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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第二章 ガポル村の天才幼女
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第十三話 初魔物なのである



「にゃーーーー!ーーー」



 お、森に入って30分、やっと初魔物である。


 反応的にそれほど大きな魔物ではないだろう。この辺りの気候やパパの話を考慮すれば鋭黒狼(えいこくろう)地這鷹(ちしゃだか)程度と予想できるのである。



「パパ、2時の方向250m、魔物が1匹いるよ」



 僕はすぐにパパに伝える。


 それほど危険はないだろうが、こういった報告をサボることが大事故につながるのである。どうせ大した手間でもないのだ、このくらい大丈夫なんてことは考えないでしっかりと『ほうれんそう』をするのだ。



「! アーニャおまえ索敵なんてできるのか。…魔物の種類はわかるか?何がきてもパパの傍から離れるなよ」


 パパはさっきみたいにオーバーリアクションで僕の技能に驚くことはしなかった。

 状況を考えて漫才をしている場合じゃないと判断したのだろう、すぐさま警戒体制に入った。

 こう言ったところは流石元ハンターと言った感じである。



「多分だけど鋭黒狼か地這鷹かな?」


「じゃあ黒犬だな。この森に地這鷹は生息していない」



 鋭黒狼はちょっと賢くて体の強い狼みたいなもんだ。やっと魔物に遭遇したというのにとんだ小物である。

 とはいってもせっかくの初魔物だし、有効活用しないという手はない。

 僕は試したいことがいろいろあるのだ。



「ねね、アーニャが相手してもいい?」


「だめだ」



 パパは僕の提案に驚くことも、怒ることもせず、冷静に却下した。

 いつもと違うパパの雰囲気に少し戸惑いながらも、もう少しごねてみる。鋭黒狼1匹くらいならどんなイレギュラーがあったとしても傷一つつけられることすらない。



「でも1匹しかいないし大丈夫だよ?パパもドルリッチさんもいるし、危ないと思ったら入ってきていいから最初だけでもアーニャが相手したらダメ?」


「だめだ。今日はついてくるというだけの約束だろ?約束はしっかり守れ」



 パパは相変わらず冷静に僕の意見を却下する。


 むー。そう言われると弱ってしまうのだが、どうしてもダメなら理由くらい教えてほしい。なぜダメなのか聞けないと僕だって引き下がるわけにはいかないのだ。



「なんで?別に大丈夫だよ。傷一つつかないで倒してみせるよ」


「アーニャ殿、何をいっても無駄ですよ。あなたはどれだけ天才でも5歳の女の子ですから、私だってあなたが魔物と戦うなんてのは反対しますよ。それに理由なんてなくても約束したのなら守るべきです」



 ……いつも意味わからないことしか言わないのに、まともに喋ったと思ったらど正論をかましてくるのかこの男は。




――――




 何もしないのも癪なので戦闘以外の技術を試してみる。



「パパちょっと耳が痛いかも。狼に効かなかったらすぐにやめるから大丈夫」


「…何もするなと言っているのに……試してみろ」



 僕が使うのは25000Hzの音波である。

 普通の人間の耳には聞こえないはずだが、パパは元ハンターだしもしかすると聞こえてしまうかもしれない。

 魔物とて犬畜生だから嫌がるのではないかと考えたのだ。



「どう?なんか聞こえる?」


「ん?いや、何かしてるのか?」


「あ、聞こえないなら大丈夫」



 パパは不思議そうな顔をして耳を澄ましている。流石にハンターとは言ってもそこまで人間離れしているわけではないようだ。

 まあ多分偵察職とかならまた違ってくるのだろう。



「にゃーー!ーーーーー」



 肝心の犬畜生と言えば、動きは止まったものの離れていく様子はなかった。おそらくいきなり変な音がしたから動きを止めたというだけであろう。


 パパを先頭に、僕たちは森を進んでいく。

 天気もいいし、この辺りは木が少ないこともあって視界は良好だ。



「ん、どうやって見つけたのかはわからないが黒犬が一匹で間違いないな。大人しく見ておけよ」



 木の影から出てきたのは予想通り鋭黒狼だった。

 まだ成熟しきっていないのであろう。本で読んだ情報と比べてやや小ぶりだ。


 パパは杖を構えると、鋭黒狼目掛けて炎の弾を放った。


 ――ほー!!


 パパの放った炎の弾は速度も威力もかなりのものだった。炎の魔術はメジャーな魔術なので情報としてはよく知っていたが、実物を見るのは初めてだ。


 羨ましい限りである。派手で強くて使いやすい。

 鋭黒狼は反応すらできずに焼け死んだ。



「パパ本当に魔術師としても一流だったんだね。剣士だけどちょっと魔術が使える程度かと思ってた」


「ばかいえ、おれはもともと魔術師メインだ」


「! え、そうなの!?」



 僕はこっそりパパが衛兵に訓練をつけているのを見たことがあるが、相当な剣の腕だった。

 なるほど。金階級というのは思っていたよりもすごいハンターなのかもしれない。



「へへへっ!別にアーニャたちへの指導でおれの実力の全てを見せたことはないよ!どうだ、パパはすごいだろ?」


「…ふつう」


「ははははは!!そっか!普通か!!」



 くっ!こ、こいつ!

 本当はすごいと思われてることをわかってやがるっ…!



「ははははは!!なかなか興味深い話ですなあ!!」




 なにがだよ。





――――――――――――――――――――――――――



 

 僕の初遠征は特に何もなく終わった。


 4時間程度探索したが、魔物に出会ったのは5回だけ。

 それも全部鋭黒狼だ。拍子抜けである。



「なんとういかさ、魔物の恐ろしさっていうのはわからなかったね」


「んー…そうだなあ…。アーニャにとっては逆に魔物を舐めることに繋がっちゃいそうだな…」



 パパは僕に魔物の危険を教えるために連れて行ったのだから、今回の結果には納得がいかないのだろう。さっきまでの集中していた雰囲気は完全になくなり、いつも通りの、いやいつもよりも情けない雰囲気になっていた。



「まあ、別にもともと魔物を舐めてるわけじゃないから大丈夫だよ。それにパパのかっこいいところを初めてみれたから満足かな」



 僕は魔物に対しての知識量を相当つけている。

 鋭黒狼のことだってよく知っていたし、イメージ通りの小物だった。

 そう考えれば、僕のイメージしている魔物の全体像はそれほど間違っていないということになるのだから、魔物のことを大体知ることができたと言える。

 僕が現在の知識の中で危険だと考えている魔物は、想像通り危険なやつなのだろうと予想できるし、この遠征だって意味がなかったわけではないのである。



「へへっ!そうか!パパはかっこよかっただろ!アーニャにはいつも情けないところを見せてばっかりだったからな!」



 パパは露骨に機嫌が良くなった。

 父親というのは娘に褒められればすぐ機嫌が良くなる生き物なのだ。この僕が5年間もかけてわかったこの世の真理なのだから間違いない。



「じゃあお仕事頑張ってね。アーニャはいつも通り公園にいくからまた夜」


「ん、行ってきます!あんまり自分ではわからないだろうけど、初めての森で疲れてるはずだから無理はするなよ!」



 機嫌の良いパパは駆け足で仕事に向かった。

 君はどうするの?という意味でドルリッチ君のほうを見てみるとやけにニコニコしていた。



「なんかいいことあった?」


「ええ!いいことがあったんですよ!実は!」



 別にドルリッチ君にどんないいことがあったのかなんてさほど興味ないが、明らかに聞いて欲しそうにしているので聞いてみる。



「なにがあったの?」


「ははは、興味深い話ですな!」


「…」




 …僕は会釈をして公園に向かうことにした。


 ドルリッチ君も満足して研究室に帰って行った。

鋭黒狼は毛が魔導によって鋭く尖っていることからそう呼ばれています。見た目はツンツンした黒犬です。

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