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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第三十話 ティア誕生日会なのである②



「よしっ!12だ!!!これでリシア様を抜いて僕が1位だな!!」



 僕が自作の人生ゲームを作るにあたり、普通の人生ゲームから大きくいじったところは世界観くらいである。


 あとはまあ、せっかく魔力という便利なものがあるので、ルーレットを回してからコマを移動させるまでの動作を魔導で処理するように術式を施した。

 これによって、ターンプレイヤーがルーレットに魔力を込めれば3秒ほどで移動までの処理を行うことができるので、大人数でやると起こりがちな『ターンプレイヤー以外の人が暇をする問題』を解決させたのである。



 当然、魔導による処理をするためには魔石が必要である。


 僕とトゥリーは昔遊んでいた積み木を再利用して今回のコマやルーレットを作成した。

 それでは少し足りなかったので、足りない分はドルリッチ君にもらった。買えばそれなりの値段がするが、ドルリッチ君に頼めばただなのである。


 そんな感じで、人生ゲームの作成にはかなりのコストがかかったのである。

 もしこの人生ゲームを販売をするとしたら、ボードゲームにしては異常なほど値段が高くなってしまうので、買ってくれる人はほとんどいないだろう。

 物好きな貴族が買ってくれるかも程度の話である。


 

「あははは!ヨモンドくんは本当に単純ね!マスを読んでから喜ばないと!!」


「!?な!『新品の杖が折れた。修理代40000M(マリス)払う』!?よ、4万も持ってないぞ!!?」



 この人生ゲームの金額感覚はかなりリアルに近づけてあるので、普通のハンターが使うような杖の修理代は本当に40000Mくらいである。


 文化レベルが違うので正確にレートをつけることは難しいが、1Mはだいたい3円くらいだ。

 例を挙げると、ドシンミートハウスの食事代金が1人2000Mくらいである。


 単純計算すると4万Mというのは12万円くらいであり、それなりに高いけれど払えなくもない程度の金額だ。


 つまり、ゲーム中盤だというのに4000Mも持ってないヨモンドはマスだけ進んでるだけの貧乏人なのである。

 もちろん1位なんかではないし、なんなら借金まみれのトゥリーに次いでケツから2番目なのである。



「じゃあヨモンドくんも借金だ。えと、約束手形を4枚渡しちゃうから後でまとめて精算してねー」


 銀行はママがやってくれている。


 特に理由はないけどなんとなく流れでそうなったのだ。

 約束手形は1枚10000Mで用意しておいたのである。


 どうでもいいことだが、約束手形は本来なら振り出した側が支払うことを約束するもののはずなのに、どうして人生ゲームでは逆なのだろうか?


 いや、ゲームの仕様として銀行側から渡す方が簡単だからと言われてしまえばそうなのだが、僕が言いたいのは約束手形という言葉を選ばなければよかったじゃないかということである。


 よくわからないけど、多分なんか理由があると思うので、とりあえずマネをして約束手形という名前をそのまま使っておいた。

 カラさんが変なのーってツッコミを入れていたが、僕だってわからないので許して欲しいのである。



「あ、私の番か。――7だから…『緋鬼の討伐に成功。50000Mを手に入れる。ハンターの場合は金階級に昇格する』私ハンターじゃないや、残念」


 ラファの職業は騎士である。騎士の上級職は騎士団長なのだが、僕は王国の騎士についてあんまり詳しく知らないので割と設定があやふやだったりする。


 完全に僕の偏見だが、騎士は大した仕事もしてないくせに収入はやたら良いイメージだ。だからこのゲームでも騎士の月収はかなり高く設定してある。

 そのおかげもあってラファは暫定一位だ。昇格できなかったとか、そんな細かいことを気にするほどお金に困っていないのである。



「せっかく緋鬼を倒したのに50000Mだけだなんて、現実では考えられませんね」


 ラファ本人は気にしていないが、ヘロンさんとしてはせっかくラファが緋鬼を倒したのに大して報われないことに納得がいっていないようだ。たかがゲームの中の話だというのに優しすぎる方なのである。



 だが、僕にだって悪気があったわけじゃない。

 出費の方はリアルに近づけられたのだが、収入の方はどうしてもガバガバになってしまうのである。


 というのも、書いてあるイベントに相応しいだけの収入が入ってくると全員が大富豪になってしまうのである。そうなってしまえば、マイナスマスに止まることに対するドキドキ感がなくなってしまうのだ。

 かといって、収入を抑えるためにイベントをこじんまりさせてしまえば盛り上がりに欠けてしまうので、ゲームの楽しさを落とさないためにはリアリティを削らざるをえなかったのである。


 そのことに対する違和感を補うために、現金以外の資産であるアイテムカード制度があるのだが、このマスは職業昇格マスなのでアイテムカードを渡すことができないのだ。


 職業昇格マスとアイテムカードマスの並立をできるようにするべきだったかもしれない。まだまだ改良の余地があるのである。



「私の番です!――9ですね!…えーと『魔物の群れに襲われていたところを近くのハンターに助けてもらった。ハンターの職業カードを持つ人に20000Mずつ渡す』…助けてもらっておいていうのもなんですが…高すぎませんか?」


 ハンターの職業カードを持つのはママ、リシアたん、ヨモンドの3人なので、ティアは合計60000Mの出費となる。

 ハンターは1番なりやすい職業なので、もっと痛い出費になる可能性があることを考えると、我ながらなかなかエグいマスなのである。


「ハンターなんてそんなもんだよ。所詮人助けをするのなんて金のためなのさ」


「っ!そんなことない!!!!……ティアちゃん、私には払わなくて良いから。助けたのはお金のためなんかじゃないもの…」


 あれ?なんかちょっとママが怒っているのである。

 ママもヘロンさんと一緒で優しすぎる人だから、ゲームの世界だというのに心を痛めてしまったのだろうか?


 なんかママに本気で怒鳴られるのなんて初めてだし、ちょっと怖かったのである。あとで謝ってもらおう。



「い、いえ、ルールはルールですから!私はそんなにお金に困っていませんので大丈夫ですよ!!それに、ここには渡すって書いてありますし、私が払いたくて払っているだけです!無理矢理払わされているわけではありませんわ!」


「そ、そっか。…あ、あのね?本当にハンターが人助けをするのはお金のためだけじゃないの…だから…」




 ――あ!そういうことか!


 多分、元ハンターのパパを馬鹿にされたように感じたから、ママはこのマスに怒ったのであろう。僕としたことがこんな簡単なことに気がつかなかったのである。

 まったくおっちょこちょいなのである。



「でも、お金がないと生きていけないというのも本当だ。ティア、早く20000Mをくれ。お前の命があるのは僕たちのおかげなんだから、2万なんて安いものだろう?」


「…ティア、申し訳ありませんが20000M頂きますわ…。私、生まれて初めてお金に苦労しています。なかなか勉強になるゲームですわね…」


 マスだけ進んでいるだけの貧乏人2人には綺麗事を言っている余裕がないようだ。2人ともリアルではお金の苦労なんてしたことがないので、はじめての金欠に心から苦しんでいるようなのである。



「…私もお金の大切さを改めて理解しました。お金の余裕は心の余裕に直結するのですね」


 ヘロンさんにもお金の大切さがわかってもらえたようだ。


 狙ってやったわけではないのだが、謀らずもナシアール家のお嬢様たちにお金の大切さを教えてあげることに繋がった。


 もう少しそっちの方向に改良を加えたら、教育系ボードゲームとして貴族向けにちゃんと販売できるものになるかもしれないのである。




――――




「結局大逆転なんて起こらずにラファちゃんが一位かー」


「でも、1位以外は終盤でかなり変動がありましたし、ちょっとラファだけ強すぎましたね」



 決着は試合開始から約2時間後だった。


 試合結果はラファ1位、リシアたん2位、ティア3位、僕4位、ママ5位、トゥリー6位、ヘロンさん7位、カラさん8位、ヨモンド9位である。

 ラファ1位だけずば抜けていて、2位から7位までは団子、試合終盤に連続でマイナスマスに止まり続けたカラさんがほとんど所持金0で8位である。


 最初から最後まで貧乏だったヨモンドは終盤で魔物の森に迷うマスに留められ続けたせいで、着順すらビリの完全敗北である。

 なにが「ラファだけ強すぎましたね」だ。お前だけ弱すぎたのである。



「運に恵まれていただけですよ。たまたま良い地位につけただけのことで、特にすごいことなんてしていません」


「現実の私たちみたいな話ですわね。私たちがどれほど恵まれているかということを、こうして他の人生を体験してみてわかりましたわ。すごく良いゲームでしたわね」


「アーニャはボードゲームを選ぶセンスもすごいです!――またやりましょうね!!次こそは私が一位になります!!」



 狙ったけわではなく得られたものもあるが、ちゃんと狙った通りに得られたものだって勿論ある。


 ラファとリシアたんがこうして会話をしているのは多分初めてじゃないだろうか?他にもティアとママとか、ヨモンドとカラさんとか、普段はあまりない組み合わせでよく会話していたように思う。



 それに、ちゃんと全員楽しんでいてくれたのである。


 僕の最大の目的はティアの誕生日会を思い出に残る楽しいものにすることだったので、大成功と言えるだろう。




――――――――――――――――――――――――――




「一生懸命作った甲斐があったな」


「うん。手伝ってくれてありがとね」


 僕だけじゃこんなにうまくいかなかっただろう。

 トゥリーには感謝なのである。


「俺がやりたかっただけだから礼を言われることじゃない」


「…かっこつけるじゃん」


「まあね」


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