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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
32/116

閑話 言い訳

クソガキの言い訳です



「アーニャちゃん!なんで『元気です』まで言ってくれないんですか!?明らかに元気じゃないですか!」


「はぁ…。何でもかんでも人に聞かないで少しは自分の頭で考えた方がいいよ?エノーラちゃんはもう大人なんだから」


「!ま、またばかにして…!!先生だって考えました!でもアーニャちゃんが何を考えているのかなんて、先生が考えても答えはわからないじゃないですか!?」


「…じゃあ、何でアーニャはわざわざ『はい』だけ言って『元気です』を言わないと思う?最初に言っておくけど、恥ずかしいからとか、バカバカしいからとかみたいな適当な理由じゃないよ。ちゃんとした言わない理由があるから答えてみてよ」


「え、えとー…元気じゃないからじゃないですか?」


「いや、別にアーニャは基本的に元気だよ」


「え、え――――と……。げ、元気じゃ…ないわけじゃないんですもんね……。えーっと……。うー、わかりません…」


「じゃあさ、エノーラちゃんは『元気です』を子供に対して半ば強制的に言わせるとことについてどう思う?」


「えー…いや、別にその、元気じゃないなら『元気です』って言わなくても良いんですよ?それに、アーニャちゃんは元気なんですよね?」


「質問の答えになってないんだけど」


「!えっ!?あれ、ご、ごめんなさい…もう一度質問をお願いします…うぅ…」


「エノーラちゃんは『元気です』を子供に対して半ば強制的に言わせるとことについてどう思う?」


「えーと…よくないと思います…?」


「アーニャもそう思う。それが言わない理由」


「――だ、だから!強制なんてしていませんよ!それにアーニャちゃんは元気だって自分で言ってたじゃないですか!?」


「だから『半ば強制的に』って言ってるじゃん。――逆にエノーラちゃんはさ、どんな性格の子であろうと、全ての生徒が、クラスメイト全員『元気です』って答えてる中で自分だけ『体調不良です』って言えると思ってるの?学校が用意しているルールは、元気なら『元気です』って答えるようにというだけであるのだから強制はしてません。だから『元気です』ということに何の強制力も働いていません。なんて、ふざけたことを本気で思ってるの?――私は一度も学校から強制をされているなんていう風には言ってないんだけど。どう思う?」


「そ、それは…」

「エノーラちゃんのお気に入りのサリアがもし、エノーラちゃんの庇護下にないヨスナイア先生のクラスだったとして、本当に何も躊躇うことなく『体調不良です』って言えると思う?言えたとして、そのあと悪ふざけの対象、もっと言えばイジメに発展しないなんてことを確実に言えるの?」


「も、もしとかの話なんて」

「なんで現時点で2組に『元気です』としか答えられなくて困っている生徒がいるという可能性すら考えられないの?もしかすると1組にだっている可能性もあるわけでしょ?…まあ、私が見てる限りいないけれど。――責任のある立場ならさ、『もし』とか『かもしれない』とかで物事を考えるべきでしょ。それともエノーラは常に『何も問題はないだろう』って考えてるの?『うちの学校にはいじめはないだろう』とか『うちのクラスの子はみんな幸せだろう』とか…もしかしてだけど、そんな風に考えてたりするの?――ねえ続きは?ほら、『もしとかの話なんて』…なに?』


「…っ」


「『もしとかの話なんて』なに?聞こえてたら返事くらいしてよ。ああ、それともエノーラちゃんの話を遮っちゃったこと怒ってる?」


「…い、いえ、そういうわけじゃ…」


「じゃあほら、『もしとかの話なんて』なによ?」


「…な、なんでもありません。アーニャちゃんの話を続けてください…」


「はぁ…34にもなってまともに会話もできないの?まあいいよ、どうせ『もしとかの話なんてしても意味ないですー!むははは!』みたいな感じでしょ?」


「…っ!」


「また返事すらないから話を続けるけど、出席確認の『はい、〇〇です』ってテンプレートの問題はそれだけじゃないんだよね。――例えばさ『頭痛がします』って答えた生徒がいたとするじゃん。別にその子はそう答えることに対してなんとも思わないし、周りの人もなんとも思わなかったとするよ。エノーラちゃんはどうする?」


「え、えと…朝の会の後に詳しく話を聞く…?」


「じゃあ『元気です?』って答えた子には?」


「…何も聞きません」


「じゃあ『咳が出ます』は?」


「…た、多分何も聞きません…」


「その線引きってなに?」


「え、えと、重大な問題に繋がるかどうか?」


「それなら、ただ咳が出てるだけの子はなんの問題も起こらないってことになるね」


「!そうじゃ!だって!流石にそこまで言い出したら」

「いや、その対応については普通だと思うよ。問題があるのはエノーラちゃんじゃなくて、その制度だよ。健康状態を確認するという大事なことを、たった一言で済ませるというのがよくないって言ってるんだよ。――あ、今更一言だなんて決めてませんなんて言わないでよ?みんな『元気です』の一言で終わってるのに、自分だけ長々と語る人が普通はいないことくらいわかるよね?――具体的に例えるとさ、『咳が出るし、なんとなく体が重い。昨日お風呂に入ったら少し頭が痛かったけど、朝起きたら治ってた』って子は朝の会でなんて答えると思う?『最近喉が乾燥してて咳が出る』って子はなんて答えると思う?」


「…どちらも『咳が出ます』?」


「まあ、多分そうなるよね。そうなってしまうのが問題なんだよ。回答をさせるっていうのはさ、ようは可能性を排除するってことなんだよ。――例えば『ABCどれですか?』って質問をして『Aです』って回答を受けたのであれば、BとCの可能性は排除されるわけでしょ?それと同じで、出席確認で健康状態を回答させるとある程度の可能性は排除されるんだよ。別にそれが1人に5分ずつとって回答させたなら問題ないよ。むしろ、それくらいすれば生徒も先生も安心だよね。でもさ、せいぜい5秒程度の時間で回答させたらどうなる?――正確な情報の共有なんて勿論できないし、それどころか『〇〇』というだけの回答を受けたら、『〇〇』までで情報を遮断してしまうよね?――つまり、もしかしたらその〇〇の裏に重大な問題があるかもしれないという可能性は排除してしまうわけだ」


「……」


「そして、可能性を排除してしまうのは何も質問をした側だけじゃない。回答をした生徒だって自分の健康状態を『〇〇』で締め切ってしまうんだよ。限られた選択肢の中から一つだけを選んで回答をしてしまえば、自分はそれだと決めつけてしまう。これは大人だってそうでしょ?――それが小さい子供なんだからもっとって話だよ。『咳が出ます』って回答をした生徒はそこまでで自分の体調についての考えを締め切ってしまうわけだ。お昼を過ぎてだんだん体調が酷くなってきても、小さい子供じゃどうするべきか判断がつかない。本人が倒れてからやっと、周りの人が異常に気がつくなんてのは普通にありえる話だよね」


「結局私が言いたいのはさ、健康状態を一言で言わせるという制度が良くないということなんだよ。それの基本回答が『元気です』なんだから尚更だよね。だって、ちょっと怠いけどまあ言うほどじゃないって判断しちゃった子は当然『元気です』って回答をすることになるでしょ?これは明らかに危険だよ」


「…はい…」


「ああ、エノーラちゃんが質問してきたのはアーニャが『元気です』を言わない理由だっけ?――エノーラちゃんでもわかるようにまとめると、『元気です』とは言いたくない子が『元気です』を言わないですむような空気作りと、子供の健康を軽んじる悪しき慣習へのささやかな抵抗のためにアーニャは『はい』だけしか言わないんだよ。理解して貰えたかな?」


「…はい…」


「つまり、アーニャ的には『はい、元気です』って返事は子供っぽくて恥ずかしいってわけ」


「…はい…」


「ん。それじゃあそういうことで」


「…はい…」












「!?あれ!?え!?あ、アーニャちゃん!?」



不憫なエノーラちゃん

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