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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第一章 僕爆誕
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第十話 僕はお姉ちゃんなのである



 そういえば、楽しい時間はなぜあっという間にすぎるのだろうかという話は途中で終わっていた。



 楽しい時間はなぜあっという間にすぎるのだろうか?

 逆にいえば、つまんない時間はなぜなかなかすぎないのだろうか?


 

 これについては諸説あるという話だ。



 感情の起伏が激しいと時間が早くすぎるとか、受け取る情報量が多いと時間が早くすぎるとか、初めて体験することに対しては時間が早くすぎるとか、エトセトラ…。



 これらのうちどれが正しいとかではなく、これら全てが『感じられる時間の長さ』に影響を与える要因なのだ。


 ただ数ある要因の中でも、感じられる時間の長さに影響を与える最大のものは『時間を気にする頻度』らしい。



 言われてみれば納得する話であろう。



 例えば数学の授業。

 美術とか音楽の授業と比べてなかなか終わらないと思ったことはあるんじゃないだろうか?


 楽しい授業であれば、あと何分で授業が終わるかなんてことは気にしないが、数学の授業は5分おきに時計を見ていたなんてことはあるだろう。



 例えば12月。

 他の月に比べて24日までが長いと思ったことはあるんじゃないだろうか?


 これは、他の月に比べて日付を気にしていたせいなのだ。

 クリスマスまであと24日、あと23日、22日…毎日毎日カレンダーをみて数えていたから長く感じていたのだ。



 つまり。時計を見たりカレンダーを見たりして、『タイムリミット』を気にすることが、時間を長く感じさせる要因なのである。




 それならば、カレンダーも時計も見ていない赤ん坊の時間はどのくらい早く感じるのだろうか?


 体験するイベントは初めてのものばかりで、受けるインスピレーションは新鮮で感情の起伏は激しい。

 時間が早く経過する要素は盛りだくさんである。




 あっという間に1年くらい立つと思うだろう。




 答えはNOである。




 退屈な日々の繰り返しは驚くほど長く感じるものである。

 たまにイベントがあるとはいっても、ほとんどの日は同じことの繰り返し。

 「あ」っと言っても近くにいたママが振り向くだけである。



 そもそも僕に限って言えば正月から毎日日付を数えていた。

 それがダメだったのかもしれない。



 トゥリーやラファは「あ」っと言ったら一年立つのだろうか?




――――――――――――――――――――――――――




 そもそも6ヶ月まで両親と兄弟以外にあってはいけないという決まりはなんなんだ。


 だって出産のときに他の人に余裕であっているじゃないか。


 まったく。昔はどんな理由があったのかは知らないが、形骸化した邪魔な風習などさっさと無くせばいいのだ。

 そしたら、ママとラファを家に残して、僕だけでトゥリーのもとに行かなければならない理由はなくなる。


 いや、そもそもという話をするならなんで僕は妹よりトゥリーを優先しないといけないんだ。




――――




 今日は8月3日。季節は夏を迎えていた。



 ラファの6ヶ月の祝いは9月10日。後1ヶ月である。


 ママもラファもそれまでは家を出ることができないため、朝のお見送りと散歩も、昼ごはんも、昼寝もカラさんとトゥリーと僕の3人なのである。


 ママはラファにつきっきりなので、僕のご飯の面倒を見ることも、トイレの面倒を見ることも難しい。

 だから、カラさんに僕を任せる意味もあるのだが、それが一番の理由ではない。


 だって僕は(手伝いは必要だが)トイレくらい自分で行けるし、(手伝いは必要だが)ご飯だって自分で食べられる。

 だから僕が理由ではないのだ。


 そう。一番の理由はトゥリーなのだ。

 あいつが僕がいないと生きていけないから僕は毎日ラファもママも捨てて1人で出かけるのだ。



「あにゃみて」



 トゥリーはついに積み木を魔導で動かせるようになったのだが、それを毎日毎日自慢してくるのだ。


 男ならその程度で驕らず高みを目指せよとは思うのだが、僕は優しいので毎度毎度褒めてあげる。

 ここで成長を褒めてあげないと魔導に、あるいは努力そのものに興味を無くすのではないかと思ったからだ。



「ん。えらいえらい」



 偉いから早く自立してくれ。


 そんなふうにトゥリーの相手をしながらも僕は自分の修行を怠らない。


 ねこはいつもさぼらずに、自分の操作で動かしておくのだが、これも修行なのだ。

 魔導の届く範囲を毎日少しずつ伸ばしていくし、動きのスピードや大きさを変えることによって操作技術も上げていく。

 せっかく作った魔導円環術式は最近使っていない。



 ねこを用いた魔導の修行に加えて、魔術の修行も始めた。



 僕に対応する魔術の属性は『音』だった。



 音属性の魔術師というのはわりかし珍しいらしいが、30人に一人くらいはいるらしいし、それほど強力なものでもないらしい。

 まあ別に構わない。僕はもともと音楽が好きだし、音属性の魔術師というのはピッタリだろう。



 音の魔術というのは別に、音を出すというだけではない。

 音の魔術の本質は「振動させること」なのである。



 音の魔術の最もポピュラーなものは「振動剣」と呼ばれるものだ。というか攻撃的な魔術はそれくらいだ。


 振動剣とは、剣を振動させてチェーンソーのような要領で切れ味をあげるというものだ。

 別にそれなら炎の魔術で高温にした剣の方が破壊力あるし、という話である。



 なので僕はサポートよりの魔術を練習していた。



 それが普通に音を出す魔術なのである。



 例えば「ソルフェジオ周波数」なんてものはご存知だろうか?


 まぁ簡単に言ってしまえば特定の周波数は人の体と心に良い影響を与えるという話である。

 この世界ではそれに魔力を乗せることができるので、バフができるということだ。


 逆にいえば不快な周波数を用いたデバフもできるのだ。なかなか便利なものだろう。



 だから僕はその第一段階として自分の狙った周波数を出す術式の構築に勤しんでいた。

 トゥリーの相手をしながら、ねこをうごかし、頭は常に術式を練り続ける。

 無駄のない時間の使い方である。




「あにゃくさい」


「ごめんね」



 たまに集中しすぎてトイレを忘れてしまう。

 女の子に臭いとは失礼な。僕じゃなかったら絶交だぞ。




――――――――――――――――――――――――――




 家に帰れば癒しの天使が待っている。



 まあ大抵は寝ているし、起きてもママのおっぱいを吸うだけなのだから一緒に遊ぶ時間はほとんどないのだが。


 前世から通して、初めてできた兄妹(姉妹)はとてもかわいい。


 別にラファが僕に何かをしてくれることなんて望んでいないのである。

 ただそこにいて、笑顔でいてくれるだけで僕は幸せだし、意味があることなのだ。



 …だがまあ笑顔なんて見たことはない。



 ラファは基本的に寝ているか泣いているかだし、それ以外の時も仏頂面をしている。

 僕はなんとかねこを駆使して笑わせようとするのだが、

まっっったく笑ってくれないのである。



 それでも僕は妹にメロメロなのである。



 笑顔じゃなくても可愛いし、泣いていても可愛いし、寝ているときは天使だし、おっぱいを吸っててもかわいいのである。



 僕が興味津々に見ているとママが僕の頭を撫でてくる。

 ママは僕を蔑ろにしないようにすごい気をつけているのだ。そんなことを気にしなくても妹に嫉妬なんかはしない。

 僕はお姉ちゃんなのだ。



 そんなママとは違ってラファにべったりの人がいる。

 僕はママにそっくりで、パパに全く似てないと言われ続けていたのもあってか、自分に似ているラファがかわいくて仕方ないのだ。

 たぶん。しらんけど。



「ただいまーー!」



 声のトーンも、テンションも露骨に高くて変なのである。

 パパはラファが生まれてからこんな感じだ。もしかすると僕が生まれた直後もこんな感じだったのかもしれない。



「「おかえりー」」


「ただいま!ラファ!! いい子にしてたかー? パパは今日も頑張ってきまちたよー!」


「だから、赤ちゃん言葉やめてって言ってるでしょ?」


「ごめんごめん。 ラファー、ママはこわいでちゅねー」



 あ、ママ怒ったなこれ。



「…ねぇ。真面目に話してるんだけど…? それにアーニャに対しては挨拶もしないの…? 信じられないんだけど」




 !? 僕を巻き込まないで!?




――――




「…ごめんて。ちょっと調子に乗りすぎちゃったんだよ」


「……なんで私に謝るの?謝る相手間違えてない?」


「…アーニャ、ごめんな。 パパそういうつもりじゃなかったんだ。 たださ、ほら、アーニャがいい子なのはわかってるからで、その…」


「まきこまないで」


「……アーニャー。パパを助けてくれー」


「しらない」



 子育て中の母親はストレスが溜まるものだ。


 そんなことは15歳の僕でも知っていたし、0歳の僕でも気を遣っていた。


 ラファは当たり前だが僕よりも手間がかかる子である。それに加えて僕が家に帰ってきたらママは僕にも注意を払わないといけないので、僕が生まれたばかりのときよりも大変だしストレスは溜まっているはずである。


 それなのに、パパはママの神経を逆撫でするようなことを繰り返してしまった。どうしようもないパパである。



 怒っている女性への対応ほど難しい問題はない。


 関係ない人、嫌いな人なら放っておけばいいのだが、それが愛する家族ならばこの問題を避けることはできないのである。




「……トリシア、おれが悪かったって。ごめんな」


「だから、私は別に怒ってないってば」


「…」




 当然まだ怒っているのである。


 怒っているのに、怒ってないという理由がマジでよくわからないのだが、これは女性あるあるなのだ。怒っているのに怒ってないというし、なんでも良いというのに何でも良くないのである。

 だが流石のパパもそのくらいはわかっているのか、黙り込んでしまった。



「…その、さ。 あ、あんまり子供の前で夫婦喧嘩ってよくないんじゃないのかなーって…」



 !? こいつ! 正気か!? 



「!? それをあなたがいうの!? 信じられない!私が悪いって言いたいの!?」


「いや、そうじゃないんだよ! おれが悪かったからもう喧嘩はやめよって!ごめん!気をつけるからって!」


「だから私は怒ってないって言ってるじゃない! いつまでもしつこいのはロンドでしょ!?」



 爆発寸前である。いやもはや爆発している。


 …どうしようもないパパである。

 ここまできてしまったら助けてあげるしかない。



「パパおふろはいろ」


「え、あ、あぁ。えと、と、トリシア?」






「……はぁ…この話はもうおしまい。アーニャを早くお風呂に入れてあげて。 …ごめんね、アーニャ」




――――――――――――――――――――――――――





「アーニャありがとう!! 本当にお前は良い子すぎる!」


「あい」




 お姉ちゃんだから当然である。

 これで第一章は終わりになります。ここまで読んで頂きありがとうございました。


 一話閑話を挟んでから「第二章 ガポル村の天才幼女」に突入となります。

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