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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第十六話 お通夜なのである



 ガポル村ほどではないが、ナスフォ街だって田舎である。



 ナスフォ街はパークス領の中では2位か3位に大きな街ではあるが、それでもパークス領自体が王国の端っこの田舎なので、ナスフォ街とて王国基準で考えれば田舎なのである。


 イメージとしては青森県で3番目に大きい街って感じだ。


 人口順でいえば弘前市だっただろうか?大方の人は名前を読むことすらできないだろう。

 信じ難いと思うが『ぴろまえし』と読むのである。



 余談だが、青森県には横浜町という町がある。


 青森県民にとって『横浜』といえば『横浜町』であり、誰も赤レンガ倉庫のある方だとは思わないのである。

 青森県民の彼女にデートで横浜に行こうなんて言ったら振られてしまうので要注意だ。



 結局何が言いたかったかというというと、ナスフォ街程度の分際で僕らのことを田舎者扱いするなという話である。




――――――――――――――――――――――――――



 馬車から出てみてびっくり。

 連れてこられたのは『ドシンミートハウス』だった。



 領主様は毎年、各地のレストランで食事会を開催しているとのことらしく、ナスフォ街で一番良いレストランといえば『ドシンミートハウス』なのである。


 いや、どうなの?とは思うのだが、カドルテ様は本当にフランクな食事会を望んでいるらしい。

 各長の家に訪問をすれば、いろいろと気を使わせてしまうだろうと考え、各地の普通のレストランにしているそうだ。


 ドシンミートハウスとはいっても当たり前だが貸切であり、馬車から出てすぐのところから、座席までずっと警備兵が並んでいるため、いつもとは違った雰囲気である。



 カドルテ様としてはホストが先に待っておきたいと言っているらしいが、流石にそれはできないので毎年カドルテ様の到着30分前に席についておくらしい。

 僕としては座って待つというのもどうなのかとは思うのだが、これまでの話からカドルテ様の人柄を考えると、店の前で立って待っていたら逆に困らせてしまうとも思うので大人しく座っておくことにした。


 座って30分待つなんて別になんてことはない。

 いや、()()4()()()()()()()()()()なんてことはなかった。


 だが、僕らが店に着いた頃にはすでにナシアール一家が到着していたのだ。




 ――この一家がなかなかどうして、最悪なのである。




――――――――――――――――――――――――――




 アルナーイ一家は第一印象から最悪だった。



 正妻は妙に都会アピをしてきてるような気がして鼻につくし、その息子は明らかに僕のことを狙っているのだ。6歳児のくせにマセガキである。


 妾はずっと正妻に対抗意識ばちばちで私の方が美人ですアピールをしてくるし、娘は僕とラファに対抗意識ばちばちで真っ赤なぶりぶりのドレスをアピってくる。


 次女は赤ちゃんなので言うことはない。


 街長は特に変なところもないし、パパと仲が良さそうだから良い人なのだろうが、一家の責任は全て家長の責任なのでわるいやつである。



 僕のテンションは一気にガタ落ちだ。

 すでに食事会から帰りたい気分なのである。




――――



「おいお前、僕と同い年なんだろ?来年からうちの学校にくるのか?」


「そうですね。来年からはナスフォ街の初等教育学校に入学させて頂く予定です」


 …本当であれば無視したいところなのだが、空気が悪くなることをわかっててその選択を取るほど僕はバカじゃない。

 仕方ないからある程度反応してあげるのだが、『お前』という呼び方も『うちの学校』という言い方も、何もかもが気に食わない。



「ふーんそうなのか。お前は『いなかもの』だし大へんだろうから僕がめんどうみてやるよ。お前、名前は?」


「アーニャ・ハレアです」


「アーニャ、僕の名前はヨモンドだ。名前でよぶことをゆるそう。妹のティアも同い年なんだ、仲良くしよう」



 ヨモンドは黄土色の髪をかきあげてカッコつけてくる。イケメンでもないくせにナルシストとは救い用がない。

 しかし、上から目線なのは腹立つが、言っていること自体は別に悪いやつではない。下心が丸見えでなければ仲良くしてやっていたかもしれない。



「よろしくですわ」



 妾の娘は、僕の考えたありきたりな名前ランキング一位のくせにめっちゃ鼻につく態度だ。妾は見るからに派手な名前が好きそうなおばさんだし、ティアという名前は妾がつけたのだろう。

 正妻よりも妾の方が美人なので、ヨモンドやその妹と比べてティアの見た目は整っている方だろう。十分に可愛いと言える部類だ。



「よろしくお願いしますヨモンド様、ティア様」


「…私がいつ名前でよんでいいといいました?『いなかもの』がちょうしにのらないでくださるかしら?」


 おい、ぶっ殺すぞクソブス。


「! ティア、なんてことを言うんだ!謝りなさい!!」



 街長がすぐに叱りつけてくれたおかげで僕は一線を越えずに済んだ。


 街長は僕だけでなくパパやママにも謝ってきた。

 パパは子供が言ったことだし、田舎なのは事実ですからとか言って全く気にしていない様子だ。

 ママは緊張でガチガチになっていて状況を理解してない。


 あのクソブスはといえば父親のことを舐めきっていて、完全に無視をしている。



「アガヨ、落ち着いて下さい。ティアも反省していますし、ハレアさんも気にしていないって言ってるじゃありませんか」



 妾はマジで何考えてるのかわからない。妾がでしゃばってくんなよ。そもそも妾がなんで普通に座ってんだよ。


 なんでラファが平気な顔しているのかもわからない。


 いやうそだ。ラファはちび妹に興味津々で周りの話なんて聞こえていないのだ。ラファは赤ちゃんを見るのは初めてだし無理もないのである。

 正妻とラファとちび妹の所だけ穏やかな空気が流れてる。



「いやしっかり謝罪するべきだティア。アーニャに謝れ」


「お母様!お兄様が私のことをまたいじめてきます!私がお兄様よりもなんでもうまくできるからってお兄様は私がきらいなんです!」


「……い、いまはそんなことかんけーないだろ!?父上!なんでもっとティアをしからないんですか!?」


「ヨモンドさん?お父様になんて態度をとるんですか、謝ってください」


 いや、妾が嫡男になんて態度とってんだよ。


「は、はは。いや、アーニャも気にしていませんし、ほ、ほら、せっかくの食事会ですし仲良くやりましょ?ほら、なアーニャ?」



 あーあ。もうパパなんてだいっきらい。



 パパは娘の気持ちも考えないでみっともなくヘコヘコしているし、ママはまだガチガチだし、ラファはニコニコだ。


 ヨモンドは自分の母親も父親も庇ってくれないし、妹と妾にいじめられて泣きかけてる。


 パークス御一家様がこれから来るというのに、空気はとんでもなく最悪である。僕がここでブチギレようものなら食事会はお通夜になってしまうだろう。



 …はぁ。大人な僕が仕方なく折れてやるのである。

 

「申し訳ございませんでしたナシアール御令嬢。何分田舎者でして、下の名前を呼ばせて頂くことが無礼なことだとは存じ上げておりませんでした。どうかお許しください」


「…へ? え、えと…っ…ふんっ!」



 へっ!インテリ感を醸し出してやったら案の定びびって黙りやがったなクソガキが!


 僕はこう見えてプライドが高いので、タダでは折れてやらないのである。




――――




 僕が折れてやったのに空気は結局お通夜である。



 妾とそのガキはなにやらプライドに傷がついたようで、僕たちのことをやたら敵視してくるし、そのせいでママの顔はもう死にかけている。


 パパも街長も2人してクソガキの顔色を伺っているといった感じだ。まったく父親とは情けない生き物である。


 ヨモンドはあれ以降自分の味方はいないと思ってしまい、俯いて黙り込んでしまった。


 さっきまで穏やかな空気が流れていたラファ軍団も…

 …いや、別に相変わらず穏やかな空気が流れていた。



 …どうすんのさ、この空気。



 このとんでもない空気が改善されないまま、衛兵たちに動きがあった。パークス御一家様が到着したようだ。

 お通夜御一行は席から立ち上がり領主様を歓迎する姿勢をとるが、その顔はみんな死んでいる。


 僕はほのぼのとしすぎて周りが見えていないラファ軍団に声をかけてあげる。ここでラファにだけ声をかけても角が立つので、正妻に声をかけるのである。


「奥様、パークス御一家様が到着なされました」


「! あら、ありがとうございます!妹さんもしっかりしているけど、お姉さんはもっとしっかりしているわね」



 正妻は僕に礼をいうと、ちび娘を抱っこして立ち上がる。

 その後、ラファに声をかけて立ち上がるように教えてあげてくれた。



 なーんだ。正妻はいい人じゃないか。


 ヨモンドも悪いやつではないし、やっぱり悪いのは妾とその娘だけだったのである。

トールマリス王国では一夫多妻が認められています。

ナシアール家はヘロン・ナシアールが第一婦人でリシア・ナシアールが第二婦人です。妾じゃありません。


*2022/1/18

アルナーイ一家は誤字ではなくアーニャがわざと馬鹿にして間違えてるだけです。紛らわしくて申し訳ありません。

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