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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第二十一話 自己紹介なのである



 小学校の入学式は6年生のお兄さんお姉さんに手を引かれて入場をすることから始まった。


 入学式っぽい音楽の流れる中、紙で作られた例のあの花のアーチの下を潜って入場したときの、なんとも言えない鼻の高さは今でも忘れられない。

 今思えばアーチを持っていてくれたのは多分5年生とかであろう。大感謝なのである。


 中学、高校はそこまで派手な感じではなかったものの、やっぱり式の始まりは新入生の入場だったし、日本の入学式は明らかに新入生のためのものという印象が強かった。



 日本とトールマリス王国の大きな差はそこだろう。


 トールマリス王国の入学式は新入生のためというよりも、学校そのもののためにあるといった感じが強い。

 『新しい学生を迎える学校に祝福を』みたいな祈りを、神と国に捧げるための式典なのである。



 そういうわけで、全ての参加者は等しく平等であり、式典の開始時刻までに着席しておくものとされていた。新入生入場みたいなプログラムはなかったのである。

 ちなみに席は、ステージに近い方から順に新入生、在校生、保護者、先生と割り振られてはいたが、それさえ守れば自由席だった。


 とはいってもまあ、新入生に向けた挨拶とか祝辞とかは流石にあった。主役はあくまでも学校そのものだが、準主役は新入生なのである。



 プログラムはこんな感じだった。



1.開式の祈り 15分

2.学校長挨拶 (なかなか愉快な学校長だった) 20分

3.新年の祈り (春の神に挨拶をした) 30分

4.王国讃辞 (王様素晴らしい的なやつ) 30分

5.ナスフォ街長挨拶 (街長の話はクソつまらんかった) 20分


   ―――― 休憩 ―――― 10分


6.新入生代表挨拶 (ヨモンドが代表だった) 10分

7.在校生代表挨拶 (金髪碧眼のイケメンが出てきた) 10分

8.篤学の誓い (私達は一生懸命学びます的なやつ) 20分

9.閉式の祈り 15分



 死ぬほど堅苦しいし、祈りとか誓いがバカ長いしで、ほとんどの新入生の集中力は完全に切れていた。

 寝ている子はハロルドを含めて5、6人いたし、おしっこを漏らしちゃった子だって2人いた。


 漏らしちゃった女の子2人は一生残る心の傷になってしまっただろう。かわいそうに。


 僕は男女両方を経験しているから言えるのだが、竿が生えていない方がトイレの我慢が効きにくい。

 別に竿の長さの数センチのゆとりで耐えていたような気はしなかったが、竿が生えてない方が我慢が効かないということは確実に言えるので、何かしらちゃんとした理由があるのだろう。


 男子諸君に漏らしちゃった女の子をいじるようなことはしないように釘を刺しておく必要があるだろう。……いや、変に触れない方がいいのだろうか?



 ティアは良くも悪くも真面目な子なので、全てのプログラムに全身全霊で向き合っていた。話を聞く時は相手の目を見て真剣に聞くし、祈る時はしっかりと祈っていたし、休憩時間にしっかりお手洗いに行ったので漏らしてもいない。



 僕はそれっぽく見えるように適当にこなしておいた。

 当たり前の話だが、神にも王国にも学校にも忠誠心なんてないし、真面目に向き合うはずなんてないのである。


 なんなら暇すぎて、作りかけで終わっていた『消音魔術』を完成させてしまったのである。

 仕組みとしては簡単で、空気の振動を止めることで音を消す魔術である。理論自体はかなり前から完成していた。


 試しに軽く歌ってみたが隣にいるティアも気が付かなかったので、問題なく完成したと言えるだろう。ただ、止めることができる振動の大きさにはまだ限度(100dBくらい)があるので、あまり大きな音を消すことはできない。


 1人カラオケ大会を開いて暇を潰そうと思ったのだが、口の動きが明らかに怪しすぎることに気が付いたのでやめた。



 式典が終わると1年生の担任の先生2人がそれぞれの生徒の名前を読み上げて、クラス分けが発表された。

 式典のプログラムには含まれてはいないが、実際のところはそこまでを含めて入学式といった感じだった。


 そこまでを合計して4時間弱かかった。


 8時から始まったのにもう12時になるとこだ。本当にイカれているとしか言えないのである。




――――




 式典が終わるとすぐに、在校生と保護者はホール後ろ側の出口から退場するよう指示があった。

 残された新入生はそれぞれの担任のところに集まってから、みんなで教室に移動するのである。



「はーい!それじゃー1組の子は先生のあとについてきてくださーい! あ、先生って先生のことですよ!ヨスナイア先生の方に行かないでくださいねー!むはは!」



 愉快な僕らの担任が手を大きく振って呼んでいる。



 我らが1組の担任エノーラ・モルフィー先生は茶髪青瞳で、笑い方が特徴的な30前くらいの女性である。見るからに優しそうだが、少し鬱陶しそうでもある。


 モルフィー先生の横で腕を組んで2組の生徒が集まるのを静かに待っているのは、2組の担任マルゴー・ヨスナイア先生である。

 ヨスナイア先生は白髪混じりの黒髪で、瞳を真っ赤に輝かせた、めちゃくちゃ怖そうなおじさんである。



「いや!むしろ2組の子が私の方に来ちゃいそうですね!! むははは!!ちゃんとヨスナイア先生の方にいってくださーい! 大丈夫!食べられたりはしませんよー!たぶん!!」


「…」



 …………この愉快な先生には怖いものがないのだろうか?


 ヨスナイア先生がものすごい顔でエノーラのことを見ている。どういう感情なのかは読み取れないが、普通の人間のする表情ではないということは確かだ。2組の子がおしっこをちびってしまわないか心配なのである。



 今年入学したナスフォ初等教育学校の一年生は27人で、僕とティアとトゥリーを含む14人が1組で、ヨモンドとハロルドを含む13人が2組だ。

 ティアと一緒のクラスになれたことも、担任がヨスナイア先生じゃないことも本当に運が良かったのである。


 まあクソ長くてだるかった初登校も、あとはクラスに行って挨拶をしたら終わりである。

 この後ティアの家でお昼ご飯を食べる予定なのだ。さっさと下校したいのである。




――――――――――――――――――――――――――




「それじゃあまず初めは、大きな声で挨拶をしましょう!!みなさーん、こーんにーちわー!!」


「「「こーんにーちわー!」」」


 教室についてそれぞれの座席に着いた僕たちは、先生も含めた15人による自己紹介を開催している。


 この学校の教室は、日本の学校のように機能的で整えられた立派なものではない。

 教室の前方には教壇があるが、その後ろはただの白い壁であり、黒板なんてものはない。

 右側は前と後ろに廊下に繋がる扉がついている白い壁で、左側は窓が並んでいる白い壁だ。この辺りの作りは日本と変わらない。

 教室の後ろには、それぞれのカバンを入れるため木箱が並んでいて、その上に上着を掛ける用のハンガーラックがついている。廊下側の方に何かしらかのためのコルクボードがついていて、窓際の方には2組の教室に繋がる扉がついているのである。

 ちなみに、さっき覗いたところ2組の教室の形は、教室の前に1組と繋がる扉がついている以外は1組と同じで、後ろの扉は校庭に繋がっているようだ。



「あれー?挨拶をしていないお友達がいますよー?先生悲しいです!皆さん一緒に大きな声で挨拶をしましょう! みなさーーーん!こーーーんにーーーちわーー!!!!!!!」


「「「「「こーんにーちわーー!!!!」」」」」


 昔父に連れて行ってもらったヒーローショーのようだ。


 ティアは僕の斜め前の席なので後ろ姿がよく見えるのだが、後ろ姿だけで精一杯大きな声で挨拶をしていることがわかる。とてもかわいい。



 座席は背の順で決まっているのだが、僕の席は後ろから2列目の左から2番目である。


 こう聞くと普通なら、一番後ろとか一番端よりも逆に目立たない良席だと思うのだが、14人しかいない我がクラスの座席は455の3列なので、僕は教室のほぼど真ん中である。

 なので寝たりサボったりしたらすぐバレるのである。



 ちなみにトゥリーは僕の真後ろにいる。

 それなりに大きな声でそれなりに挨拶をしている。つまらないといえばつまらない男なのである。



 先生は若干不服そうな顔をしてはいるが、これ以上続けても時間の無駄と判断したらしく、自己紹介を始めた。


「んー、まだ少し足りないけどよしとしましょうか!改めましてこんにちは!先生は水の魔術師エノーラ・モルフィー、34歳独身です!!好きな食べ物は肉!嫌いな食べ物は野菜!みんなは好き嫌いしちゃダメだからね!むはは!気軽にモルフィーせんせーってよんでね!」


 エノーラは第一印象で思った通りの愉快な人だ。


 喋ってる間もずっと手がわちゃわちゃ動いていて、落ち着きがないとも言えるが、一年生の担任ならこのくらいが丁度いいだろう。まあ、34歳と聞くと若干きついものがある。


 瞳の色でわかっていたが水の魔術師らしい。村には1人もいなかったのでどういう魔術を使うのか気になるのである。


「それじゃあ名前順でアーニャちゃんからお願いしまーす!」


 先生はそう言って僕に手招きをする。どうやら前に出て自己紹介をするパターンのようだ。



「こほん。はじめまして、ガポル村出身のアーニャ・ハレアです。好きな食べ物はチョコレート、嫌いな食べ物はエノーラちゃんと違ってありません。好きなものは猫とぬいぐるみです。1年間よろしくお願いします」


「!? あ、アーニャちゃん…先生は、先生ですよ…?」



 いろいろ考えたけど無難に終わらせることにした。


 僕が変に張り切ったりするのも、逆にそっけなく終わらせすぎるのも、後続の子に負担をかけてしまうだろう。

 なので明確なテンプレートを作ってあげたのである。あとの13人はそれに従えばいいだけだ。


 [①出身地 ②名前 ③好きな食べ物と嫌いな食べ物 ④好きなもの ⑤ひとこと]シンプルイズベストなのである。



「えーと、あ、アラネー・マキルトンです…。えと、その、よ、よろしくおねがいちっ!お、おねがいします!」



 ……僕に続いたお漏らし少女①がテンパりすぎてテンプレを破壊してしまった。


 お漏らし少女①は黒髪黒瞳のとても平凡な女の子で、別に美人でもないけど不細工でもない。制服は僕より一回り大きく作ってあるようで、もしかしたら6年生まで着るつもりなのかもしれない。


 アラネーは、舌を噛んでしまったことがよほど恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いてしまっている。


 美人ではないが、ぶかぶかの制服を着てキョドキョドしている姿はとてもかわいらしい。お漏らしに続いて、自己紹介で舌を噛んでしまうというミスも、ドジっ娘感がマシマシでなんとも素晴らしいのである。



 隣の席だし、これから仲良くしていこうと思う。



――――




 クラスメイト全員の自己紹介を聞いた感想は『まあ6歳なんてこんなもんか』って感じである。


 トゥリーは僕の作ったテンプレ通りに自己紹介をしていた。トゥリーには昔から、僕のいう通りにしておけば間違い無いと教えてあるので、そのおかげだろう。


 ちなみに[④好きなもの]は鍛えることと言っていた。


 ティア様はティア様だった。

 好きなものとか嫌いなものなんかは言わずに、名前と、明らかによろしくするつもりのない『よろしくお願いします』を言っただけである。



 その他で特徴的だったのは『リヒト・ボールボルド』と『サリア・ローラム』くらいである。


 リヒト・ボールボルドは、トゥリーと同じ姓だったのでなんとなく気になった。


 トゥリー曰く、ボールボルドがよくある姓ってだけの話であって、別にリヒトと血縁関係はないらしい。リヒトは茶髪に緑色の目をしたトゥリーとは似ても似つかない不細工なので、まあそういうことなのだろう。


 サリア・ローラムは、お漏らし少女②である。


 腰まで伸ばした若紫の髪と、カラさんと同じ蜂蜜色の瞳がすごい綺麗な子だ。瞳はおしっこ色に見えなくもないが。

 スラッと背が高く、顔も少し色っぽい感じの艶のある美人さんで、とても6歳には見えないのである。


 ただ、この子は見た目からは想像できないほど人見知りで、とてもヘニョヘニョした子だった。

 自分では名前すら言えなかったので、代わりにエノーラが紹介をしてくれたのだが、3月30日生まれということでみんなより幼い子だから優しくしてほしいとのことらしい。

 このくらいの歳の一年は大きな差なのである。




 まあ、そんなこんなでやっと初登校は終わった。


 校門の前で大人軍団と合流という約束なので、とりあえずトゥリーとティアを引き連れて教室から出るのである。




「それじゃエノーラちゃんまた明日!」


「!? ねえアーニャちゃん!? 先生は生徒じゃなくて先生だからね!? ねえ、絶対わかっててやってるよね!?」


「エノーラさんまた明日です!」


「エノーラちゃんまた明日な」


「!? ねえ!アーニャちゃん!? ティアちゃんとトゥリー君が真似しちゃってるから!!」



 僕は紳士だから挨拶はちゃんとするのである。


男子高校生って若い女の先生をちゃん付けで呼びますよね。



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