表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
105/116

第九十話 手紙なのである




―――――――――――――――――――――――

 天暦2545年7月3日


 王都では有名じゃない姉さんへ


 お久しぶりです。

 入学してから3ヶ月が経ち、少しは落ち着いてきたので手紙を書くことにしました。


 一応今までの手紙全てに目は通してあります。

 姉さんが心配しているようなことは今のところないので、手紙のペースは2月に1度くらいにしてください。読むのがめんどくさいわけではありませんが、返事を書かないとと思うとストレスになります。


 家を出てから初めての手紙なので少し長くなりますが、いろいろ私のことを書こうと思います。


 現在私は入学前に懸念していたようなことは何も起こらず、楽しい学園生活を送っています。幸いなことに人間関係にも恵まれ、人生で初めての友人と呼べるような関係の子たちも出来ました。それも1人2人ではなくたくさんです。


 寮の同室の生徒はハルティ・アルドとミシル・ミシスの2人で、どちらもクラス6に所属している子です。


 ハルティはお節介が好きな子で、私とミシルの生活を全て管理しています。

 朝起きる時間から全てのタイムスケジュールはもちろん、食事の内容や身だしなみまで全てのことについてです。最初はうるさいと思いましたが、慣れると良いことばかりです。部屋は綺麗ですし、寝坊することもありませんし、ネクタイやカーディガン、運動着まで全てを選んでくれますし、健康に合わせた食事メニューを教えてくれます。

 私は相変わらず早朝から運動に出かけるのですが、寮生活2日目にはハルティもその時間に起きるようになりました。一緒に起きて顔を洗い、私がランニングから帰る頃にはシャワーの用意がしてあり、シャワールームから帰る頃にはミシルを起こして食堂に行く準備がしてあります。

 ハルティはとても綺麗好きな光魔術師なので、私たちの部屋には埃ひとつありませんし、服にはシワひとつありません。


 ミシルはハルティとは真逆で、1人では何もできない子です。あとわがままです。

 ハルティにおんぶに抱っこで、着替えや歯磨きまでハルティにしてもらっています。ハルティが手を離せない時は私も歯を磨いてあげたりします。

 この子も最初はめんどくさかったです。朝ごはんは食べたくないと言ったり、今日はお風呂入らないと言い出したり、着替えられないから着替えさせてと言ってきたり。ハルティがいなければ今もそんな感じだと思います。でも慣れてくると妹ができたようで可愛くなってきました。私達が面倒を見てあげなきゃという気持ちになってきます。

 幸いなことにもミシルとハルティはクラスも一緒なので、ミシルはなんとか学園生活を送れています。教室の移動や課題などはハルティがいないとミシルでは難しかったでしょう。

 ミシルは剣士なのでたまに手合わせをしたりします。勝負にはならないので稽古をつけてあげている感じです。


 同室の2人の他に、クラスメイトにも友達ができました。全員を手紙で紹介するのは無理な程度には沢山できたので、ハンター想定実習パーティの2人を紹介しますね。


 1人はミラ・デイビスといって、第三貴族デイビス家の次女です。ふわっとした桃色の髪の小柄な子で、ぱっと見の雰囲気は姉さんとなんとなく似ています。

 ただ姉さんとは違って大人しくて優しい、成績優秀で真面目な子です。入学試験のテストは満点だったそうです。

 いつもおどおどしていて、人と話すのが苦手だったりする子ですが、座学だけでなく実技でも学年1位の魔術師です。炎魔術師なのですが、タイグドさんよりも遥かに強いです。私の実力では正確な実力を測ることはできませんが、全力の姉さんが2人がかりでも勝てるかわからないほどだと思います。

 ミラは勉強を教えるのも得意なので授業では隣の席に座っています。私が授業についていけているのは、ノートの取り方から全てをミラに教えてもらっているおかげです。


 私からできる恩返しはミラと周りの子を繋ぐことです。ミラは喋るのが凄く苦手なので、クラスの子ともうまく話せません。なので私が間に立って話を繋いであげています。私も他人と喋るのが苦手だったはずなのに、いつのまにか苦手意識はなくなっていました。

 ミラと出会ったのは入学試験の日で、入学式の日にミラから話しかけてきてくれました。それからはずっと2人一緒に行動しています。

 ミラもミシルと同じ小動物系の子ですが、妹という感じはしません。私の方がお世話をしてもらっているからかもしれません。


 休日にはよく2人で出かけます。

 ヤミア先生にも1週間に1日は必ず休んで学園生活を楽しむように言われているため、少しずつ剣以外の楽しさについても学び始めました。

 天鱗学園中等部の制服は純白のジャケットだけで、それ以外の部分については自由が認められています。なのでスカートとネクタイ(ミラはリボンですが)はお揃いで買ったりしています。お揃いで行く日には前日にハルティに言うと、ちゃんとそれを用意してくれます。

 興味を持ってみるとお洒落も楽しいものですね。貴族の社交界に一度呼ばれたのですが、ミラの家でドレスを選ぶのが凄く楽しかったです。社交界自体も楽しかったですよ。


 昔初めてドレスを着てお食事に行ったのを姉さんは覚えていますか?私はミラの家の鏡の前に立った時に思い出しました。

 あれからもう7年も経っているんですね。久しぶりにカチュアちゃんとも会いたいです。あの子は覚えていないでしょうが。

 姉さんはティアさんやヨモンドさんとはあれから話はしていますか?最近友人が出来たばかりの私からのアドバイスですが、友人は大切にした方がいいですよ。姉さんは友人が増えすぎて1人1人を蔑ろにしているのでないかと思います。


 ああ、蔑ろといえば私のもう1人の友人も紹介しないとですね。


 パーティメンバー2人目はライト・パドリクスという第一貴族パドリクス家の次男です。

 こいつと出会ったのも入学試験の時でしたが、出会い方は最悪でした。いきなり喧嘩をふっかけてきて、嫌味な態度の小僧という印象でした。

 入学してからもそんな感じは変わりませんが、意外にも授業態度は真面目だし、面倒見もよくて、私が真面目に取り組んでいることをわかった時にはすぐに手を差し伸べてくれました。

 ライトが手を差し伸べてくれたのは剣の実習の時間です。ミラがいないと1人ぼっちの私は、クラス1と2合同の剣術教室の成績最下位なこともあって、1週間ほど孤立していました。クラス1のくせに最下位だからとか幼稚じみた理由での孤立ではなく、みんなそれぞれ上を見ているからこそ弱者に構う暇はないといった感じです。だからこそ悔しくて泣きそうになっていました。

 ただそれは最初からわかっていたことなので、入学前の3ヶ月と同様、ヤミア先生に言われたように剣術を磨いていました。するとある日成績1位のライトが話しかけてきてくれました。『どうせ僕は誰とも実力は合わない。それなら君のようなヤツでも変わらないさ』とかいう腹立つ言い方でしたが、あいつなりの優しさであったことはすぐにわかりました。

 それから私の実力はどんどんと伸びました。あいつは『ヤミア先生のおかげだよ。僕はただヤミア先生の授業内容に沿って君の剣を受けていただけ。僕に感謝されても困る』と言っていましたが、あいつの剣から学ぶことも沢山ありました。今ではあいつの他にも私と手合わせをしてくれる子がいます。稀にではありますが何人かには勝てるようにもなりました。


 そんなあいつの優しさと強さを知っていたので、パーティを組むとなった時に誘いました。ミラは最初嫌そうでしたが、さっきの話をすると喜んで誘おうと言ってくれました。ライトは『君達の誘いを受けるわけにはいかない。逆に僕のパーティに君達が入りたいと言うのなら歓迎するがね』と言って加わりました。なので名目上リーダーはあいつになっています。

 あいつは国立初学校の頃から1人ぼっちだったようで、関わる人間は私達の他にはいません。偉そうで傲慢で、ムカつくやつなので嫌われています。

 でも悪いやつではないので、私達と話をしているのを見て、少しずつですが他の人もライトに話しかけるようになりました。剣士達はずっとライトから教わりたいこともあったみたいです。


 仲良くなってくると可愛いやつで、基本的に私とミラにべったりしています。

 授業は必ず私の隣に来ますし、昼食と夕食も一緒に食べます。休日にミラと出かけていると偶然を装って合流してきたりします。

 私のことが好きなのかとも思いましたが、恋愛感情というよりペットが飼い主に懐く感じに似ています。本人は自分が飼い主のつもりでしょうが、私とミラは私達が飼い主だと思っています。番犬として十分役に立っています。


 まあこんな感じで上手くやっています。

 夏休みはライトに誘われて、フォンドタール領(ゴルドゾルガ要塞には行かないので心配なさらず)へ旅行に行くことになりました。パドリクス家の馬車でも往復20日かかるようなので、それで夏休みは終わりです。実家には帰れません。

 一緒に行くメンバーには『剣聖』レオニア・ヨン・パドリクス様、スノウ・カルモンテ先輩がいます。とんでもないメンバーに巻き込まれてしまいました。


 そういえば部活の話をしていませんでしたね。

 私とミラは『新聞部』に入りました。部で新聞を発行する部活動なのですが、私は携わっていません。

 ミラと部活見学をしている時にいきなり、ミラのお姉さんであるカレン・デイビス先輩に拉致されて、部室の椅子にくくりつけられました。その後入部届を書かされました。

 新聞部はカレン先輩が権力にものを言わせて作った部活動なので、部員はカレン先輩とスノウ先輩と私とミラしかいません。新聞はカレン先輩が勝手に1人で作っています。スノウ先輩の魔術具があるので1人でも十分だそうです。

 基本的にミラはカレン先輩のお喋りに付き合わされ続け、私はスノウ先輩に課題を手伝ってもらっています。


 スノウ先輩はとても優しい先輩で、課題を手伝ってくださる他に、お茶やお菓子を用意してくださったりもします。あまり口数の多い方ではないですが、私にはよく話しかけて下さいます。目の毒になるくらい美人な方なので、2人きりの時はいまだに緊張してしまいます。私的には姉さんの大好きなディファリナ様よりも、スノウ先輩のお顔の方が好きです。

 スノウ先輩は魔術に対する理解が深すぎて、私ではついていけないことがあります。頭がパンクしそうになって大変ですが、楽しそうに早口で語るスノウ先輩を見ているのは好きです。その後恥ずかしそうに(うつむ)くとこまで含めて素敵な方です。


 カレン先輩は姉さんを3倍うるさくした感じです。

 ずっと喋ってて鬱陶しいです。多分姉さんと波長が合うと思います。2年後をお楽しみに。



 随分と長くなりましたが今回の手紙はこれで終わりにしたいと思います。


 他にも色々報告があったような気もしますが、思い出せないので、思い出した時に何かにメモして次の手紙で書くようにします。


 母さんと父さん宛に改めて手紙を書くのは面倒くさいので、姉さんの方から伝えてください。この手紙をそのまま2人に読まれるのはなんか恥ずかしいので絶対にやめてくださいね。


 それではお体にお気をつけて。


                 ラファ・ハレア



―――――――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――――――

 天暦2545年7月20日


 半年も手紙を無視し続けた薄情な妹へ


 夏休みになっても手紙の返事がなかったらママと王都に乗り込むところでした。もう少し手紙をください。


 でもお手紙ありがとう。

 とりあえず幸せそうで良かったです。


 ただ手紙読んだせいで新たな心配もでてきました。



 ラファのお姉ちゃんは私だからね!?スノウ・ナニモンテとかいう子じゃないから!!


 ライトとかいうやつにも気をつけて!!

 番犬かと思ってたのに狼だったなんてことにならないようにね!!




 …さてさて、いろいろ言いたいことはあるんだけど、まず最初に言うべきは帰省のことでしょう。ママは約束と違うと怒り、パパは悲しみに明け暮れています。

 姉的には旅行優先でいいと思うんだけど、ママとパパの気持ちがわからんでもないから、年末は帰ってきてね。


 お姉ちゃんも夏休みは部活の旅行と、ヨアとサリアとの3人旅でほとんど家にはいません。ママとパパにはたまには2人でゆっくりもいいんじゃない?って言っといたよ。


 あ、あと手紙の件も怒ったり泣いたりしてたよ!

 短くていいから気が向いた時にはママにも手紙を出してあげてね〜。



 私の方の定期報告はまた部員が減りました。


 最初は10人いた後輩ちゃん達も残り2人。第二魔導についていくのは思ってたより大変みたいね。


 最近は残された2人がかわいくて仕方ないよ。

 2人とも男の子なんだけど弟ができた感じ!!妹ロスなのもあってついつい甘やかしちゃうね!!

 ラファも先輩には甘えまくるんだぞ〜!!


 それから最近再びティアと仲良くなったよ!!


 何がきっかけだったか忘れたけど、廊下で会ったら話す程度には復縁したって感じ。もともと喧嘩してたわけでもないしね。

 トゥリーは引っ張りだこだから、昔みたいに3人で遊ぶことはないけど、2年生になってからティアと2人で遊んだりしたこともあるんだよ!


 その時に会ったけどカチュアちゃん大きくなってた!!

 私のことはもちろん覚えてなかったけどね。


 てかラファがお洒落に目覚めてくれて嬉しい!!

 今度2人でお買い物にいこ!!


 あとはなんだろな〜。

 夏休み明けの遠足のメンバーが今年は良かったくらいかな。今年は2組との合同班で2泊3日の遠足なんだけど、なんとヨモンドとシャイナーだったんだよ。魔物の討伐が目的じゃなくて、森の中でのキャンプがメインだから戦力はそんなにいらないんだって。最悪の事態を想定して2組のメンバー2人のお守りに私が抜擢されたって感じ。


 あ、ラファはシャイナー知らないか!

 シャイナー・ミリキスっていう背が小さくてお洒落な子。学校で見たことはあるよね?

 昔は結構話したりしてたから懐かしいな〜って感じ!ヨモンドも懐かしいしね!


 そしてトゥリーはなんとティアとカユ。

 先生が知っててわざとなのか、2人とも昔トゥリーのことが好きだった子達なんだよね。2泊3日もして大丈夫なのか心配だよ。1番騒いでるのはもちろんリーシャだけど。


 それから武闘祭は今年も優勝するから安心してね!!

 次にラファの前で試合ができるのは私が天鱗学園に入学してからになるね。その時にも優勝できるように頑張るから!!


 頑張るといえば、私も最近トレーニング始めたよ!!


 体に魔力を流して一本一本筋繊維意識して、ベストな体型になれるように頑張ってるの。マッチョじゃなくて、かわいくて綺麗なスタイルの範囲でね。


 副産物としてめちゃめちゃ体の使い方が上手になったよ。まじでびっくりするくらい世界変わった。


 正直体術に関してはもう行き詰まりかなと思ってたんだけど、まだまだ先があるね。指一本動かすだけにしても、細かいことまで考えるとどんどんどんどん難しくなっていくよ。

 今なら剣術でもラファに遅れを取らないかもね!!



 とりあえず今回はこんなもんかな?


 次は9月末に送るから気が向いたら返事頂戴ね。


 これから暑くなるから体調に気をつけて。服装にも気をつけてね。あんまり露出多い格好したらダメだからね。パーティに男の子がいることを忘れないように。



 友達とか先輩にもよろしくお伝えください!!


 またね!!


         いつまでもあなたの自慢の姉より



―――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ