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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第百話 力魔術部遠征③




 僕たちの班がテントをもう建てはじめていたので、サリア達の班は別の場所を求めて去っていった。


 あのメンバーの中だと常識人枠のカリスが仕切り、レラーザ先生は少し後ろから眺めているだけだった。1年生に仕切りをさせるのはどうかとも思うが、まあそれが1番いい形なのだろう。



 そもそも僕は、年上ならそれだけで偉いという年功序列に対して良いイメージは持っていない。


 能力のある人間がどんどん評価されていく方があるべき形だと思うのである。


 ただ、その方が効率的でなんでも上手くいとまでは思わない。

 なぜなら、年下に使われる側になった年上のプライドのせいで仕事が円滑に進まないことがあるからだ。


 面倒臭いというか、情けないというか、本当にしょうもない話だとは思うが、年だけをとった無能な奴ほどプライドが高く、年下に使われて上手くいくくらいなら足を引っ張ってやろうと思う人は少なくない。


 足を引っ張るつもりはなくとも、気が乗らないせいでパフォーマンスが落ちたり、それを気にしてしまうタイプの年下指導者が病んだりしてしまうことだってある。


 まあその辺りを差し引いても、無能な老害が指揮を取るよりは有能な若者がそれらを無理矢理従わせる方がポジティブな要素は多いだろう。


 本当は無能が無能と自覚して、黙って従えばいい話なのだが、それができる人間というのはそもそもそれほど無能な人間ではないのだ。



 さて我が班は幸いなことに、シャローナ先輩が大人しく僕をリーダーとして認めてくれている。


 なんだかこういう言い方をするとシャローナ先輩の能力が劣っているような感じがしてしまって具合が悪い。僕が異質なだけであって、シャローナ先輩だって平均を上回る能力の持ち主ではあるのだ。


 が、シャローナ先輩はあまり人の前に立つタイプではなく、人の下につくことで本領を発揮するタイプのようにも思う。人の上に立つ人材だけが優秀というわけではないのである。


 むしろ人の上に立つことを得意とするタイプの人材より、人の下で動くことが得意な人間の方が重宝する。

 前者よりも後者の方が圧倒的に人数が必要なのである。


 その点僕はどこに出ても重宝される。


 上に立つこともできるし、手足のように動き回ることも得意なのである。



 そんな僕らは黙々と手を動かし続け、30分もしないうちにベースキャンプを完成させた。


 雨風を凌ぐだけのテントに荷物を詰め、2人分の寝床を用意する。ハンターは基本3人組ではあるが、誰か1人は常に外で見張りをするため、寝床は2人分だけ用意するのがスタンダードだ。


 寝床とは言うが、テントの上に寝袋を並べて枕を置いただけとも言う。夏場は袋の中に入らず、寝袋を敷布団として寝ることのほうが多いらしいので、お腹にかけるブランケットが側に置いてある。


 試しに横になってみたが、お世辞にも快適だとは言えない。

 普通に背中が痛いし、枕は硬いし、何よりテントの中は蒸し暑い。


 だがこれはこの森がクソだからということが原因ではない。どこの森に行こうがこの劣悪な環境からは逃れられないのである。

 ひどく不愉快だがこれには慣れるしかないのだ。



 テントができる頃には日が傾き始めていたので、丁度いい時間まで休憩を取ることにした。

 今の時間に活動をしても効率が悪いし、ちょっと動いている間にすぐに再集合の時間になってしまいそうだったからである。


 体力に余裕のある僕が見張りをし、レノとシャローナ先輩にはテントの中で休んでもらっている。

 話し声も聞こえてこないし、2人は寝ているのだろう。



 僕は特にやることがないので適当に目的の魔物どもを探してみたのだが、予想通りそう簡単には見つからない。


 ただでさえ音魔術を使った索敵は、泥沼相手では普段の半分以下の精度でしか行えないのに、生物が多ければ多いほどその正確性は落ちていくのである。


 要するに、小さい魚で溢れかえった汚い沼の中から目標の生物を探すのは極めて困難なのである。


 こういう時の索敵を最も得意とするのは闇魔術である。


 闇魔術は物体の魔力を捉えることを得意としている魔術のため、目標生物の魔力を事前に把握できていれば、周囲の環境は関係なく索敵を行うことができる。

 その分、闇魔術は魔力を微量しか持たないものや、魔力を隠すタイプの強力な魔物には無力である。音魔術による索敵とどちらが優れているかは状況によるのだ。


 余談だが、光魔術は物体の形を捉えることを得意としている。治療や掃除ができるのは、その物体の元の形を正確に把握できるからなのである。



 さて、かれこれ僕は1時間弱索敵をしているのだが、毒膜魚も大蚤蛸も見つからない。

 こんな地形でさえなければもう10匹は見つけられているはずなのにと、文句のひとつふたつも言いたくもなってくる。


 どちらもいないはずはない。

 だがこのままの探し方で見つけられる気もしない。


 奴らが活動を開始する日没後にもう一度同じやり方で探してみて、それでも無理なようならいよいよ沼に足を踏み入れるしかないかもしれない。


 魔物に襲われるようになるため危険度が増すし、何より汚れることになるのだが、背に腹は変えられない。

 どうせクソみたいな遠征をさせられてるのだから、せめて何かしらかの戦利品は得られないと腹が立つのである。



 とりあえず一旦切り上げて2人を起こすとしよう。


 そろそろヨーグ先生のところへ向かわないと、日没までに間に合わなくなってしまうのである。




――――




「はい。全班のベースキャンプの位置を確認できましたので、もう一度班別行動とします。到着した時にも言いましたが、少しでもおかしなことがあったらここに来るようにしてください。今までで何か不安なことがあった人はいますか?」


 再集合は僕の予想通り先生が各班のベースキャンプを確認するためのものだった。


 それだけのために呼びつけるなとも思うのだが、生徒の安全のためと言われてしまうと弱い。なにしろヨーグ先生は一度その手の話で問題になったことがあるのだ。他でもない僕についての話で。


「次の集合はいつになりますか?遠征終了となる明後日の日没という認識であってますか?」


 隣に立つシャローナ先輩が質問をする。


 今回の遠征の終わりは明後日の日没。

 その後近くの宿に帰り、一晩休んでからナスフォ街に帰るのである。その時まではお風呂にも入れないし、ベッドで寝ることもできない。食事だってサバイバル用の微妙なのしかないのである。


 清潔感の塊みたいなシャローナ先輩ですら、すでにほんのりと汗臭い。まあもしかしたらレノの臭いがうつっただけの可能性はある。

 レノとシャローナ先輩が寝ていたテントに入った時には、割と不快なレベルの汗臭さを感じた。魚の生臭さと混ざって最悪なのである。


 自分の脇の下を嗅いでみるが無臭のように思う。

 僕がまだ汗臭くなってないだけなのか、それとも自分の匂いだから気がつけないのか。


 いずれにしても明後日の日没までには確実に臭くなってしまうので関係ない。気にするだけ無駄なのである。



「あ、いえ。すみません。明日の同じ時間に再集合とします。この場所に、日没前にお願いします」


「わかりました」


 汗に気を取られて聞き流していたが、割と重要なやりとりだったかもしれない。

 ヨーグ先生はやっぱり生徒の安全管理が杜撰なのである。


 あと、ヨーグ先生の顔が脂と汗でテカテカしていてなんか嫌だ。


 おっさんは清潔感に欠けるのである。



「では、また明日のこの時間まで。みなさん安全を第一に考えて行動をしてくださいね」


 シャローナ先輩以外に質問のある生徒はいなかったため解散となる。


 それぞれのベースキャンプの方へ散り散りになっていく。

 僕たちも我らが拠点へ戻り、夜間の散策準備を始めるのである。


「帰ったら準備を始めます。釣竿とか仕掛け罠を作ったり、夕食の準備をしましょう」


「罠の作り方とかあるのか?」


「ま、捕まったらラッキーってくらいでエサ入りの籠を投げるくらいかな?何もしないよりはマシでしょ」


「了解。夕食はとりあえず缶のスープを火にかけるか。火の準備は俺がやるから任せてくれ」


「じゃあシャローナ先輩と私で道具を準備しましょう」


「…」


「シャローナ先輩?」


 珍しく僕の呼びかけに反応がなかった。


 振り返ると疲れているのか、シャローナ先輩は俯いて考え事をしながら歩いていた。


 一度立ち止まってシャローナ先輩に話しかける。

 何を考えているのかはわからないが、夜の森で考え事をしながら歩くのは危険なのである。


「シャローナ先輩、危ないですよ」


「――え?…あ、ごめん。ちょっと考え事をしてた」


「気をつけてください。足を取られて落ちたりなんかしたら本当に危ないんですから。それにこれからの時間は日中より魔物の動きが活発になりますからね」


「うん。ごめんね、気をつける」


 柄にもなく先輩に説教をしてしまったが、流石にさっきのシャローナ先輩の行動は危険すぎたので見過ごせないのである。


 いくらクソみたいな雑魚森とはいえ、不用心にフラフラ歩いていても大丈夫なほど安全な場所ではない。


 それに今回の遠征は今後のハンター活動の予行演習であるということを考えると尚更だ。

 僕との遠征のせいで変な癖がついて、シャローナ先輩が高校に入ってから亡くなりでもしたら後味が悪いのである。



「それで、なにを考えていたんですか?」


 再び歩き始める。


 今度はさっきのようなことが起こらないように、僕が2人の真後ろに立って進むことにした。

 一度通った道に限ればこの方が安全なのである。


「え?ああ。お風呂、どうしよっかなって」


「お風呂?汗の匂いならお互い様ですしそんなに気にしなくてもいいですよ」


 シャローナ先輩は僕たちに不快に思われてないかを気にしてしまっていたのだろう。


 だが、そんなことを気にしていたらハンター生活なんてやっていられない。

 レノとはいえ男性がいるのもあって恥ずかしいかもしれないが、汗の匂いについてはお互いに触れないのがマナーなのである。


「そうかな?髪を洗ったりは無理だけど、軽く汗だけでも流さない?本当に水をかぶるだけにはなるけどね」


「?いえ、流すも何も……あ」



 ――思い出した。



 シャローナ先輩は水魔術師だったのである。





―――――――――――――――――――――――





「あーさっぱりした!!シャローナ先輩本当にありがとうございました!!」


「本当に、すっげぇ気持ちよかったす!」


 水を浴びただけで日中の疲れが嘘のようの回復した。


 水着は脱げないし、髪は解けないし、そりゃ綺麗になったとは言い難い程度ではあるが、気持ちの面に関しても大幅に整ったのである。


 唯一の男性メンバーであるレノは、頭から水を被れるし、上半身は裸になれるしでちょっとだけ羨ましい。

 海パンは肌に密着もしていないし、布で覆われている部分に関してもレノだけちゃんと汚れを落とせている気もする。


 こういう時は本当に男に戻りたいの思う。

 僕がレノの立場だったら海パンも脱いでいただろう。


 シャローナ先輩が気にするかは別として、僕はシャローナ先輩に見られても気にしないのである。



 関係ないことだがレノの言葉遣いがどんどんドミンドに似てきてしまった気がする。気がするってか似てきた。


 『すっげぇ』とか『〜す』とか出会った頃のレノなら使わないイメージがあった。ボスに憧れている真面目でクール系の男子だったはずなのに、いつのまにかどんどんとアホっぽくなってきてしまったのである。


 いつもそういう言葉遣いというわけではない。

 基本的には敬語もしっかりと使っているし、割と丁寧な話し方なのだが、興奮した時や何気ない瞬間にドミンド節が炸裂する。悲しい話なのである。


「蒸し暑くて過ごしにくい気候だけど、水浴びた後に寒くならないところは良かったね」


 シャローナ先輩は出会った頃から変わらず上品な方である。もう片方の先輩が下品というわけでもないのだが、やっぱりシャローナ先輩の方が奥ゆかしい年上の先輩という気がするのである。


 まあ僕も他人にどうこう言える立場ではない。

 目指した先輩像はシャローナ先輩の方だったのだが、どちらかといえばアリシアパイセンに近くなってしまった自覚はある。


 後輩から接しやすさという意味ではそれほど悪くないキャラクターだと思うのだが、僕は去年の武闘祭の影響もあって敬遠されがちである。だったらいっそ高嶺の花でいたかったというのが本音だ。


 ラファから慕われているスノウ・カルモンテとかいうやつには嫉妬が止まらない。


 王国の歴史の中でも1番の天才で、あのラファが緊張するほどの美人で、クールキャラなのに後輩に慕われる。

 それでいてたまにかわいいところがあるとか、なんだそのチート美少女はって感じである。

 僕がヒロインキャラを目指していたのなら強力な競合相手として始末することさえ考慮に入れていたことだろう。


 スノウ・カルモンテは全属性の魔術を使えるらしい。


 実際に見たわけではないが、王国全土でそう言われているのだからそうなのだろう。にわかには信じ難い話である。


 全属性が使えるということは、彼女1人いるだけでどこにいっても快適ということだ。


 例えば今回の遠征なら、まず暑さに苦しめられることもないし、温かいシャワーを浴びられるし、光魔術で清潔も保てる。

 土魔術でいい感じの拠点も作れるだろうし、索敵だってお手のもの。火おこしもできるし虫除けだってできる。


 おまけ程度に戦闘能力もとんでもないという話だ。

 どんなイレギュラーの事態が起きても対応しきってみせるのだろう。


 同年代の天才としてダリア・ヨン・ペグロもいるが、そっちはただただ強いというだけである。


 その強さが異常だからスノウ・カルモンテと並べられてはいるが、実際のところ僕の価値感では比較にすらならない。


 どれだけ強かったところでただ強いだけ。

 力だけでできることには限りがあるし、一定以上の強さにはそれほど価値がないのである。



 まあ実際に会ってみないとわからない部分はたくさんある。

 2年後には僕も2人と同じ学校に通うことになるのだし、その時に改めて評価をするとしよう。


 とりあえず今は毒魚を探すことに集中なのである。


「さっぱりしたことですし、腹ごしらえだけしたら任務を開始しましょうか」


「そうだね。夕食の準備はレノに任せて、私とアーニャは道具作りする?」


「ええ、そうですね。とりあえず適当に木材を集めるとこから始めましょう。レノは何かトラブルが起きたら大声を出して私たちを呼んでね。そんなに拠点から離れないようにするから」


「了解。調理ってもそんなに時間はかかんないし、俺もすぐそっち合流するよ」


 持ち込んだ食料は缶のスープや干し肉、カチカチのパンなどの保存食のようなものだ。

 どれも美味しくもないが、不味くもないって感じのやつである。部活のキャンプで食べるという状況補正を入れればギリ美味しいの圏内も狙える。


 この森が臭いということだけが唯一の懸念点だったが、恐ろしいことにその臭さにも慣れてきてしまった。


 飲み水も持ち込んでいるし、食料問題は安心なのである。



 夕食の準備はレノに任せて僕とシャローナ先輩は素材集めに向かう。


 別れて集めた方が効率はいいのだが、安全面の観点から2人一緒に行動するのである。


「どういうのが欲しいとかあるの?あ、ここすべるから気をつけて」


「とりあえずなんとなくで集めて、その中から選んで使っていくって感じですね。罠をどういう形にするかのビジョンもないですし後で考えるとしましょう。最悪今晩は準備だけで終わってもいいですよ。明日の日中に罠の設置や、狩のポイントの目星をつけて、明日の夜に実行動に移すって感じでも明後日の日没までには間に合いますしね」


「じゃあとにかく持てるだけ集める?」


「余ったものは薪に使えますから、気にせずじゃんじゃん集めちゃって大丈夫です」


「木以外に必要なものは?あ、ここもすべるから気をつけて」


「蔦ですね。とにかく蔦が欲しいです。あと餌用の小魚」


「蔦と小魚ね。蔦はそこら中にあるか適当にむしりとれば良さそうだね」


「小魚も集めようとしなくても集まってくるから気にしなくていいですよ。――ほら」


 僕の持つ松明に向けて雑魚が飛んできたのをキャッチする。


 日中より活発になった雑魚どもが次々飛んでくるのである。

 鬱陶しくはあるが危険ではない。この程度で危険に晒されるようなやつはわが部活にはいないのである。


 腰に下げた木製の小型水槽に雑魚を詰める。

 なるべく生かしておきたいが、残念ながらすぐに酸欠で死ぬだろう。


「針魚は次々集まるのに、やっぱり毒膜魚とかはいないみたいね」


「うーん、いるのかもしれませんが私の索敵能力だと樹上からではわかりませんね。申し訳ありませんが、本気で狩に出るときは沼に入らないといけないかもです」


「最初からそのつもりで来てるからそんなこと気にしなくて大丈夫だよ。私とレノだけでは何もできないんだからアーニャが謝らないで」


「何もできないなんてことはないですよ。シャローナ先輩のシャワーがなかったら私は沼に入る踏ん切りがつかなかったかもしれませんし」


「レラーザ先生がいる班は光魔術で洗ってもらえるのかな?」


「何もしてくれないと思いますよ。サリアはごねるでしょうが。行動を共にはしていますがあくまで監督しているだけですしね」


 きっとサリアは信じられないほどごねるだろうが、ヨーグ先生ならともかくレラーザ先生はそんなことに屈しない。

 カリスもごねるかもしれないが、あのクソガキどもは世の厳しさを味わうべきである。


 明後日の再集合の時、腐った2人と会うのが楽しみだ。

 僕は立派な素材を持って、そんなに汚くなってない姿を見せて勝ち誇るのである。



 そのためにも今は木材と蔦と雑魚を集める。


 苔むした根を慎重に歩きながら永遠と手を動かす。

 飛んでくる雑魚の他にも、やたらと飛び回る小蝿みたいな奴らも沢山いて鬱陶しいが今は耐え忍ぶ時である。


 右手に杖を持ち、左手で雑魚をキャッチし、松明を力魔術で浮かせて、木や蔦の採取も力魔術で行う。


 切り落としたり拾ったりを手作業より効率よく作業が行えるようになったのは、ひとえに僕の努力の賜物である。


 シャローナ先輩は僕ほど器用に力魔術は使えないが、水魔術で木の切断や魚のキャッチができるので仕事効率は僕と大差ない。



「おーーい!できたぞーー!!!」



 後ろからレノの声が聞こえた。


 思ったよりだいぶ早い呼び出しだったが戻るとしよう。

 想定していたよりも素材は集まらなかったが、これだけで足りる気もする。


 足りなかったら今度は3人で集めに出ればいいのである。



「帰ろっ――」



 振り向いて声をかけるシャローナ先輩が、ぐぐぐぅという大きく低い腹鳴と共に動きを止める。


 思ったよりも男らしい音なのである。



「――か…」


「そうですね。帰りましょうか」


 何もなかったことにして帰り始める。

 アリシアパイセン相手ならイジっていたとこだが、シャローナ先輩だとなんと声をかけていいのかわからないのである。


「…なんか言ってよ」


「え。お、お腹すきましたね?」


「……うん、そうだね…」



 なんだかいたたまれない空気なのである。


 お腹が鳴っただけでこうなるのなら、シャローナ先輩がオナラでもしようものならどうなってしまうのだろうか。


 もしもレノの前でシャローナ先輩がオナラしてしまったら僕が罪を被ってあげたいところだ。


 ただし、レノにはなんとなく『アーニャじゃなくてシャローナ先輩か』とわかってもらえる感じにしたい。

 シャローナ先輩に気にしないでもらいたいというのはあるのだが、僕とて男子の前で屁をこいたとは思われたくないのである。


 シャローナ先輩にそれがバレると感じ悪い女になるから、ちょうどいい塩梅を狙わないといけない。それが無理そうならシャローナ先輩に恥をかいてもらう方がまだマシだろう。



 まあ1番はシャローナ先輩がオナラをしないことだ。



 もちろん僕もだが。




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