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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第九十二話 同刻2年1組の慟哭

非常に短いおまけ的な話です




「むむむむむ…」


 リーシャ・ユティは形の良い眉を顰め、教室最後方の会話に聞き耳を立てる。

 正面に座る友人2人が呆れたようにため息をついていることには気がつくことすらない。


「ここは正妻としてどしっと構えときゃいいんだよ。なぁレノ」


「ああ。気にしても意味ないって」


 リーシャの班員のドミンド・アンヌとレノ・テミルは部活動の仲間でもあるため、リーシャは自分の班に不満はない。

 不満があるのは彼氏であるトゥリー・ボールボルドの班である。


「2人はそういうけどさ。トゥリーってほら、すぐに女の子を引っかけてくるじゃん。アリシア先輩とかテタちゃんとか。私も引っかかった1人なんだけど…」


「それでお前もトゥリーを引っかけたんだろ。自信持てよ。なぁレノ」


「引っかけるって言い方はやめとけよ。トゥリーが悪いやつみたいじゃん」


「そうだよ!トゥリーは悪い男じゃないもん!」


「「自分で言ったんだろうが!!」」


 もうすぐ終了のチャイムがなるというのに、リーシャが彼氏に夢中で話し合いは進まない。ドミンドは計画を立てるタイプではないため、現在レノがほとんど1人で計画を練っている。



「……トゥ…す………き………」


「………おれも……」


「!?(ね、ねぇいまなんかすごい会話聞こえちゃったんだけどどうしよう!!)」


「「(お、おい近い!!)」」


 教室の喧騒の中、微かに聞こえた会話を断片的に切り取ってリーシャが慌てる。

 自分の声が相手へ届かないよう、2人に顔を近づけて小声で叫ぶ。


 部活の友人。友人の彼女。

 感情を必死で抑えるが、レノもドミンドも思春期の男。リーシャのような美人に鼻が触れるほど近づかれれば鼓動が速くなる。


 リーシャ・ユティは絶世の美少女。

 純白の毛並みは、道を歩けば誰しもが振り返るほどに目を引く。そしてその整った可愛らしい顔を見れば、男なら一目で恋に落ちる。

 それでいて気取った様子が全くない。感情に合わせてぴこぴこ動く白い耳や大きな尻尾は女性からの人気も高い。


 ナスフォ中等教育学校で1番のイケメンと名高いトゥリー・ボールボルドの彼女は伊達ではない。

 2人をよく知らない人から見れば、むしろリーシャの彼氏の方が羨ましいポジションであろう。



 眼前に迫った美少女にドギマギする少年たちの気持ちも知れず、リーシャは2人の背中に手を回して机の中心に頭を寄せる。

 ふわりと漂う甘い香りが2人の鼻をくすぐる。鼓動は張り裂けんばかりに高鳴っているが、幸いトゥリーの机に耳を傾けるリーシャには届かない。


「(ねぇ、トゥリー達の近くにテント建てるべきじゃない?)」


「(ど、どうやってあいつらのテントの場所調べるんだ?)」


「(そ、それは……あ!後でトゥリーに聞けば良いんだ!)」


「(な、なるほど。盲点だったぜ…!)」


「(…おい馬鹿ども。俺が今まで立てた計画はどうするつもりだ)」


「(そ、それは…うぅ…なんとかしてください…)」


「(大体、こういうのってあんまり場所が被らないように後で先生に調整されるんだよ。あいつらと散策範囲が被ってるかどうかもわからないだろ)」


 今回の遠足はガポル村周辺の魔物の森だが、森を広く使って各班が可能な限り会わないように配置される。指定範囲が違うのであればテントを近くに立てることは不可能だ。


「(うううぅ…だってぇ…)」


「(今回は諦めろ。もう少し自分の彼氏を信用したらどうだ)」


「(まぁレノのいう通りだな。俺らは俺らで適当に遊ぼうぜ)」


 レノが露骨に耳を垂らすリーシャを押し返し、3人は元の姿勢に戻る。


「とにかく、お前らがふざけてる間に俺がある程度計画を立てたから。そんなに気にするくらいならリーシャはあの2人に直接釘を刺しにいけ」


「!?むりだよ!カユは友達だし、ティアちゃんとはほとんど話したことないし…」


「じゃあ諦めろ。ドミンドはなんか意見あるか?」


「俺はなんでもいいぜ!キャンプ昔行ったけど楽しかったな!今回は先生もいないしやりたい放題だぜ!」


「あらぁ、やりたい放題ではありませんよ〜?ちゃんと皆さんのことを見張ってますからね〜」


「うげっ!デルヌー!!」


 2年1組の教室を見回っているのは担任のアゲハ・デルヌー。若く美しい女性教師で、男女問わず生徒からの人気がある。


「も〜第二魔導部の子はみんなそうやって呼ぶんですからぁ。ちゃんとアゲハ先生って読んでくださぁい。まったく、アーニャさんには困ったものですね〜」


 ドミンドが咄嗟にデルヌーと呼んでしまったのは部活の仲間のせい。例に漏れずドミンドもアゲハを慕っているため、普段はアゲハ先生と呼んでいる。


「アゲハ先生!トゥリーと私たちの班って散策範囲被ってますか!?」


「え〜と、リーシャさんの班とトゥリーくんの班ですかぁ、ちょっと待ってくださいね〜」


 アゲハが手元にある資料を開いて確認する様子を、リーシャは固唾を飲んで見守る。


 レノとドミンドはもう諦めて雑談を始める。

 2人にとってトゥリーと散策範囲が被っているかなどはどうでもいいことだ。


「あらぁ、バッチリ被っていますね〜。うふふ、でもあまり私情を挟んではダメですよぉ?テントの位置を意図的近づけたりしたら私が引き離しますからぁ」


「そ、そんなぁ…」


 幸運なことに範囲は被っていたものの、リーシャの作戦は打ち砕かれた。


 キャンプとは言うがあくまでも学校行事。

 色恋沙汰を持ち込むことはアゲハでも許しはしない。


「トゥリーさんがあの2人と一緒になってしまって心配する気持ちはわかりますが、これは教員が集まって決めた最も安全な班わけですので諦めてくださいね〜」


 アゲハが資料を閉じたと同時に授業終了のチャイムがなる。


「机を元の形に戻してくださぁ〜い!2組の生徒は自分たちの教室に速やかに戻ってくださいね〜!――こら、ドミンドさん!机は引き摺らないでちゃんと持ち上げてくださぁい」




 ーー机を動かす音が響く中、リーシャは片付けもせずに教室後方を見る。



「…え?」



 そこにはティア・ナシアールの頭を撫でるトゥリーの姿があった。




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