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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第一章 僕爆誕
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第九話 テンプレは偉大なのである



 この世界の妊娠検査は基本的に魔導によって行われる。


 行われるというか、妊婦本人が行うのである。


 一応、光属性の魔術師に診て貰うという方法もあるのだが、よほど魔道が苦手な人しかその方法は取らない。



 魔導で魔力を流すことができるのは『自分の体』『魔鋼』『魔石』の3つだけであり、ただの一つも例外はない。

 この特性を利用するのである。


 つまり、自分の体の中に魔力を流すことができない部分があるということが、妊娠したということなのだ。

 胎児が今、何ヶ月なのかとかは大きさと形で考えるしかない。妊婦の魔導の腕前にかかっているわけである。



 ママの腕前はなかなかのものだったようで、出産予定日はピタリ命中である。




 天暦2533年3月10日




 僕の妹がこの世に生まれたのである。




――――――――――――――――――――――――――




「ぱぱどっちかしってる?」


「いや、知らないよ。 生まれるまで性別を他の人に教えちゃいけないってのは、昔からあるルールみたいなもんなんだ」


「へー」


「妹と弟、どっちがいいとかアーニャはあるのか?」


「どっちでもいい。パパは?」


「おれはもちろん息子でも娘でもいいさ!」



 カラさんから無事に生まれたという報告を受け、僕たちはセドルド家から自宅のママのもとへ向かっていた。


 早く会いたくて待ちきれないパパは、僕を抱っこして走っている。

 ちなみにトゥリーは寝たから置いてきた。カラさんが見ててくれるから問題ない。



「トリシア!無事か! 子供も大丈夫なんだな!?」


「ロンド君、大丈夫だからあんまり大声出さないで」

 

「ふふっ。 アーニャ、ロンド心配かけたわね。 ね、こっちきて?」



 なるほど、パパはこんなだから追い出されたのだろう。

 無事なのはさっきカラさんに聞いたではないか。

 

「ふふ、女の子でしたー! ほら、抱っこしてあげて?」


「おおおおおおおお!! アーニャ!妹だぞ!! 

 へへへへっ! 可愛いなあ! パパでちゅよー!!」


「おもってたのとちがう」


「アーニャ?」


「おさるさんみたい」


「アーニャも生まれたばかりはこんな感じだったのよー。 

 すぐにアーニャみたいな美人さんになるわよ」


「いもうと、ぱぱににてるね」


「ね! 目元とかパパにそっくり!」


「そうかなー? 自分ではあんまりわからんな? アーニャはトリシアにそっくりだったんだけど」



 うちの家族のずるいところは、パパに似てもママに似ても絶対に美人になるところだと思う。

 こんなしわくちゃなお猿さんも、いずれはスラっとした美人に育つのだろう。


 成長が楽しみである。




――――――――――――――――――――――――――




 朝から始まった出産だったが、外を見るといつのまにか夜になっていて、ノルスタさんとナタリーさんはそれぞれのお家に帰っていった。


 パパと僕だけ残されてもどうしようと思っていたら、すぐにカラさんがトゥリーを抱っこして来てくれた。



「トリシアはまだゆっくりしててね。 片付けはロンドが、お世話は私がしとくから」


「ありがとね」


「あーにゃもおてつだいする」


「アーニャちゃんはママのそばにいてあげて」


「…あい」



 わかっていたことだが、一歳児なんてものは無力である。


 情けない組の相棒のパパはせっせとお片づけしているのに、僕は結局邪魔者なのである。トゥリーと変わらないじゃないか。

 しかし、与えられた仕事はどんなものであっても、全力で全うするのが僕というもの。

 ママのことを全力で笑顔にするのである。




「アーニャ、一つお願いしてもいい?」


「いいよ」



 一つなんて言わずに、なんでもお願いしてくれればいい。

 僕にできることに限るがなんでもする。









「妹の名前考えてあげてくれない?」













「…あーにゃが?」


「そ、アーニャが」





 責任重大である。




――――――――――――――――――――――――――





 『テンプレート』とは便利なものだ。





 ―テンプレート、日本語に直せば『決まった形』といったようなもんか。



 ネットではさんざん『テンプレ』なんて略し方で使われていた。

 『テンプレ展開』『テンプレヒロイン』『テンプレギャグ』なんて言葉は聞き覚えがあるだろう。



 批判的な意味で使われることの多いテンプレだが、テンプレが悪いなんてことはない。


 なぜなら、先人たちの積み重ねにより最も良いと、最も人気が出ると、最も面白いと洗練された形なのである。



 武道なんかでもそうだ。



 歴史の積み重ねでできた『形』は決して猿真似なんかではなく、それこそが美しいものであり、それ通りにやることはむしろ賞賛されるべきことなのだ。



 要するに、どうしようか迷ったなら『テンプレ』に添えばいい。それは間違いがないのだ。失敗がないのである。




――――




 アーニャという名前は『Anya』と書く。



 「〜a」というのは日本語で言うところの「〜子」みたいなもので、最もポピュラーな女の子の名前の形である。



 そう。テンプレなのである。



 つまり、「〜a」に収束させれば、どんな過程を辿ったところで女の子の名前として失敗はない。



 僕が生まれた日は綺麗な三日月の日だったらしく、Anyaという名前は三日月から取られたようだ。


 『Anyg(あないぐ)』というのが三日月であり、それをテンプレに当て嵌めれば『Anya』となる。

 10月1日生まれの三日子である。


 ちなみに、パパが出した『Anyga(あないが)』という案は響きが僕に似合ってなかったから却下されたらしい。



 僕は妹になんて名前をつけようか。



 今日という日の特徴なんて覚えてないし、三日月に合わせるのなら何になるのだろうか。いや、そもそも月の名前なんて三日月以外知らない。


 ならば太陽にしようか。


 太陽は『Tig(てぃぐ)』という。

 テンプレに当て嵌めれば『Tia(てぃあ)』わるく()ない。


 だが流石にありがちすぎて、絶対に今後1人や2人は出会うはずだ。なんとなくそれは嫌だ。



 「〜a」の前を向こうの世界の言葉にしてしまうのはどうだろうか。

 絶対に誰とも被らないし、テンプレにさえ当て嵌めれば違和感もないはずだ。



 となると、僕が妹にどんな願いを込めるか、どんなイメージを抱いたかだろう。



 可愛くなって欲しい、いい子になって欲しい、強くなって欲しい、完璧であって欲しい…などなど。


 生まれてくる前はそんなことを考えていたのにいざ目の前にすると多くは望まないものである。




 ずっと笑顔で、ずっと幸せでいて欲しい。



 妹も、妹の周りの人も健康で、何の心配もすることなく幸せに囲まれていて欲しい。



 姉から妹に願うことなんてそんなもんなのかもしれない。





 それこそありきたりな願いで、ありきたりな名前。






 ―『癒しの天使』の名前を貰って『Rapha(らふぁ)』と名づけた―




――――――――――――――――――――――――――






「ラファか! いい名前だ! 剣の女神『Raphit(らふぃと)』からとったんだな!」


「…賢い子だとは思ってたけど…ここまで来ると本当に天才ね。 まさか一歳の女の子からここまでしっかりした名前が来るとは思ってなかったわ…!」


「剣の女神かー! ロンドに似た強い子になりそうね! ありがと、アーニャ!」




 …本当の願いは、僕だけが知っていればいいのである。

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