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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第九十三話 大失態旅行なのである①




 中学生になってから2度目の夏休み。


 現在僕はサリアとヨアとともにファルシア領に来ている。3人旅が許されるのはひとえに僕の日頃の行いのおかげである。


 ファルシア領はゴルミュ街から北東に進むとある小さな領である。王国では少ない安全に行ける海があることから、観光地として有名な領で、その収入源のほとんどは観光客なのである。


 僕たちが今回来ているのはバル海岸。


 ファルシア領には街や村といった区分が存在しない。

 バル海岸はリーズナブルな観光地のため、宿泊施設は高級ホテルや旅館などではない。我が家よりも汚い、もとい年季を感じる小さな小屋なのである。



「到着しました」


 御者が扉を開けると涼しい空気が馬車の中に入り込んでくる。

 今回の馬車は冷房がなかったためクソ暑かったのである。リーシャがいないと不便なものである。


 ナスフォ街からバル海岸までは約半日かかる。早朝に出たのにもう昼過ぎだ。

 しかし、長いと感じることはなかった。友人との旅行なら移動時間も楽しいものなのである。


「やっとついたー!!」


 サリアが馬車から飛び降りバンザイする。

 白いワンピースに麦わら帽子と絵に描いたような避暑スタイル。若紫の髪を風に靡かせる姿は、サリアの性格を知らない人ならうっとりしてしまうほど素敵である。


 見た目に反して1番子供なサリアに続いてヨアと僕も降車する。

 僕とヨアは機能性を重視して水着の上に大きなTシャツを着ているのみ。麦わら帽子に関してはサリアママに支給されたので3人ともお揃いである。


「涼しいね」


 ヨアは長い髪をひとつにまとめている。赤いポニーテールから覗く白いうなじは絶景なのである。Tシャツから覗く白い太ももはもっと絶景である。


「馬車の中暑かったもんね」


「お姉ちゃん大丈夫?」


「馬車に1番慣れてるのは私だよ?余裕よ余裕」


 僕は帽子の邪魔にならないように低めのツインテール。ヨアとお揃いのTシャツは僕に似合っていない気がするのである。

 僕は最近スタイルにも自信がある。脂肪ばかりだった時代を超え、子供らしさが抜け始めた健康的美少女へと生まれ変わったのである。


 まあ残念ながらサリアには劣る。

 目指している方向が違うからいいのだが、一般的にスタイル抜群というのはサリアのような人をさすのだろう。あくまでも僕は美少女で、サリアは美女なのである。



 子供らしくはしゃぐサリア。

 動きが激しいせいでたわわに実った双丘が揺れる。


「大人だねぇ」


「?サリアちゃんは子供っぽいよ?」


「中身じゃなくて見た目の話」


「ヨアは?」


「サリアほどじゃないけど大人っぽいし、何よりめっちゃかわいいよ」


「ありがと。お姉ちゃんもかわいいよ」


 よく似た体型の僕とヨア。

 髪色も赤と紺で対照的だし双子感あって可愛いのである。側からはサリアが僕たちの保護者枠に見えるだろう。本当は逆なのに。


 美少女、美女が3人揃えば嫌というほど目を引く。

 太陽なみに熱い視線を感じるのである。



「馬車出た瞬間は涼しかったけどやっぱあっつーい!!ヨアもアーニャもさっさと荷物運んで部屋行こ!!」


 泊まる宿は例の如くパパが予約してくれてある。

 小汚い小屋には僕たちを含めて3グループ入るようだ。


 馬車から出すのはそれぞれの大きな鞄ひとつずつ。

 2泊3日なので大荷物にはならないのである。


「いや、でもあっついな〜」


「ヨアが持ってあげようか?」


「ううん、大丈夫。なんなら私の方がヨアより力持ちだし。運んであげよっか?」


「お姫様抱っこしてくれるの?」


「ヨアをじゃなくて、ヨアの荷物をね」


 幸か不幸か驚くほどの快晴。

 帽子がなければ熱中症になるほどである。

 馬車の中から汗をかいていたこともあってそろそろTシャツが汗だくになってきた。美少女でも汗はかくのである。


 トールマリス王国で過ごす夏ももう14度目。

 正直夏は慣れれば慣れるほど嫌になってくる。気温は日本より低いはずなのに過酷さは変わらないのである。


 その点冬は慣れれば慣れるだけ楽になる。

 凍えるような寒さも、雪とかいうめんどくさすぎる天気にも適応したのである。


 速く冬にならないかなもと思いつつ、次の冬休みを終えればいよいよ中学生活も最後。高校生になると生活環境がガラッと変わってしまうと予測されるため、寂しさも感じるのである。

 それに来年の夏休みにはきっとみんなと遊ぶことが少なくなるだろう。僕はともかく、サリアやヨアは受験勉強で忙しくなってしまうはずなのである。



 そう考えると純粋にこのメンバーで遊べる夏は人生最後と言っても過言ではない。




――――




「とりあえずお昼ご飯にしよう!」


「うん」「さんせーい!!」


 荷物を置いてチェックインを済ませたらお昼に出かける。手荷物はサリアがもつ大きなトートバッグのみ。タオルと財布だけあれば生きていける。

 サリアに全て持たせるのは危険だと第六感が言っているので自分の財布を抜いておくのである。


 海岸に出ると屋台がたくさんあるとの話だ。何を食べるかは向こうで見て決めれば良い。

 宿から海岸は歩いて10分ほど。ちょっとした丘を越えて堤防を降りればもう海岸とのことだ。


 なんだかこういう景色はすごく久しぶりな気がする。


 道路がアスファルトじゃないところを除けば、日本にあった海岸のイメージにすごく近い。おしゃれな海岸じゃなくて田舎の海岸だが。

 ぽつぽつと建つ民家、遠くに見える山、道の周りは草が生い茂り、空には海鳥が飛んでいる。僕の夏休みって感じである。やったことないけど。



「あー!!うみだーーーっ!!!!」


 丘を登ると一面の海。


 海岸は思っていたよりも賑やかで、端から端まで一列に屋台が並んでいる。その店先には机と椅子が並び、その半数以上がすでにうまっている。


 本当に久しぶりに見る水平線。

 この世界も球体であることを実感する。


「お姉ちゃん?」


「うみだなーって。ヨアは海来たことある?私は初めて来たから感動しちゃって」


「ヨアも初めてだよ」


「そっか。じゃあボスも来たことないんだね。勿体無い」


「ねえ2人ともおそい!!はやくいくよ!!」


 普段より一段と子供っぽいサリアは待てができない。


 ヨアの前でも猫を被らなくなったのは随分と前の話だが、最近はもうクラスでも被らなくなってきている。大人ぶるのに疲れたのもあるし、本当のサリアを知る人間が増え過ぎたのもあるのだろう。


 1人早足で階段を駆け降りるサリアを僕とヨアが歩いて追う。普通は逆だろという絵面である。


 海岸に降りるとあたり一面からいい匂いがしてくる。


 甘い匂いはなく、ひたすらに炭と肉とスパイスの香り。BBQの香りである。朝から何も入れていないお腹からは音が鳴り始める。

 ヨアにくすりと笑われて恥ずかしいのである。


「なにたべるー!?私はなんでもいいからアーニャに合わせるよ!!あ、まって!とりあえず豚串買お!!あと飲み物も買わなきゃだよね!今日は親もいないしお酒買っちゃおうよ!」


「お酒買うのはいいけど海上がってからね。酔っ払っての海水浴はあぶないよ」


 トールマリス王国で未成年飲酒は禁止されていない。慣習的に15歳からというようになっているが、僕たちの見た目であれば買うことを咎められはしないだろう。

 まあそれはそれとして飲酒しての海水浴は良くない。他人に迷惑をかけるからというのもあるが、単純に自分の身が危険だからである。


「お姉ちゃんもサリアちゃんも悪い子だね」


「ヨアはやめとく?」


「お酒飲むの初めて」


「じゃ今晩は飲み明かそうね」


「えー!!酔っ払って遊ぶのが楽しいんじゃないの!?ほら、みんな買ってるよ!!あそこ!!いくよ!!」


 残念ながら今日のサリアは待てができない。

 少し列になっているお酒の屋台まで1人で走って行ってしまった。


「ヨアはサリア見張ってて。空きっ腹にお酒入れるのはやばいしなんか食べ物買ってくる」


「お財布全部サリアちゃんが持ってない?」


「大丈夫。私の財布抜いといた」


 案の定サリアに荷物を持たせるのは危険だったのである。

 とりあえずサリアが欲しがってた豚串と、せっかく海だから海鮮系をいくつか見繕うとしよう。


 いったいサリアがどれだけ飲むのかつもりかが心配だが、3人もいれば誰かしらからストッパーになるだろう。たぶん。きっと。


 そういえば昔ティアの誕生日会でパパに飲まされたことがあった。すぐに寝てしまったようで記憶はないが、僕はお酒が弱いのかもしれない。





 飲酒海水浴とかいう地獄が始まりそうである。




―――――――――――――――――――――――











――――





――――





――――



――――








――――




「あれ?」




 気がつくと知らない天井。


 横を見るとサリアの顔がある。近い。


「んーー??」


「いま何時?」


「さあ?19時くらい?」


「あー…そういうことね…。ヨアは?」


「トイレ。アーニャが起きたら出かけよって話してたの。ほら起きて、海行くよ」


「何時間寝てた?」


「寝てたのは2時間くらい?海で暴れ疲れて寝ちゃったから一回帰ってきたの。記憶ある?アーニャめっちゃやばかったから記憶飛びそうだとはヨアと話してた」


 まあ、そういうことだろうとは思った。


 泥酔後の終わった脳みそでもそのくらいのことはすぐにわかるのである。僕は天才だから。


 にしても2時間寝てたのか。2人には迷惑をかけた。




 ――これは、飲んで取り返さないといけない。



 枕元に置かれた瓶の酒を一気飲みする。

 これが迎え酒というやつだ。味はよくわからんが多分まずい。アルコール臭い。


「よし、じゃあ第二陣いこう!!私だけ記憶飛んでるの勿体無いし!!」


「お!さっすがアーニャ!そう来なくっちゃ!!さっき仲良くなった男の子達が夜も遊びたいって言ってたから!!」


「よし!そいつらまとめてぶっとばそう!!」


「やっちゃおーーー!!」


「あ〜お姉ちゃん起きた〜!えへへ〜!うみいく?ヨアもいく〜!!」


 トイレから帰ってきたヨアはやけにかわいい。

 いつもかわいいが。


 そういえば2人は水着姿。

 サリアは瞳の色に合わせた蜂蜜色のビキニ。フリルがたくさんで女の子らしい。

 ヨアは黒のワンピース。スカートがあるタイプだし室内でもおかしくない。オフショルで目の毒ではあるが。


 僕の水着はピンクの花柄ビキニ。ぶっちゃけ恥ずかしいしTシャツを脱ぐ気は一切なかったのだが、今は僕はTシャツを来ていない。酒の力は羞恥心を消し去ったようである。


 今も羞恥心はほとんどない。

 まだ酒が効いているのか、それとも慣れたのか。


「ヨアそこにあるお酒とって!!アーニャは歩ける?鞄は持って行かなくて大丈夫!その辺にいる男の子達がなんでも買ってくれるから!!」


「了解!!上着はなくて大丈夫?寒くない?」


「欲しくなったら誰かくれるから大丈夫!!」


「現地調達了解!!」


 僕の記憶がないうちに随分ビーチのルールを学んだようだ。サリアについていけば一生無銭飲食できそうである。


 兎にも角にも出かけなければわからない。

 僕には記憶がないのである。



「しゅっぱーつ!!」


「「しゅっぱーーーつ!!」」


 サリアの号令に合わせて部屋を出る。


 空は真っ暗。もしかしたら、いやもしかしなくても19時ではなさそうである。




――――




「あ〜よかった〜!!アーニャちゃんおきたんだ〜!!」


 海岸に着くといきなり明るい髪色の男に肩を組まれる。

 意図的なのか知らんが胸に手が当たっている。ぶち殺してやろうか。


「アーニャちゃんにはボディタッチ禁止つってんだろうがよ!!――ごめんね!こいつあの後もすげえ飲んでてもう多分何してんのかもわかってないんだ!!」


 近くにいためっちゃいかついお兄さんがぺこぺこ謝ってくる。赤髪坊主で全身タトゥーの日焼けマッチョ。あまりにも怖すぎる見た目をしている人間にペコペコされるのは生まれて初めてである。気分がとてもいい。


「あはは〜!心配かけたみたいなので今回は許しますけど、次やったら殺しますね!」


「ご、ごめん!まじで俺らも見張っとくから!おいガルド土下座しろ、ブッ殺すぞ!」


 ほんの冗談で殺すと言ったつもりだったのだが、なんか本気でビビられた。もしかしなくても僕は昼に何かやらかしたのだろう。


 ガルドと呼ばれた金髪のチャラ男は頭を砂に埋められている。いい気味である。


「もう遊んでも大丈夫そうなの?」


「ん〜?また記憶飛ぶかもしれませんが、とりあえず大丈夫そうです〜」


「え、記憶飛んでんだ…俺のこと覚えてる?」


「覚えてませーーん!!」


 僕たちを迎え入れてくれたのは男性5人グループ。

 多分この人たちが昼にいろいろ買ってくれたお兄さん達なのだろう。


 僕に構ってくれるのは坊主タトゥーニキ。

 サリアは子分のように男を2人従え、ヨアは真面目そうな黒髪の人と仲良く話をしている。

 おそらく5人とも高校生だろう。坊主タトゥーニキだけちょっと大人っぽいが、後はチャラい男子高校生って感じである。


「そ、そっか…俺の名前も覚えてない?」


「ん〜なんでしたっけ、アカリみたいな?」


「!覚えててくれたんだ!アガリだけど!!」


 あら。適当に言ったつもりが当たってた。

 記憶の片隅には残っていたようである。


「サリアちょっときてーー!」


「なにーー!」


「いいからきてー!あ、そうだアガリ!私なんか食べたいし飲みたい!」


「おっけー!すぐ買ってくるからサリアちゃんと話してて!」


 確認したいことがあるので一旦サリアを呼ぶ。

 アガリはすでに僕の手下。日本にいた頃の僕ならこんなヤバそうな人には話しかけもしなかっただろうが、今の僕はこいつよりも地位が高い。どうやら海岸では可愛い女がカースト1位のようである。


「どうしたの?」


「みんなに私たち何歳って言ってんの?」


「高校1年生ってことになってるよ!お酒飲める年齢じゃないとだし中学生だとお子様扱いされそうじゃん!」


「おけおけ!えらいぞサリア!」


「わん!!」


 頭を撫でてやるとサリアが抱きついてくる。

 それ自体は嬉しいのだが、後ろで見てるサリアの手下2匹が絶妙にキモい。


「で、このボーイズはどういう人たち?」


「みんな中学の頃の同級生で今は高校生みたい。アガリくんとガルドとミロクが同じ高校通ってて、アルとメルボルドは親の下で働いてるんだって」


「あ、なんかそんな感じだった気もするね」


 ヨアと仲良いのがミロク。

 確かトルムガル剣術学園に通っているエリートで、ヨアと話があったみたいな感じだった。


 存外覚えているもんである。

 記憶飛び度は50%くらいだったようだ。


「ヨアとミロクめっちゃいい感じだよね!普通に付き合っちゃいそう!」


「夏に海にきて付き合うとか1番青春って感じだね」


「そうかも!でもアルとメルはないな〜わんちゃんガルド?アーニャはアガリくんといい感じだもんね!アガリくんが怖い系でアーニャがお姫様みたいだからめっちゃいい感じ〜!アガリくんがアーニャにだけ犬みたいなのもめっちゃいいよね!」


「え〜、付き合いたいとかは全くないかな」


「そうなの?まあそれもそれでいいよね!あ、みて!あっちのグループなんか楽しそうなことやってるから行ってみよ!ほら、アルメルついてこーーい!!」


 別のグループが盛大に机を並べてやっている宴会の方へ駆け出す。僕にはない積極性。褒められたものかどうかはわからないが関心はするのである。


 程よく酔っている感覚はあるが、なんとなくあっちに混ざる気にはなれないのでアガリを待つ。

 アガリが行くようであれば僕も行くとしよう。新たな男達に会うにはボディーガードが必要なのである。



「お待たせ。サリアちゃん達は向こうに行ったんだね」


「おかえり〜。あ、おいしそう!ありがとね!」


 アガリが持ってきたのは酒とでっかい海老。

 僕は海老がそれほど好きなわけでもないが、海に来たらこういうのがいい。それになんか美味しそうである。


 皿を受け取るとずしりと思い。

 身が詰まってそうないい海老である。


「むこうもアガリ達の知り合い?女の子もいるみたいだけど」


「全然知らないグループだよ。俺らは5人だけできたから」


「そうなんだ。これ食べたら私たちも行く?」


「アーニャちゃんが行きたいなら」


「私はどっちでもいいからアガリにあわせるよ。てかこれどうやって食べるの?」


「…じゃあ俺は2人でいたいかな。かして、剥いてあげるよ」


 アガリに皿を返すと器用に剥き始める。


 よく見なくても海老というのはグロい生き物だ。頭をもがれる瞬間なんかSFホラーのワンシーンのようである。

 初めてこれを食べようと思った人はとんでもない勇者だったのだろう。


「どっか座りたいね」


「ちょっと歩いたところに静かな岩場があるんだけどどう?嫌ならその辺のテーブルでもいいけど」


「絶対に手を出さないって約束できるなら岩場行こ。その前にもう少しお酒買ってからだけどね」


「大丈夫、絶対に出さないよ。飲み過ぎてアーニャちゃんが倒れても変なところは絶対に触らないって誓う」


 アガリはサリア達から離れる方へ歩き始める。

 普通なら警戒する場面だが、なんとなく信用できるしついて行くとしよう。それに戦えば私の方が強いし。


 そういえばヨアとミロクが見当たらない。まあヨアも強いし大丈夫でしょう。


 そういえばといえばゲルドも見当たらない。

 あいつ死ぬほど酔っ払ってたし少し心配だ。



「ちょっと君、どこに行こうとしてるの?その子すごい酔ってるみたいだけど」


 酒を補充して目的の岩場に向かっているとお姉さん2人に絡まれた。


 女性だけでアガリに絡んでくるとはすごい人達だ。

 

「ここら辺はうるさいから静かなとこ行こうって話してただけですよ」


「それ男が手を出す時の常套句じゃん。ねえ、あなたも飲み過ぎだから。可愛いんだからもっと自分を大事にしなさい」


「大丈夫で〜〜す」


「人が心配してるんだから真面目に話聞きなさいよ。どう見てもこの男危ないでしょ?ビーチにくるの初めてなの?」


「ほっときなよリサ。馬鹿な女を心配しても疲れるだけだから」


「は?お前今私のこと馬鹿って言った?」


「!?アーニャちゃんストッーーープ!!このお姉さん達は君の心配をしてくれただけだから!!――俺トルムガル剣術学園2年のアガリ・バルドって言います!めっちゃ真面目なんで心配なさらず!失礼します!!」



 アガリは急に大声を出して私の手を引く。


 ボディタッチは禁止ってルールだったらしいけど、まあ手くらいなら許してやるか。




―――――――――――――――――――――――









――――






――――








――――









――――




「あれ?」



 気がつくと知らない天井。


 横を見るとサリアの顔がある。近い。


「んん…頭痛い…」


「いま何時?」


「…わかんなぁい」


 身体を起こして窓の外を見る。

 頭が痛い。僕も頭が痛いとは。


 はっきりと見てないからなんとも言えないが、おそらく昼は回っている。めちゃくちゃ寝てたみたいだ。


 部屋を見回すと布団も敷かずに水着で寝ている僕とサリアだけ。ヨアがいない。


「ヨアはどこ?」


「しらなぁい…。帰ってきてないならまだミロクのとこじゃない…」


「ミロク?ミロク…ああ、ミロクか。私って昨日いつ帰ってきた?」


「えぇ…?いつだろ…わかんないけど、アガリくんがお姫様抱っこして連れ帰ってきたよ…」


「サリアはいつ帰ってきたの?」


「うぅ…質問ばっかり…頭痛いよぉ…。私は適当な時間にガルドを連れて部屋にきて、部屋で飲んでて…アガリくんがきてガルドを連れて帰って、代わりにアーニャが落とされたって感じ…。朝くらいかなぁ…?」


 ふむ。


 あまりにも情報が断片的すぎる。


 つまり僕とサリアとヨア、誰も夜に何をしていたのかわからないということだ。本当に何もなかったのかなんて全くわからないのである。


「…アーニャが心配してるようなことはなかったよ。私はちょっと、まあ…そういう感じにはなりかけたけど、そこまではしてないし、アガリくんは誓って何もしてないって言ってた…」


「ヨアは?」


「…相思相愛ならいいんじゃなぁい?」


 よくない。


 いやいいのか?


 いややっぱりよくない。


 てかこんな惨状をパパとママにバレたら2度と旅行なんてさせて貰えなくなる。あまりにもバカな女子中学生過ぎる。恥ずかしい。2度と酒など飲むものか。


「ちょっとサリア起きて!作戦会議します!」


「んん…頭痛いってぇ…」


「それどころじゃないから!ほら起きて!てか上の水着つけてないじゃん!!本当に何もなかったの!?」


 サリアまでまさか!?


 いやヨアがそうとは決まったわけではないのだが!!


 てか僕が本当に何もなかったのかも定かではないのだが!!!!


 ダルそうにサリアが座ったので近くにあったTシャツを急いで投げる。僕のかヨアのかはわからないがこの際どうでもいい。


「何もなかったってばぁ…」


「『何も』とは?単刀直入に言うけどエッチなことは何もなかったってことでいいんだよね?」


「……ほとんど何も」


「ちゃんと言いなさい!!」


「…まあ、少しくらい?キスとか、ちょっとしたボディタッチ的な。そのくらいだよ。途中でアーニャ達帰ってこなかったら危なかったけど…」


「ちょっとサリア!!お前本気で言ってんの!?冷静になって何をしたのか考え直して反省しなさい!!」


「…よくあることじゃないの?ビーチにいたみんなそんな感じだったよ」


「よくあることだけど絶対にだめだことだから!!まじで!!2度とそんなことしたらダメだからね!!約束!!破ったら絶交だから!!」


「わかったわかった…約束ね……もうねるぅ…」


 最悪。

 元々痛かった頭が余計に痛くなってきた。

 本当の本当に親にバレるわけにはいかない。


 サリアも完全に冷静になったら絶望しそうだ。


 というかこの宿はパパが予約したもの。

 もし宿の人とパパが繋がっていたらどうしよう。

 怒られるくらいじゃ済まない。


 やばい。


 本当にやばい。


 まじでやらかした。



「まじでどうしよう…」



 一気に酔いが覚めた気分。

 絶望的な現実。頼むから夢であってくれ。


 肉体関係どうこうとかの話じゃない。

 酔っ払って朝まで男と遊んでたってだけで余裕でアウトだ。なんで昨日の僕は旅行先に子供3人で酒を飲むなんてのを許した。ましてや海で。



 夢じゃないのか?


 これ夢じゃないのか?



 ……いや夢じゃない。



 考えれば考えるほど酔いが覚めてくる。


 正常な思考に戻る。


 言い訳すると、きっとこれが女子中学生の思考レベルなのだ。僕が今男子高校生だったらこうはなっていなかったはずだ。なっていたかもしれないが。



 作戦を立てようにもサリアは寝たしヨアはいない。


 自分を見ればよくこんなもんで男の前に出れたもんだという服装。襲ってくださいと誘っているようなものである。


 タオルと着替えを持ってシャールームへ向かう。



 冷えすぎた頭を少し温めるのである。





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