティアとお風呂に入ってもなんとも思わなかった。
そもそも、僕はロリコンじゃないし未成熟の女体を見たところで興奮するようなことは前世でもなかった。
それに加えて今世では毎日女体に触れているのだ。いまさら体を洗いあったくらいで興奮なんてしなかったのである。
まあちょっとだけエロを期待していたところもあったので、残念に思わなかったこともなくはないこともないかもしれない。
…ただ、パンツを履くのは少し…いやかなり興奮する。
いま僕の前にパンツとシャツとパジャマが置かれている。
僕がいつも履いているパンツは布の多いふかふかのブリーフみたいなやつなのだが、ティアのはもっとピチッとした女の子のパンツっぽいパンツだ。7歳のくせに生意気なのである。
僕はもともとトランクス派だった。あんまりピチッとしたパンツは好きじゃなかったのである。
それと僕が今ふかふかのパンツを履いていることにはなんの関係もないのだが、要するに僕が言いたいのは、ピチッとしたパンツを履くこと自体に抵抗があるということなのである。
そもそもなんで7歳のくせにこんなピチッとしたパンツを履いているんだ?僕のイメージではこのくらいの女の子は向こうの世界でもキャラクターもののふわふわブリーフみたいなやつを履いていたと思うのだが、違うのだろうか?
もしかしてうちの家だけおかしいのだろうか?
「何をしてるんですか?風邪をひきますよ?」
「え?いや、ティアのパンツかわいいなーって思って…」
「アーニャのパンツは少し子供っぽ過ぎますね。アーニャはもっとこういうやつの方が似合うと思いますよ?ほら、履いてみてください」
いやいやいや、僕たちまだまだ超子供っすよティア様。
でも、ここで履かないという選択肢はもうないのだ。本当は履きたくないという気持ちの方が若干上回っているのだが、履かざるを得ないのである。
ええい、泣くなアーニャ、男だろ!!
そっと右の足から通す。そのまま左。そしてそーっと、上にあげていく…
太もものあたりでパンツが肌に当たる。ここからはピッタリとけつに合う感じなのだろう。僕はこの感じが苦手だからボクサーパンツを履かなかったのだ。
さらにこのパンツはこう、なんか、けつと足の付け根に食い込んでくる感じがある。ティアのだからワンサイズ小さいというのもあるのだろうが、形自体がそういう風にできているのだ。
初めて履いてみた感想は、『居心地が悪い』である。
ケツに布がピッタリと張り付いている感じも、パンツの縁が食い込んでくる感じも、女の子のパンツを履いているという事実もとても居心地が悪い。
さらにこの僕の股間に触れている布がティアの股間に触れていたものだと考えるとめちゃくちゃ具合が悪い。
心の底から竿が生えてなくて良かったと思う。生えていたらティアのパンツを破っていたのである。




