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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第十七話 バスに乗るのである



「…立たなくて良いといつも言っているのに…。それに今日は互いの家族もいるんだ、もっと気楽な食事をしよう」


 カドルテ様は、挨拶のために立ち上がっていた僕たちを見て困ったような顔をすると、僕たちに座るよう促してきた。


 入ってきて2秒でわかったが、カドルテ様は本当に砕けた食事会を望んでいるようだ。

 それなら僕たちがいつまでも堅苦しくしている方が失礼というもんだと僕は思うのだが、周りを見てみれば全く砕けるつもりのなさそうな雰囲気である。


 かわいいぼくがかわいく場を和ませても良いのだが、妾とその娘がケチつけてきそうなのでやめておくことにする。



「お久しぶりです、カドルテ様。本日は家族共々お招きいただき誠にありがとうございます」



 パパは珍しくキリッとした態度で挨拶をする。

 領主様相手というのであれば、これでも砕けた挨拶と言えるのかもしれないが、明らかにカドルテ様が求めている雰囲気ではない。KYというやつだ。



「ロンドもアガヨも堅苦しいのはよせ。今日は身分など気にせずに友人として楽しもうではないか。私達から砕けてあげなければ子供達も話しにくいだろう」


 カドルテ様は僕たちの方を見ると、君たちももっと自由にくつろいでくれと言って、優しく微笑みかけてくれる。


 そんなカドルテ様の様子を見てパパと街長は、ようやく望まれている態度を理解したようで、2人で顔を見合わせて微笑むと、街長からそれぞれの家族の紹介を始めた。




――――



「アーニャ君とヨモンド君とティア君がドルモンドと同い年というわけか。このくらいの歳の子だと女の子の方が少し年上に見えるな」



 確かにドルモンド様(カドルテ様のご子息)やヨモンドと比べて、僕や妾の娘の方が年上に見える。なんならラファの方がドルモンド様とヨモンドより年上に見える気もする。


 まあ『このくらいの歳の子』に限った話でもないのではないだろうか?

 いくつになっても男の方が子供っぽく見えると個人的には思っている。


 いや、ある程度の年になると女性の方が男性より若く見える気もするし、もしかすると女性は『一番美しい年齢』に見せようとしているのかもしれない。

 それが20なのか30なのかはわからないが、その年齢に近く見えるように努力をしていると考えれば、女児が大人っぽく、おばさんが若く見える理由の説明がつく。



 まあ、別にそんな話はどうでもいいのである。



 僕たち一家の紹介の後、カドルテ様がヘレナ様(カドルテ様の奥様)とドルモンド様の紹介をしてくれた。



 ちなみにこの国では、人数の多い家族から順に家族紹介をするというルールがある。

 元々は、大きなパーティーなどで、大家族を最後の方に紹介をされると覚えられないが、少人数の家族であれば覚えられるであろうとかいった理由で作られたルールらしい。


 今日の食事会程度の人数であれば、そんなことを気にしなくても覚えられるのだが、ルールとして出来上がっているので街長一家から紹介し始めたのである。



 そして3人家族のカドルテ様が最後なのだ。

 このルールに身分は関係ないのである。




――――




 ドシンミートハウスの普段のディナーは、メインとサラダとスープとパンのセットなのだが、今日はフルコースなので普段食べないようなおしゃれなのが出てくる。


 この世界のフルコースというのは初めてなので、どんな順でどんな料理が出てくるかというのはまだわからない。

 現時点までで、スープ→ソーセージ→サラダの順番で出てきているので、向こうの世界と違うということは確定している。


 ちなみに一つ一つの量がめちゃくちゃ多い。

 この国では料理を残すことは良くないとされているので、僕が食べられない分はパパが食べてくれる。

 僕とママは食が細いのである。



「知っているか?フルコースというのはもともと会話を楽しむためにできた食事のけいしきなんだ。アーニャとティアの仲が良くないのは僕としてはうれしくない。なんか話をしてみたらどうだ?」



 自分だってティアと仲良くないくせに、ヨモンドが僕に無茶振りをしてくる。本人は嫌がらせのつもりなんかではなく本心から言っているのだろうが、それが逆にタチ悪いのである。



 …さてどうしたもんか。



 妾の娘と話すつもりはないのだが、ここで会話をしなくては僕が悪者になってしまう。

 僕とティアの親達(妾を除く)は僕とティアに仲良くなってもらいたいらしく、会話をするのを待っているといった感じで黙っている。

 黙られると余計に喋りにくいのだが、そのことを指摘するのも空気を悪くしてしまいそうなので、打つ手なしといった感じである。



「皆さんがそんなに静かにしてしまっては、2人とも緊張してしまって喋りにくいと思いますよ」


 僕のティアが途方にくれていると、ドルモンド様がクスクスと笑いながら僕の言いたかったことを言ってくれた。

 僕が言えば角が立つようなことも、この方が言えば雰囲気を和ませる一言に変わってしまう。



 ドルモンド様はとても魅力的な方だ。



 見た目はふっくらしていて幼くみえるが、表情も姿勢もキリッとしていて美しく、ナイフの使い方は勿論、些細な目の動きに至るまで全ての動作に気品が溢れている。

 まだ6歳だというのに、元高校生の僕よりもしっかりしているのだ。


 そして、場の空気を良くすることがとてもうまい。


 家族紹介の時には喋ることなくその表情だけで僕たちのお通夜フェイスを笑顔に変えてくれたし、食事が運ばれてきてからは、味や盛り付けの感想などで話題を絶えず提供してくれるので、自然と全員の口数が増えていった。



 きっと空気を良くする力というのは才能による部分もあるのだろうが、この方の魅力は才能だけによるものではなく、とてつもない『努力』によるものだと僕にはわかる。



 体系や顔を見れば、ドルモンド様の外見が生まれつき優れていないことはすぐにわかる。

 本当に失礼な話なのだが、正直ドルモンド様の見た目は優れていないなんてレベルではなく、下の中の下なのである。


 癖っ毛のくすんだブロンド、目つきが悪くみられがちな重い瞼、太りやすい体質、汗疹やニキビの出来やすい肌質、失礼な話だが、体臭だって気を使わなければ相手に不快に思わせてしまうものだろうと予想される。…これは経験則なのでもしかしたらものすごくいい匂いの可能性はある。


 それなのに僕はドルモンド様を一目見た時から不快に思うことなんてなく、むしろとても『美しい』人だと感じた。


 ここまで圧倒的に人よりも劣った欠点を補うためには、とてつもない努力が必要なはずだ。

 僕には想像もできないのだが、少しでも自分が良く見えるように試行錯誤をして、最善を尽くし続けているのだろう。


 姿勢や表情が美しいのはその延長線なのだ。

 生まれながらに人よりも劣った自分の見た目を補うため、本当に幼い頃から積み重ねた努力ゆえの凛々しさだろう。


 空気を良くする力だって才能だけのものではないはずだ。

 勿論こういった能力は才能や親の育て方による部分も大きいが、ドルモンド様自身が周りの視線を気にして生きてきたからこその力だと僕は思う。


 とにかく、僕なんかには語り尽くせないほどの魅力がドルモンド様にはあるのである。


 まだ6歳のこの方を、僕は心から尊敬している。

 今まで出会った誰よりも素晴らしい方なのである。



「アーニャとティアは2人とも綺麗な髪の毛をしているよね! 僕はほら、見ての通り癖っ毛がひどくてさ、毎朝セットに困っているんだ。良かったら2人の髪のお手入れの仕方を教えてくれないかな?」


 結局、僕もティアもドルモンド様に甘えて話題を提供してもらってしまった。

 頼りっぱなしで申し訳ないのだが、僕に今できることは角が立たない回答をすることだけである。

 ドルモンド会話バスに乗せてもらうことにする。



「私は髪質が柔らかいので、乾かすときやセットをするときに、ぺったんこにならないように気をつけています。ドルモンド様の髪質は硬い方だと思うので私よりもナシアール御令嬢の話の方が参考になるかも知れません」



 …あれ、僕ってこんなに会話下手だった?


 角が立たないどころか、ちくちく棘が出ている気がする。

 しかしながらそんな小さな棘などは、ドルモンド様がへし折ってくれるので大丈夫なのである。



「へー、ぺったんこにならないようにってのは僕にはなかった考え方だ! 僕はむしろ爆発しないよう抑えることに全てを注いでいるからね…自慢するようなことではないけど…」


 ドルモンド様はへへへと恥ずかしそうに笑う。

 ほら、棘なんてなかったのである。


「ドルモンドには申し訳なく思っていますわ。癖っ毛は私の遺伝なんですの…」


 そういってヘレナ様もへへへと恥ずかしそうに笑う。

 流石は親子、笑い方がそっくりなのである。



 …ほら、ここまでお膳立てされたんだから喋れよティア。



「…わ、私は髪をかわかす前にオイルをつけるようにしていますわ!フルーツのオイルなんですの、いい匂いですしとってもおすすめですわ!」


「フルーツのオイルなんてのがあるのか!すごく気になるけど、男がつけたら少しかわいすぎるかな?」


 ティアがやっと会話に参加をした。

 あとは僕がここに加われば完璧というわけだ。

 ドルモンド様もいるし、加わるくらいなら僕にもできる。


「え、えと…あ、レ、レモンとか!きっとさわやかな香りがしてドルモンド様によくおにあいになると思われます!」


「確かに私もドルモンド様にはレモンがお似合いになると思います!爽やかで凛々しいドルモンド様にぴったりです!」


 どうよ?なかなかよくない?


「へへへ、そうかな?こんなに可愛い女の子2人にそんなこと言われると恥ずかしいけどすっごい嬉しいや!2人ともありがとね!」


 ドルモンド様はこういう時に自分を卑下して「お世辞でも嬉しいよ」みたいに言わないのが素敵だ。

 単純な『ありがとう』という言葉は、どんな言葉よりも言われて嬉しいし、そもそも卑下されるとこっちとしては反応に困るのだ。その辺りもドルモンド様は完璧である。



「それとさ、良かったら僕のことはドルモンドって呼んでくれないかな?敬語もなしでさ。 正式な場だとまた違うかも知れないけど、こういうプライベートな場ではただの友人として仲良くして欲しいなーって思うんだ」


「「…!」」


「アガヨ、ロンド」


 パパと街長は複雑な顔をして僕とティアを見てくるが、カドルテ様がそれをやめさせる。


 ドルモンドバスには乗るに限るのである。


 ここでそんなことはできません!なんて言わないのがベターだ。パパと街長はどこまでもKYである。



「えへへ、よろしくねドルモンド」


「…え、えと…よ、よろしくお願いします、ドルモンド…」


「ヨモンドもラファもよろしく!」


「あぁ、よろしくドルモンド!」


「よろしくおねがいします」



 子供達は一気に仲良しになれた感じがする。

 流石はドルモンドバス。



「あ、ア、アーニャさん!!」



 …?




「わ、私のことも、ティアとお呼び下さい! そ、その、えと、あの、……っ先ほどはごめんなさい!!!」


「…私も意地を張ってごめんなさい。よろしくねティア」



 ドルモンドバスは完璧である。


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