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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第九十一話 旅行計画なのである




 山。


 中国語で言うと山。


 山という字は象形文字であり、連なる山々の形から生まれた字である。


 他に象形文字で有名なのは川や目。

 誰がみても象形文字だとわかるほどにそのままの見た目をしている。目だけに。


 逆に多くの人がそうだと思わないものもある。


 例えば麗。

 多くの人は、麗という字が『角の見事な鹿』からできた象形文字であることを知らなかったであろう。


 つまり鹿も象形文字。

 これは絵を使って説明されても意味がわからない話である。

 鹿の角が豪華な様子から麗ができたのまではイメージできるが、そもそもシカがどうやって鹿になったのかはイメージできないのである。


 しかしながら象形文字であるという事実は事実。我々がごねてもそれは変わらないのである。

 ある程度理解できない象形文字については諦めないといけない。星座だってどこがどうなったらそう見えるんだってやつだらけだし、昔の人は感性が豊かだったんだなぁと諦める()()ないのである。シカだけに。



 まだ言いたいことが山々だが、収拾がつかないので話を戻そう。


 山と川はどちらも三画の象形文字である。


 ただ、山の方が書く難易度が高いことは言うまでもない。川の字になって寝るなんてことはあっても、山の字になって寝ることはないのである。


 そもそも、川というのは山から来るものである。

 川は山から流れてくるが、山は川から流れてこない。



 つまり何が言いたいかといえば『山>川』である。




――――




「…らちが明かないのでそろそろ多数決でもとりますか?」


 山vs川のバトルが始まってからすでに1時間。

 教壇の前に立つヨーグ先生はくたびれてきた。


 現在僕たちは夏休みにある第二魔導部遠征の目的地をめぐって争っている。


 ひとつ目の選択肢はフェード領『塔の森』。

 生息する魔樹が塔のように太く高いことからその名はつけられた。


 王国の中で3番目に標高の高い魔物の森で、非常に珍しい魔物が出ることで有名である。

 ただその魔力濃度は低いため、危険性はそれほど高くない。学校の行事として行くには丁度いい難易度だろう。


 ふたつ目の選択肢は同じくフェード領『溜水(ためみず)の森』。

 大きな川が3つ集まる湖があることからその名はつけられた。


 湖に魔樹の群が広がっている形の森であり、非常に足場が悪いことで有名。そのため陸生の魔物は生息しておらず、針魚(しんぎょ)のような小型で貧弱な水生の魔物ばかりが生息している。

 船で動くには魔樹が邪魔なので、採取目的で立ち入る人もほとんどいない。過疎森である。



「絶対に溜水の森はないよ。きったない泥水まみれになってみんな不幸になるだけだって」


 本日何度目かわからない説得を試みる。

 僕は1番教壇に近い席で後ろ向きに立ち、山派代表としてみんなに語りかけている。


 比べてみればどちらがいいかなんて言うまでもない。

 誰が好き好んで過疎森なんぞに行くものか。

 

「もう山に決定ね。はいはい終了〜」


 サリアに意思はない。

 僕が山と言えば山、川と言えば川。そういうやつである。


「いや、塔の森に行っても得られるものがないだろ。俺は第二魔導は溜水の森みたいな足場の悪い場所でこそ活かせると思う」


「じゃあ私も塔の森!何が違うのかよくわかんないし」


 川派代表はトゥリー。

 汚れとかを気にしないアホガキだから僕の気持ちがわからないのだ。


 バカ狐にも意思はない。

 トゥリーについて行くだけのおもちゃである。よって無効票である。


「俺らも溜水がいいと思うぜ!レノの槍で魚ブッ刺して、焼いて食うのが1番美味いに決まってる!!」


「足場の悪い場所での槍術を試してみたい気がするしな」


 レノとドミンドも川派。

 汚れとかを気にしないアホガキ以下略。


「俺は、どうだろ…やっぱり珍しい魔物見たいかな?樹這鷹(じゅはいだか)とか鋼砕猿(こうさいえん)とか」

 

 優等生のドレッドはもちろん山派。


 ちなみに樹這鷹は地這鷹の変異種で、樹上で生活する魔物である。非常に温厚かつ臆病なため、弱い魔物の割に素材が取りにくい。


 鋼砕猿は塔の森で最も危険な魔物である。

 猿というよりゴリラのような見た目をしていて、縄張り意識が強く好戦的な魔物である。両腕が異常に発達しており、外皮は鱗に覆われ、その攻撃は魔鋼すら砕くのである。運動能力も高いことから、恐鬼よりも危険とされている。


「俺はどっちでもいいよ。みんなに合わせる」


 エディーは意思がないというより興味がない。

 去年の武闘祭からエディーは随分と変わってしまった。昔のように僕たちと遊ぶことはなく、誰かをからかって遊ぶ様子もない。

 ひたすらに強さを目指すことが悪いとは言わないが、ちょっとやり過ぎのような気もする。ラファの恩師であるヤミア先生も言っていたようだが、学生の間は遊ぶことも仕事だと思うのである。


「私は絶対に溜水の森!中学校最後の夏休みだし、みんなで水着着て思い出をつくろうよ!!」


「私はどっちでもいいから、アリシアに合わせようかな」


 アリシアパイセンは邪な理由で川派。

 今までの連中の主張よりは僕の心に響いたが、汚い水で遊ぶ気にはなれない。これが綺麗な海だったら話は別だったのである。


 シャローナ先輩はアリシアパイセンに合わせるという意思がある。卒業の近い先輩方同士の絆というやつだろう。悔しいがこれは無効票にできないのである。



「僕は水が苦手ですので塔の森がいいです!」


 この元気いっぱいな1年生はディム・ルティ。

 ケシ村出身、狐の獣人である。


 狐といえばリーシャだが、白狐のリーシャとは違ってザ・狐カラーの狐ボーイで、まん丸お目目は穏やかな赤色をしている。赤いきつねなのである。

 獣人の割に体格に恵まれず、身長は140cmほどと部内で最も低いため、マスコット扱いをされている。とてもじゃないが、男子中学生には見えないのである。


 余談だが、その見た目と変声前の高い声から、女の子に間違われることが多い。僕とて最初は女の子かと思っていたのである。


 そんなディムは山派。

 ディムは水が苦手なのである。かわいい。



「俺もかな〜。水辺だと本が濡れるし〜」


 この気怠げな喋り方の1年生はカリス・マキルシー。

 ナスフォ街出身、純粋人である。


 目元を覆うほどの長い黒髪、まんまるの黒眼鏡、本で口元は隠れがちなため、顔がほとんど見えないミステリアス系男子である。

 身長はまだ165cmほどだが、伸びるペースから察するにかなり高くなるだろう。なんとなく見える顔立ちも整っているし、イケメンになると予想しているのである。


 カリスが山派なのは想定通り。

 いつも本を読んでいるカリスが川など行くはずないのである。



 部員12名の発言が終わり、これで出揃った。


 山:アーニャ、サリア、ドレッド、ディム、カリス

 川:トゥリー、レノ、ドミンド、アリシア、シャローナ

 無効:リーシャ

 放棄:エディーレ


 山5票、川5票、無効1人に放棄1人。

 つまり同票である。



「塔の森が5名、溜水の森が6名。エディーレ君は投票なしの計12名で合ってますね。じゃあ溜水の森で良いですか?」


 !?


「待ってください!リーシャは意思がないので無効票だと思います!」


 このバカティーチャーが!!

 そんなんだから正顧問の座をレラーザ先生に取られるんだ!!


「!?な、なんで!?」


「だってリーシャはただトゥリーに合わせただけじゃん!」


「じゃ、じゃあサリアちゃんだって無効でしょ!」


「私は強い意志を持ってアーニャに合わせてるの」


「じゃあサリアも無効にするとして、レノとドミンドなんて2人で1票でしょ!いつまで経っても半人前なんだから!」


「「ひでえ!!」」「なんで私無効で納得するの!」


 この際バカ3人などどうでもいい。

 本当はシャローナ先輩も無効だと言うのが手っ取り早いのだが、先輩に対してそんなことはできない。


 それかエディーを説得する。

 山の方が強くなれると思うよ〜って言えば乗っかってきそうなもんである。


「諦めてくださいハレアさん。結果は結果です。それにハレアさんが思っているほど溜水の森は汚くないですよ。ハレアさんは水着とか好きそうじゃないですか」


「えー。どのくらいの汚さですか?」


「そうですね、えーと、ハンターであれば身体を洗えるくらい綺麗ですよ」


「一般人だと?」


「入った後にお風呂は必須ですね」


「山でお願いします」


「まあまあ、宿に帰ればお風呂はありますから。諦めてください。それに1年生が2人とも水が苦手だと言うのであれば、むしろ溜水の森に行くべきでしょう。苦手を克服するのが部活の役割ですから」


「そうやって厳しくするから8人も辞めたのでは?」


「大丈夫ですよ。残ってくれた2人のことを僕は信じていますので」


 気持ち悪くニヤけかけるヨーグ先生の視線の先には、嫌そうな顔をした少年2人が仲良く席に座っている。

 相変わらずヨーグ先生の笑顔はキモいのである。


 2人は嫌そうな顔こそしているが、ヨーグ先生に文句を言うことはない。

 できないと泣き喚く子や、教え方が悪いと逆ギレする子、いつからか自然と来なくなった子達がいた中で、2人はここまでついてきてくれている。

 嫌そうな顔をしていたことは今まで何度もあったが、それでも辞めなかった2人は僕も信頼しているのである。


「ハレアさん、ローラムさん、ドレッドくん、ディムくん、カリスくん。申し訳ありませんが今回は溜水の森についてきてもらいます。塔の森にはまたいつか行きましょう」


「わかりました」

「わかりました〜」

「了解しましたです!」


「…ハレアさん、ローラムさん?」


「「…はーーい」」


 他の3人が納得しているのにゴネ続けるわけにもいかない。


 僕達はもう先輩なのである。




――――――――――――――――――――――――




 僕は最近出かけることが多い。


 長期休暇の旅行、学校行事での遠征、ただの休日でもゴルミュ街まで行ってみたりと、ナスフォ街に留まっていることが少なくなっている。


 これが成長というものなのだろう。

 親から離れて行動できる年齢になると、自然と離れていくものなのである。


 これは親離れでもあり子離れでもある。

 もともと子供は親元を離れ、色々な場所に出掛けてみたいものである。ただその範囲というものが親に制限されていたために離れられなかっただけなのだ。


 例えば幼稚園の後に集まる近所の公園や小学校の後に自転車で出かける友達の家。

 中学生になるとその範囲が広がる。公共交通機関を使えるようにもなるし、時間的制限もある程度取り払われることが多いだろう。もちろんその裁量は各家庭によるものではあるが。


 こうして徐々に時間的制限や空間的制限、あるいは金銭的な制限が取り払われることで親離れをしていくのである。そしてその制限を取り払う行為こそが子離れなのである。


 そしてこの『子離れ』は親から子への信頼に依存する。

 自分の子を見つめ、どれくらいのことまでなら許可して良いかを決めるのだ。その多くが年齢によって得られる信頼だからこそ、年齢によって子離れが進むことが多いわけである。


 つまりいくつになっても『子離れ・親離れ』できていないパターンとして挙げれるのは①親の裁量が上手ではない場合と②子供が信頼に値しない場合がある。


 ①は第一子に起こりやすい。

 子供を信頼しきれない、信頼はしているが心配が勝る、どこまで許可していいのかがわからない。いずれかの原因、あるいはその全てからか、親がいつまでも子離れできないのである。そして親が子離れできなければ当然子供も親離れできないのである。

 こうして『箱入り娘』や『我儘ひとりっ子』が誕生していく。時には思い切って大海に放り出すことも必要なのである。


 ②はすごく単純な話である。

 子供のこれまでを省みて、1人で行動をさせるに値しないと判断されるのであれば離れさせるべきではないのである。多くの場合年齢とともに改善されるが、そうはならない場合もある。

 そういったパターンには生まれ持った障害によるケースが多いが、学校生活や家庭の中で生じた問題による後天的なケースもしばしばある。



 校外学習や修学旅行は、こういった問題を適切に取り払うための意味合いがあるとも僕は思っている。


 学校が用意したものであれば、親も安心して子供を送りやすく、その結果如何によって子供を信頼することができるようになるわけである。

 子供も親から離れての旅行を経験することによって、少しずつ1人での歩き方を覚えていくのだ。



「お兄ちゃんって私より頭いいし運動できるし、私の兄なんだから顔だって悪くないのに、1回もうちに彼女とか連れてこないとかおかしくない?」


 現在僕は夏休み明けの遠足に向けて話し合い中。

 普段とは違う2年2組の教室でシャイナーの話を聞いているのである。


「家族にバレたくないとか?」


「ちがうの、あいつ全然おしゃれとかしないし、妹相手でもモゴモゴ喋るし、マジ根暗って感じなの。だから昨日『モゴモゴしてるのキモいからはっきりした方がいいよ。髪の毛くらいセットしたら?フケ付いてて汚いんだけど』ってゆったの。したらあいつマジギレしちゃって大喧嘩。妹相手にマジギレするからモテないんだよってゆったら今度は拗ねて部屋に引きこもるし、やばくない??」


 シャイナーの兄、マクシド・ミリキスは3個上で現在高校2年生。高2の兄が中2の妹にマジギレするのは確かにダサいが、シャイナー視点の話ですらシャイナー側が悪者に聞こえるのである。


 勉強運動顔面が揃っているのにそれを活かさないのは勿体無いと思うが、マクシドからするとそう簡単な話ではないのだろう。

 今はまだ巣立つ前の鳥、いずれ人並みの身嗜みやコミュニケーションを身につけて自立するはずである。


「経験上そういう人は人と関わるのを恐れている場合が多いよ。おしゃれとかして周りから弄られるのが怖いんじゃないかな?」


「えー、ぜったい汚い方がキモくない?そんなことでいじってくるやつって嫉妬でしょ」


「私もそう思うんだけどねぇ。どんな理由であれ目立つのが怖いんだよ」


「モゴモゴ根暗の方が目立つことない?」


「初日はそうかもだけど、モゴモゴ根暗がいきなりキラキラハンサムになったら目立つでしょ。シャイナーのお兄ちゃんはおしゃれとかを上手なタイミングで学べなかったんじゃない?」


「ふむ。その上手なタイミングっていつだ?」


「ヨモはオシャレしなくていいっしょ」


「……どういう意味だ。このままだと僕は罵倒だと受け取るぞ」


 シャイナーのいうヨモとはヨモンド・ナシアールのことである。2人はなんやかんや長い仲なので仲良しなのである。

 ヨモンドはくすんだ金髪のイケメンもどき。貴族らしく一応金髪なのだが、どちらかといえば黄土色だし、幼い頃からお決まりのオールバックもにあってない。もともとの顔が中の下なので、もう少し自分に合った髪型を探すことをお勧めするのである。しないけど。


 僕の正面、ヨモンドの左隣に座るシャイナー・ミリキスは激マブ美少女である。

 焦茶色の髪に灰色の瞳は昔から変わっていないが、幼い頃から美容に気をつかっていたおかげで、素晴らしい美少女に成長した。メイク、髪の巻き方、仕草や表情、自分に似合うものを研究し続けたのだろう。背が小さくて、顔立ちが幼いのにちょっと気がきつそうな美少女。中学生のくせにマセすぎだとも思うが、我が校で1番僕のタイプなのはシャイナーなのである。


 だが勿論ディファリナ様には遠く及ばない。

 生まれつき規格外な上に、王族付きのプロにお世話されているあの方はこの国が誇る至宝なのである。


 別にシャイナーを貶めたかったわけではない。

 むしろシャイナーが可愛すぎて褒めすぎてしまったからこそ、懺悔のためにディファリナ様を讃えたのである。


 机を3つ集めて作った簡易的な会議デスク。

 正面を向けば自然とシャイナーと目が合う。


 アイメイクまでバッチリ。

 バッチリとはいったものの、生前の知識と比べるとかなりナチュラルなメイクである。もともと整った顔立ちというのもあるが、目を大きく見せるような詐欺メイクはしていない。


 詐欺メイクをしないのはシャイナーに似合わないからというだけではない。こっちの世界には目を大きく見せるという文化がないのだ。カラコンやつけまは存在しないし、アイラインを過度にはみ出させることもなければ、涙袋を書くこともない。


 これは瞳を重視するという文化のせいである。

 その人の強さが瞳に露骨に表れるこの世界では、目元でヒエラルキーを判断することが多い。それは決められたルールでこそないものの、世界にある必然的な慣習なのだ。

 だからこそ目元に過度なメイクをする文化は生まれにくい。色付けたり、目尻の印象を変えたり、まつ毛を上向きにする程度の話である。


 個人的には詐欺メイクと呼ばれた派手メイクが嫌いではなかったので寂しくはある。詐欺しなくても僕好みドンピシャの方がいるから耐えてはいるが、やっぱり好みの女性が街中には多い方が目には優しいのである。


 余談だが校則でメイクが禁止はされていないものの、メイクをしてくる生徒は少ない。

 見た目に頓着のない生徒が多いというのもあるが、メイクという文化自体がそれほどメジャーではないというのもあるだろう。メイクというのは上流階級がするというイメージなのである。

 僕がしていないのは日本の校則になんとなく影響をされているからである。出かける際には多少するし、高校に入ったら平日もするつもりだ。


「ヨモンドはねぇ…ティアにはなんか言われないの?」


「ティアは僕に興味がないからな」


「ティアはヨモに興味ないってか、トゥリーさん以外の男子に興味ないじゃん」


「トゥリーさんなんだ」


「なんか呼び捨てしづらくない?アーニャもこうやって話すまでは話しかけづらかったし。なんか遠くの世界の住人みたいな」


「そんな大袈裟な。昔から何も変わってないよ」


「だよね。変わってな〜って思ってた」


「それは褒めてるのか…?」


「褒めてるってか、良かった〜って感じ」


 シャイナーやヨモンドも僕と距離が開いていた生徒。

 もっと言えば、僕が武闘祭でやりすぎる前から随分と会話はなかったような気もする。

 班が決まった時も、ヨモンドはやけによそよそしかった。シャイナーが話しかけてくれるタイプの子でなかったら今もそんな感じだっただろう。


「冷静に考えるとアーニャがヤバかったのなんて昔からだもんね〜。私があんまよくわかってなかっただけで」


「僕もだな。初めて会った時は可愛い子くらいにしか思ってなかった」


「口説いてんの〜?釣り合ってないからやめときな〜」


「ヨモンドは出会った時から口説いてきたもんね。ごめんなさい、嫌いじゃないけど恋愛対象には思えません」


「告白してもいないのに振るのはやめろ!!大体僕には他に好きな女性がいるから変なことを言うな!!」


「え、ヨモに好きな人いるんだ」


「ああ。君のことだよシャイナー」


「!?ちょ、ちょっとまってよ、ヨモ言ってることやばすぎるって…!」


 あらあら。

 なんか突然ラブコメの匂いがしてきましたよ。


「嘘に決まってるだろ」


 してませんでした。


「…その嘘はまじでやばすぎ。ドン引き」


 一部の人には需要がありそうな軽蔑の表情を浮かべるシャイナー。

 だがヨモンドにはそういう趣味はなかったようだ。空気が凍り、ヨモンドは気まずそうに黄土色の髪を掻いている。


「なんでたまにはと思って反撃したら僕が悪者になるんだ…」


「まあ告白冗談は1番センスないよ。2度としちゃいけないやつだから反省しな」


 冗談紛いの告白は1番あり得ない。

 好きでもなかったら失礼すぎる話だし、本当に好きだったとしてもあり得ない。反応を見ていけそうだったら本気で告白しようみたいな保険に見えてクソダサなのである。

 もし僕がされた側の人間だったら、好きだった相手でも冷めるレベルである。

 いや、好きな人からだったらダサかわいくて許せてしまうかもしれない…。


 1番冗談にならないパターンはされた側が恋心を寄せていて、なおかつした側は本気で冗談だったパターンだ。この場合はあまりにも残酷な話になってしまう。


 まあどのみち救いようのない冗談なのである。


「私とヨモの仲だから許すけど他の子にやったらマジで嫌われるからね」


「あ、ああ。悪かったすまない」


 幸いシャイナーからヨモンドへの恋愛感情は100%ない。これから恋愛感情に発展することも100%ないと断言できるのである。


 仲が良ければ誰も彼も恋仲になるわけではない。

 シャイナーとヨモンドにあるのはいわゆる男女間の友情というやつなのだ。



「そういえばそのトゥリーの班なかなかにすごいよね。あれ先生達狙ってたのかな?」


 空気を変えるために話を変える。

 メンバーはトゥリー、ティア、カユ。男女間の友情とは程遠い3人組である。


 ちょっと気になっていたので班分けが決まった後の様子を見ていたところ、ティアもカユもトゥリーのことを男性として意識している様子だった。

 まあそりゃそうだって話である。2人とも告白して振られたわけではなく、横からリーシャに奪われたのだ。未練たらたらなのは当たり前である。


「いや〜狙ってたら相当性格悪いと思うけどね〜。ドルフさんはよくわかんないけど、ティアは普通にまだトゥリーさんのこと好きだと思うし」


「昔からトゥリーはそういう節があったからな。僕は注意していたつもりだったんだが…」


「やっぱりそうだよね。カユは割とリーシャに敵対心燃やしてるタイプの子だし、何もないといいけど」


「え?ドルフさんってそういうタイプには見えないけど」


「表面化してないだけだよ。リーシャ本人も気がついてないけど、カユはリーシャにめっちゃ複雑な感情向けてそう」


「それを僕達に言ってもいいのか?」


「2人はカユとそんな接点ないでしょ」


 クラスの子達はまるっとカユに騙されている。

 あの子は嫉妬ばかりの碌でもない子だ。僕が嫌いなタイプである。

 まあ内心で燻らせてるだけなので問題は起こさないと思う。良くも悪くも勇気と自信が極端にないのだ。



 空気を変えるために話を変えたつもりがまたしても微妙な空気である。


 なのでまた話題を変える。てか戻す。


「そろそろ私たちも計画立てないと。どこにテント建てるかも決めてないし、タイムスケジュールも決めてないじゃん」


「アーニャに全部まかせま〜す。私こういうの得意じゃないし、ヨモにまかせるのは無理だし」


「僕もアーニャに従う方針で異論はない」


「んじゃまあ、適当に決めちゃおっか」


 2人がそれでいいというのなら手っ取り早い。


 2人ともハンターになる気はない生徒。

 であれば2人の成長を促したりする必要などないわけである。1番楽で楽しくやれるようにプランを立てればいいのだ。

 先生に文句言われるかもしれないが安全確保は僕が全部やれば良い。キャンプの設置くらいはヨモンドに働かせよう。いつか父親になる時の予行演習である。



 2人が雑談している前で地図を見ながら計画を立てる。


 僕は旅行計画を立てるのが嫌いではないので、嫌な気持ちは全くしないのである。むしろ旅行計画を立てている時間というのは、旅行当日と同じくらい楽しかったりもする。


 今日の授業はこれで終わり。


 部活も休みだからこの後はサリアとヨアと夏休みの旅行の計画を立てるのである。



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