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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第二十七話 おめでとうなのである

小学校パートは長いので、いろんな視点から書こうと思っています。



「7月も残り半月もありません!!8月からは夏休みになります!が!!その前に皆さんに大切なお知らせがあります!」


「「「「!」」」」


 エノーラちゃんついに結婚でもするのか?

 正直34で独身ならもう結婚しないと思っていたんだが、もし結婚ならそれはめでたい話だ。


「夏休みに入る直前、7月29日になんと!!」


「「「「なんと!?」」」」


「なんとー!!!」


「「「「なんとーー!?」」」」



 これは本当に結婚するのか。

 …いや7月29日に挙式?まだ学校がある日だぞ?




「なんと!テストがありまーーす!!むははは!!」






「「「「えーーーーー!!??」」」」」




 なんだそんなことか。

 別に期末にテストがあるなんてのはわかってた話だしそんなに驚くことはないだろうと思うんだが、クラスメイトはほとんど驚いている。


 1番前に座っているティア様は余裕といった表情だ。

 毎週末宿題を一緒にやっているからわかるが、ティア様は賢い方だ。期末テスト程度では焦らなくて当然だ。


「むははは!!!別にいつも授業をちゃんと受けている人は心配しなくて大丈夫ですよー!!――逆に!いつも授業をちゃんと受けていない人は、しーっかりと勉強をしておくことです!!むははは!!!!」


 エノーラちゃんは名指しこそしていないものの、明らかにドミンドとゴンズに向けて言っている。本人たちも当然そのことに気がついているようだ。


「な、なんでおれたちなんだよーー!?」


「そうだそうだ!アーニャが1番不真面目だろーー!」


 …何を言ってるんだこのバカ2人は。

 アーニャは授業を受ける必要がないから真面目に受けていないだけだし、他のことをやっていても話は聞いている。まあ授業にいないこともまれによくあるが、それはそれだ。


「あ、アーニャちゃんは…その…えー…あ、アーニャちゃんも!テストは真面目に受けてくださいね!?」


 ………


「!?あれ!?アーニャちゃんは!?」


「用事があるので先に帰りました」


「え!?そんなことありますか普通!?せめて先生に連絡しませんかね!?」


「にゃー(授業に出ないなら問題だけど、帰りの会なんていなくてもいいでしょ)」


「授業に出ないなら問題だけど、帰りの会なんていなくてもいいでしょ、だそうです」


「!?その猫はただのぬいぐるみじゃないんですか!?連絡でも取れるの!?アーニャちゃんの唯一の子供らしさの塊だと思ってたのに!!」


 失礼な。アーニャは普通に子供だ。

 お風呂はまだ母親と入っているらしいし、寝る時は両親と一緒のベッドらしい。怒られたらすぐ泣くし、ケーキの上にのっているいちごをあげたら3日は機嫌がいい。ラファよりもずっと子供らしい子供だ。


「…ぇ?…アーニャ…今日用事…ある…の…?」


 あー、エノーラちゃんのせいでティア様が泣いちゃった。


 泣いている女の子を慰めるのは男の仕事ってアーニャは言うけれど、流石にアーニャの周りでは人が泣きすぎだ。

 アーニャが泣かせるし、アーニャのせいで泣く子もいるし、そもそもアーニャがよく泣く。


「はあ、猫が鳴くのなんて当たり前なんだからそんなに騒がないで下さいよ。――ティア様、アーニャは夕方までにやることが少しだけあるだけです。ティア様が心配しているようなことはありませんから大丈夫ですよ」


「…そ、そうですか…。あ、アーニャってちょっとだけ抜けているところがありますけど…その、大丈夫ですよね?」


 女の子を慰めるのにも慣れたものだ。昔から幼馴染2人に囲まれていた甲斐はある。



「ええ、勿論ですよ。アーニャはティア様を1番に想っていますから」


「…えへへ。ありがとうございますトゥリー様」


「にゃー(流石だトゥリー)」


「や、やっぱりぬいぐるみが鳴くのはおかしいですよ!?」




――――――――――――――――――――――――――




 ティアは女の子女の子したものが好きだ。


 お洋服、アクセサリー、宝石、小物、家具、フルーツ、スイーツ、歌、ダンス、小動物、ぬいぐるみ、エトセトラ…


 まあ、とにかく『女の子』って感じのものがとにかく好きだ。それもなるべく派手なもの。

 ピンポイントなところをさせば、華やかなドレスやキラッキラの宝石などがmost好きなものだろう。言い方が悪いが、高そうで洒落たデザインのものは大抵好きだ。


 だから、日本式の『空白の美学』みたいなものはティアの好みじゃない。とにかく細部まで装飾された、余白のない美しさこそが美しいという考え方なのだ。僕の感覚はザ普通の日本人なので、美に対する感覚はティアとは合わない。


 つまり、ティアのために何かをするのであれば、僕の感覚なんてお構いなしに、とにかく派手にすることが重要なのである。そのことをわかっていそうなのはリシアたんくらいしかいないし、リシアたんはポンコツ臭が半端じゃないので僕が飾り付け責任者を担当することにしたのだ。


 ああ、飾り付けというのは今日のティアの誕生日会の飾り付けである。前日に飾り付けをしてしまうと、ティアにバレるから当日のティア帰宅までに飾りつけるのである。




――――




「お邪魔しまーす!!時間がないから手早く行きましょう!ラファは予定通りカチュアの面倒を見といてね!とりあえずティアがいつ帰ってきてもいいように玄関からやりましょう!」


「「「「はーい!」」」」「わかりましたわ!」



 今日の誕生日会の参加メンバーはナシアール家とハレア家とボールボルド家である。ボールボルド家というのはトゥリーの方であって、決してリヒトなんぞの方ではない。

 僕とトゥリーとティアは基本的にずっと3人でいるので当然のメンバーといった感じである。


 

 6月のヨモンドの誕生日会の参加メンバーはナシアール家とハレア家とドイシス家とトレバー家だった。

 後者の2家はヨモンドのクラスメイトの家である。挨拶をしたにはしたけど、僕は興味がなかったのであんまり印象に残っていない。

 ヨモンドとハロルドは一緒のクラスではあるが、別のコミュニティで生きているので、ハロルドがナシアール家に来たのは入学式の日が最後である。



 まあ、とにかく今日は僕たち3家の13人だ。

 現在はそのうちのトゥリー、ティア、ヨモンドと男親3人を除いた7人が家にいる。


 街長は街役所で働いているのだが、帰ってくるのはいつも18時くらいらしい。パパとセドルドさんもこっちに来るのはそのくらいになるし、男親は途中参加という形になる。



「アーニャちゃん!このでっかい熊はどこに置くー?」


 カラさんが見つけた熊は、僕が一目惚れしてなんとなく買ったやつだ。2mくらいある白のでっかいテディベアで、めちゃくちゃふわふわしているのだ。今日の誕生日会の飾りつけ費用は街長のお小遣いから出るので何でもかんでもとりあえず購入しておいたのである。


 買ったのはいいが、どこに飾るのか、それから今後どこに置くのかというのが問題になる。

 だが僕は天才なのですぐに良いアイデアが閃くのである。


「玄関の扉を開けた真正面に置いとこう!ティアも帰宅していきなりそいつがいたらびっくりだよ!」


 誕生日会の後どこに置くのかなんて僕には関係ない。


「それなら、玄関の飾りつけが全て終わるまで待ってくださいますか?もう少しで終わりますので」


 玄関の飾りつけはリシアたんに一任した。


 玄関はとりあえず美しい方がいいと思ったので、適当にギラギラさせるだけの僕よりも、その辺の感覚の優れたリシアたんの方が適任だ。割れるようなものさえ任せなければリシアたんでも問題ないだろう。

 ちなみにリシアたんはいつもご機嫌斜めな感じなのに、今日は鼻歌まで歌ってご機嫌なのである。かわいい。



「アーニャー?このたくさんいるうさぎさんたちはどうするの?――わ!こっちの箱にもいる!」


 ママが見つけた兎たちは、僕が一目惚れしてなんとなく買ったやつらだ。兎は寂しがりやなので10匹まとめて買ってあげた。手乗りサイズなので10匹いてもそれほど問題ない。

 ちなみに、一色じゃ地味なので白茶ピンクの3色買った。つまり30匹いるのである。


 買ったのはいいが、どこに飾るのか、それから今後どこに置くのかというのが問題になる。

 だが僕は天才なのですぐに良いアイデアが閃くのである。


「玄関の熊からパーティー会場のリビングまで道になるように置いておこう!白ピンク茶色の順番で!うさぎが案内してくれてるみたいでかわいいでしょ!」


 誕生日会の後どこに置くのかなんて僕には関係ない。



「アーニャさん!荷馬車が到着しましたよー!おっきい箱を2つ置いて行きましたが、何が入ってるんですか?」


 ヘロンさんが受け取ってくれた箱の片方は、僕が一目惚れして買ったひよこのぬいぐるみたちである。水色、黄色、ピンク、オレンジの4色×10で計40匹いる。

 こいつらの用途はちゃんと買う前に決めてある。天井からぶら下げるのである。ティアは空白を嫌うので天井も埋めてあげるのである。


 もう片方の箱には天井用の飾りの、星とかハートの形をしたきらきらの風船が入っている。空気入れの魔術具も買っておいたのですぐに膨らませられるのである。


「天井用の飾りなのでリビングに置いておいてください!玄関が終わったらリシア様に配置を決めてもらいます!あ、じゃあアーニャとヘロン様で風船を膨らませておきましょう!」


「わかりましたわ!」


「じゃあ、私とカラで壁の装飾をしておくわね!リシア様が用意してくれた図面通りでいいわよね!」


「うん!それでおねがーい!」


 よしよし。順調なのである。

 僕は4限の途中で帰ってきたのでまだまだ時間はある。今頃ようやく帰りの会が始まったくらいじゃないだろうか?そろそろエノーラちゃんにバレてもおかしくないし『いぬ』を手元に連れてこよう。


 『いぬ』というのはいつぞやの誕生日に貰った白い狼のぬいぐるみである。『ねこ』とお揃いであり、片方が聞こえている内容をもう片方に伝えることができるのである。ねこは現在トゥリーに渡してある。



「!?お姉ちゃん!このひよこどうするの!?」


 カチュアが寝たようなので、手の空いたラファが手伝いに来た。自分も風船を膨らませようと思って箱を開けたらひよこが出てきたから驚いたのだろう。


「だから天井の飾りだって。空を飛ばせるんだよ」


「!?ひよこは空を飛ばないよ!?」


 そりゃそうだ。いくらなんでも僕をバカにしすぎである。


 ラファは剣一筋に生きているのでこういう『かわいい』の感覚がわからないのだ。何でもかんでもリアリティーとかを考えてしまうのだろう。別にぬいぐるみをどうやって飾り付けようが問題はないのだが、それがラファにはわからないのである。


「それは知ってるよ。でもかわいいから飛ばせておくの」


「…ふーん。まあ私はこういうのはわからないからお姉ちゃんに任せるけど…お姉ちゃん自分が欲しいものをとりあえず買っただけじゃないの?」


「し、失礼な!ちゃんと考えて買ってるよ!お金を払ってくれてるのはアガヨさんなんだから!」


 自分の姉のことをいくらなんでも舐めすぎである。

 まったく失礼な話だ。僕はちゃんと事前に立てた飾りつけ計画通りに、必要に応じてそのひよこを買ったのだ。

 一目惚れしたから適当に買ったわけではないのである。



 一目惚れしたから適当に買ったのは熊と兎なのである。




――――




「よーーし!!完璧じゃない!?」


 1時間弱で飾りつけは完成した。


 ティアは今学校を出たところなので時間にはまだ余裕がある。余った時間はご飯までの時間に行うゲームの準備をしておくのである。


 用意したゲームは僕自作の人生ゲームである。


 この世界にもさまざまな種類の娯楽用ボードゲームがあるのだが、どれも競技性が高いゲームなのだ。

 これは僕個人の考えだが、誕生日パーティーなどでやるのであれば、勝敗にこだわったものよりも、決着までのプロセスに重点を置いたゲームの方が楽しめる。

 だから記憶を頼りに人生ゲームを作成したのである。


 人生ゲームは素晴らしい。

 僕の思う人生ゲームの素晴らしいところは概ね4点だ。


 ①ルール自体が単純明快なので、世界観だけちょいちょいといじれば、この世界でも老若男女を問わず受け入れてもらえる。

 ②ゲームの中でストーリーが生まれるので、思い出として残りやすい。

 ③強制的なイベントにより会話が発生するので、普段は話さない組み合わせも仲良くなることができる。

 ④運9割、実力1割くらいなので、みんなが全力でプレイをして対等に楽しめる。


 ①〜③は当たり前に素晴らしいことだが、意外と④こそが1番大切だったりもする。

 極端な話をすれば、サッカー部と吹奏楽部がいるパーティーでサッカーをしたら全員が全力で楽しめるのか?という話である。


 人生ゲームならイカサマや、ルーレットを意図的に操るみたいなことをしない限り、みんながある程度対等に戦える。

 それに加えて多少頭を使う要素が出てくるから面白いのだ。全てが運で決まるよりも、1割くらいは実力が勝敗に影響する方が面白いのである。



「ティアちゃんびっくりするでしょうねこれは!」


「ちょっとやりすぎなくらい派手だからねー」


 ママとカラさんはあまりの派手さにやられてしまっている。田舎村の大人には刺激が強すぎたようだ。

 ラファは何も言って来ないが、飾りつけが終わるとすぐにカチュアのもとへ行ってしまったところから考えると、やっぱりこういうものはそんなに好きじゃないのだろう。


「男性方には少し居心地が悪いかもしれませんね」


 まあ、それはそうだろうが、別にそんなことは今日は関係ないのである。主役はティアなのだから、父親達やヨモンドが居心地悪いのなんかどうでもいいのである。



「屋敷全体がおもちゃ箱みたいですわね」


「!そう!リシア様さすがです!アーニャはおもちゃ箱をイメージして飾りつけを用意しました!!」


 流石はリシアたん。こういうのに理解があると信じていたのである。



 おうち丸ごとおもちゃ箱は女の子の夢なのだ。


 キラキラに飾りつけられた壁には、頭の上くらいの高さに線路が引かれていて、そこを汽車が走っている。

 芝をイメージした緑色のラグには、豪華なおままごとセットが置かれていて、そこでぬいぐるみが生活している。

 天井と壁紙で部屋の中に空が作られていて、かわいい風船とひよこのぬいぐるみが飛んでいる。

 机の上にはかわいいいお菓子が山ほど並べられていて、手を伸ばせばすぐに食べられるようになっている。


 部屋中どこを見てもかわいいで溢れているのである。



 僕は日本人なのでなんたらかんたらとか言っていたが、あれは嘘だ。僕はそういうのも好きと言えば好きだが、こんだけ派手でゴテゴテしたかわいい空間もめちゃくちゃ好きだ。

 ずっと昔から一度はやってみたいと憧れていた。


 誰だって夢見たことくらいあるだろう。


 ティアのためとか言い訳しつつ、僕が好きなようにやったということを今更否定しない。でもティアのためを思って準備したというのも嘘じゃないのだ。ティアだってこういうのを夢見ていると思ったのである。



「…実は私もこういうことをやってみたかったんですの」


「!やっぱり!?アーニャも憧れてたの!!」


 リシアたんだってやっぱりそうなのである。こういうのは誰だって憧れるものなのだ。ティアもきっとめちゃくちゃ喜んでくれるはずなのである。




 あーあ!早く帰って来ないかなーー!!



 

用意したぬいぐるみは高価なものではありません。熊と兎とひよこを全て合わせてもねこ1匹と同じくらいの価値です。

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