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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第八十七話 一目惚れなのである




 王都旅行最終日。


 いや、明日も夕方までは王都にいることを考慮すると、最終日1日前といったところである。


 王都に泊まるのは今日が最後。

 ゆっくり王都で過ごすのも最後なわけである。


 快適かつ洒落た生活からは離れ、またあの汗臭い田舎町に戻るのだ。2年後にはここに帰ってくるとはいえ、寂しいものはある。

 

 まあでも、王都の生活が物珍しい訳ではなかった。

 むしろ日本の生活に感覚が近かったので、そう言う意味ではガポル村よりもよっぽど馴染み深いものであった。


 まだ僕は中学1年生。

 向こうで死んだのは高校1年生。

 3年ほどではあるが日本で過ごした時間の方が長い。


 ただし日本にいた頃の3歳くらいまでの記憶ははっきりとしていない。

 であれば、実際のところ日本での生活時間はマイナス3年のようなもの。つまりこっちに来てからとほぼ変わりないのである。


 だが、生まれた最初の環境というのは特別なのだろう。


 日本人としての意識とトールマリス王国人としての意識だと、やっぱり前者の方が強い。

 いつまで経っても、一度日本に生まれたトールマリス王国人ではなく、転生してトールマリス王国にやってきた日本人なのである。


 親や性別にしてもそうだ。


 確かにパパやママも親だとは思っているが、心のどこかでは学校の先生や先輩に対する感情に近いものがある。

 父と母。つまり日本での両親が僕にとっての産みの親だという気持ちは、一生抜けることはないだろう。


 根っこのところで僕は、ハレア家の長女ではなく登張家の長男なのである。


 とはいえ、長く過ごしていれば環境には慣れる。


 純粋人以外の人種、見たことない動物、当たり前のことだが魔法。ファンタジー的な世界観は今やただの日常。日本に帰って、それらのない生活に戻ったところで違和感を覚えることはないだろうが、今の生活を特別に思うこともない。



 話を戻そう。

 王都の生活に物珍しさはなかったと言ったが、治安の悪さは王都において唯一の特質すべき点として挙げられるだろう。



 大前提として、この世界には魔物だの魔族だのがいる時点で、現代日本と比べれば比較にならないほどに治安が悪い。

 現在は戦争中じゃないので、犯罪や魔物の脅威だけで済んでいるが、これから魔族との戦争が始まろうものなら治安が悪いなんて言葉で済ますこともできないだろう。



 そんな前提を受けた上で、僕たちが泊まったのは学生街よりの商人街。


 王都全体がセレブな地域ではあるが、違法に住んでいる野盗やなんやかんやというのは少なからずいる。


 商人街にある無数の裏路地や、地下に造られた施設などは、騎士団でも完全には把握できておらず、表通りにすら明らかに怪しい店があったりもした。

 少なからずと言ったが、王都に住む無法者の数は、王国内でも多い部類に入るだろう。



 ということがあって、僕たちもこっちに住んでいる間、治安の悪さを実感することは多かったのである。


 商人のおっさんから、そっちの道は行かない方がいいと言われたり、宿屋の人から夜間は出歩かず、戸締りはしっかりしろと言われたり、そもそも宿屋に騎士が常駐していたり、なんやかんやとエトセトラ。


 ラファが受験をしている3日間、商人街をひたすら練り歩いていたが、一度も怪しげな道へは行っていない。

 観光マップに書いてあるような有名な店を回っているだけで、3日間なんてあっという間に過ぎたのである。


 ラファの試験は3日間全て午前中だけで終わったので、午前中にラファの興味がなさそうな、花屋やお洋服屋などをめぐり、ラファが合流してからは本屋や武器屋などをめぐった。


 購入したお土産は数え切れない。

 ほとんどが自分用だが、部活の連中とクラスメイトくらいにはお土産を買ったのである。


 個人宛にお土産を用意したのはボスとヨアとサリアとトゥリーだけ。

 めちゃくちゃ悩んだのだが、エディーとかリーシャとか言い始めると『先輩方は?』とか『そうなると部活の子は全員では?』とか、もう線引きができなくなってしまうので、本当に仲の良いサリアとトゥリー、それから義妹のヨアと仕方なくその兄のボスに留めることにした。



 さてはてはてさて。

 スケジュールの都合で商人街から出られなかった日々は終わり、今日は中央へと赴く。

 午前中には中央教会、午後には王城に行くのだが、残念ながら教皇様や国王陛下に会えるようなことはない。どちらも観光用のスペースまでしか入れないのである。


 天気は驚くほどの快晴。

 ガポル村ほどではないが、雲ひとつない青空がよく見え、お洒落な街並みは今までになく映えて見る。

 商人街は石畳の道、黒い街灯、レンガ造りの建物と、非常に落ち着いた色で統一されている。灰色の空では地味すぎるのである。


 カンカンカンと、耳障りにならない程度の大きな音を鳴らして、真っ赤な路面電車が停車する。


 そういえば、路面電車に派手な色が多いのは景観に映えるからなのだろうか。それとも事故防止のためとかだったりするのだろうか。

 まあなんでもいいのだが、今日は赤と青のコントラストが非常に『映え』なのである。


「大人3人」


「はいよ」


 4日目ともなれば路面電車にも慣れたもので、宿から貰った乗車券を運転手に見せ、颯爽とステップをのぼる。


 後ろに続くママももう驚いたりはしない。

 初日こそ大きく口を開け驚いていたものだが、今その口は右手で塞がれ、大きくあくびをしている。


 ラファも王都人らしく紅茶と新聞を持ち、僕とママの間に座る。

 平日の9時であれば朝の早いトールマリス王国人達は通勤を終え、路面電車もガラガラなのである。



 ぶっちゃけ路面電車での移動は速くない。


 時速換算で概ね25キロやそこら。

 こっちの世界の馬車が魔術で強化されていることを差し引いたとしても、馬車より遅いのはどうなのかといったところだ。


 まあでも路面電車の良いところは速さではない。

 人件費や馬にかかるメンテナンス費、事故リスクや交通整備の観点から、最も良い交通手段とされているのである。


 そもそも速さを重視するなら走るのが1番速い。

 自分で言い出しといてなんだが、速さの話をするのは無粋なのである。



 なによりこの『観光感』が良い。


 路面電車と言われてイメージするようなレトロ感はないが、車窓から覗く景色や吹き抜ける風、乗り物のくせに大して暖かくないところが小洒落た気分になるのである。


 乗降する人がいなければ停車することはない。

 スムーズに商人街から中央へと向かって走る。


 車窓から覗く景色はそれほど大きな変化は見せないが、たまに大きな建物があったりする。


 商人街で1番大きな建物といえばハンター協会の本部である。レンガ造りの建物の中、やけに大きな魔樹製の建物が見えればそれがハンター協会本部である。

 初日の午後にちらりと覗きに行ったが、あくまでも教会の本部であって、ハンター達の集い場ではない。ただのオフィスビルみたいな感じで全く面白くなかったのである。


 その他にある大きな建物も大体はそういうオフィスビル的なやつである。

 やれ『〇〇商会本部』だの、『××商人組合』だの。面白かったのはハンター達が集まる『大酒場』くらいだったのである。まあそれもママがビビって入店しなかったのだが。



 つまり見慣れてしまうとつまらない景色である。


 目的地までは少し時間があるし、一昨日買ったばかりのマフラーに顔を埋めて少し眠るのである。





――――





「おおー。やっと『観光地』って感じだね」


「そうねー。やっと『観光地』って感じね」



 最寄りの駅に着くとすぐに中央教会が目に入る。


 建築素材は恐らく天鱗学園と同じものだと思うのだが、蔦が絡まっているうえに、ヒビがあったり苔があったりと、天輪学園のような神々しさはない。


 黒い金属製の大きな柵の中には、そういった風貌の大きなまっ四角の建築がいくつか並び、彷彿とさせるイメージは監獄に近いのである。


 だが、そこには商人街にはなかった唯一無二の独特さがある。


 中央教会が最新建築にリニューアルされないのは、神が建てたとされる教会に人間が手を加えるのは烏滸がましいから、みたいな派閥がいるせいだとかで、そういったバックボーンを知ると、この薄汚い監獄も神々しく見えてくるものである。


 大して信心深くもない僕とママが適当に感動を受けながら柵の中に入ると、ラファが僕の右肩をぽんぽんと叩いてきたので首を回す。


「どしたの?」


「…なんで逆側向くの」


「いや、ほっぺムニってするイタズラかと思って」


「そんなのやるの姉さんくらいだから。ちょっとこっち見て」


 ラファの方に顔を向けると、正面玄関から外れた奥の方の建物の前で、明らかに怪しい集団が教会の人と話をしている。


 フード付きの白マントで全身を隠した8名の大人と、同じく全身を隠した子供が数名。大人達は子供達を守るように配置されている。

 大人達のマントの下からは鎧がのぞいていることから、彼らは護衛か何かなのだろう。となるとそれらに守られている子供達は特別な何かなのだろう。何なのかはさっぱりわからないが。

 あの怪しい見た目からして、貴族の護衛ではないだろう。何かしらかの宗教的なやつである。


「ラファ気がついた?」


「?私が気がついたから姉さんを呼んだんだけど」


「そうじゃなくてあの子供達。1人だけ扱いが違う子がいるよ」


 指を刺すのは失礼なので視線だけを子供達に向ける。


 一見して平等な扱いを受ける5人の子供達。

 だがその中に1人だけ周りの騎士たちの注意を引いている子がいる。というより、その子しか護衛対象ではないかのように見える。

 もしも平等な立場の子供達なら、8人もいる騎士が全員1人だけに目を向け続けるのは異常だ。

 つまり、残す4人は誰が護衛対象かを隠すための囮なのだろう。


「わかった?」


 ラファはじっと見つめていたが、あまり長く見つめているのも失礼なので、この辺りでやめさせる。


「……駄目。私にはわからない」


「正解はね、周りの騎士達がなぜか右奥の子だけしか守る気ないの。8人も護衛をつけて、さらに4人も囮をつけるなんて、守られてるのはどんな子なんだと――」



 会話を続けようとする喉元に違和感。


 いきなり首に剣を当てられたのだ。



 剣を当てているのは当然白マントの1人。

 僕としたことが、気がつかれていることに気がつかなかった。


「貴様、なんのつもりだ?」


「何って妹にクイズを出していただけですけど」


「大声で姫様を当てるのがクイズだと?」


「大声なんて出してません。騎士様が地獄耳なだけです」


「ふざけるな。もし貴様の発言が誰かに聞かれ、姫様の身に万が一の事があった場合はどうしたつもりだ」


「ふざけないでください。お姫様がどの子かを当てられたのも騎士様達の責任。バレて殺されたとしても騎士様達の責任。小娘1人にバレるような護衛をしているあなた達が悪いんですよ」


「ちょっと姉さん!!」


「何のことだか分かりませんが、今すぐその子から剣を離して下さい!!」


 よくわからん白マントからの八つ当たりがきて、急に大騒ぎである。

 周りにいた少ない観光客達も、全員足を止めて僕たちを見ている。マントなんて被って顔を隠してた割に大胆な行動。お忍びのつもりじゃなかったのだろうか。



 …まあでも流石に声に出してお姫様を当てたのは悪かったかもしれない。


 白マントは、見たことないほど怖い顔をしたママに顔を向けると、その剣を鞘にしまった。僕たちのことをテロリストか何かだと思っていることはなさそうだ。


「…貴様の言うことも一理ある。(わたし)達が未熟だったのは事実だろう。だがそれはそれとして、声に出して秘密を暴いた貴様の罪は消えない」


「八つ当たりはやめてください。大体お姫様だってことも知らないんですからしょうがないじゃないですか。最初から『(わたし)こそがお姫様っ!!』って格好してる子が5人いたならこっちだって声に出して秘密を暴いたりしませんよ。白マント被ってる方が悪いんです。私は悪くありません」


「姫様が『(わたくし)こそがお姫様っ!!』って格好をして出歩くことがあるかたわけ!!!!」


「じゃあこっちだって無実ですよ無実。お姫様だってわからないんですから。怪しい白マントの変態集団で1人だけ女の子だからみんなが注目してるのかなくらいに思ってたんですから」


 狂信者の集まり。

 オタサーみたいなもんだった可能性だってあった。



「貴様不敬罪で殺されたいか!!」



 流石にヤバい発言をしたせいで白マントが再び剣を抜こうとする。



「おやめなさい!!」



 そしてそれを、こっちに駆け寄って来たチビ白マントが止める。


「はっ。勝手な行動、大変申し訳御座いません!」


「いえ、(わたくし)を想っての行動だとはわかっています。いつもありがとうハートバルド」


「勿体なきお言葉。しかし姫様、王城の外で名前を呼んではいけません」


「あ、そうでしたわね」


「それから、(わたし)どもの不手際でバレたとはいえ、ご自分から正体を明かすようなこともお辞めください」


「そ、そうですわね…」


 出て来た時は王族らしく凛々しかったチビ白マントは、ものの数秒でチビチビ白マントになってしまった。


 それにしてもこのチビチビ白マントはめちゃくちゃいい匂いだし、めちゃくちゃかわいい声をしている。ホームセンターで厳選した柔軟剤で洗ったタオルみたいな香りに、僕に似ているけどもうちょっとだけ穏やかな声。

 流石はドルモンド様のような貴族を従える王族、視覚情報はほとんどなしでこのかわいさである。


「ハートバルド様っていつもこう、なんか小うるさいんですか?」


「名前を呼ぶな名前を!!それから姫様に気安くお声をかけるとはどういうつもりだ!?やっぱり死にたいのか!?」


「ふふ、そうですわね。ハートバルドはいつも小うるさいんですの」


「!?ひ、姫様そんな風に(わたし)のことを思ってらっしゃったんですね…」


「あ!違うのハートバルド!大丈夫、(わたくし)小うるさいあなたの事好きよ?」


「姫様ぁ…」


 どうにも拗らせてそうなハートバルドの顔が向こうに向いたところで、姫様のご尊顔を覗こうとする――



「動くな」


 

 ――が、失敗に終わる。


 そりゃそうだ。騎士様はハートバルドだけじゃない。あと7人いるのである。

 8人の中で1番大きな白マントが僕の真後ろに立ち、剣に手をかける。その様子をハートバルドがやけに険しい表情で見ている。もしかしたらこいつはヤバいやつなのかもしれない。


 念の為僕も戦う気持ちくらいは作っとくのである。


 王族に会うのは初めてだし、何のルールも知らないのでよくわらかないが、もしかしたら普通に僕の首が飛ばされかねない。それは嫌なので流石の僕も抵抗するのである。



「やめなさい」



 気持ちは作ったが戦う必要はなさそうである。


 どうやらチビ白マントは僕の味方のようだ。

 流石は姫様。話がわかる人なのである。


「今からそちらの方に対して敵意を向けることを禁止します。これは命令です」


「お言葉ですが姫様。この女は危険です。異常な観察眼、落ち着き、佇まい、ただの観光客ではないことは明らかです」


 何を言っているんだこのデカ白マントは。

 僕は正真正銘、れっきとした観光客である。観光客以外の何者でもない。

 僕の観察眼と比べてこの木偶の坊の目玉は腐っているようなのである。


 顔は見えないが、呆れたように木偶の坊を見るチビ白マントとハートバルド。いつのまにかハートバルドも僕の味方のようだ。



「聞こえませんでした?(わたくし)は命令と言ったのです」


「…ですが」


「ハートバルド」


「はっ」



 僕すらも見えないほどの一瞬。



 真後ろにいたデカ白マントはハートバルドに拘束されていた。



「王族命令に対する違反。その意味は理解できますわね?」


「お、お待ちを!(わたし)はあなたのために!あなたのためを思って!」


「ハートバルド、(わたくし)から離れることを許します。それを連行しなさい」


「はっ」


 瞬く間にハートバルドと木偶の坊の姿が消える。


 ハートバルドがいた位置には他の白マントが立っていた。こちらの動きははっきりと目で追えたが、それでもかなりの達人だ。


「こんなに凄腕の騎士様達なのにどうしてあんなバレバレな護衛を?」


「ば、バレバレだったのですね…」


「ええ。バレバレでした。ついでに言えば姫様も姫様らしすぎました」


「な、なんと…(わたくし)もバレバレだったのですね…」


「ええ。バレバレでした」


 さっきまでの威厳は再び消え去り、愛すべきチビチビ白マントが帰ってきた。


 張り詰めた空気で凍っていたママとラファが呼吸を取り戻す。

 チビチビ白マントとて王族。その能力を侮ってはいけないのである。


「お、おほん。さて、御三方。この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。このご無礼は…えと―、その―……あ!父上に言って頂けましたら何でもしてくれると思いますわ!!」


「いえいえ、私にも落ち度はありますしここはお互いに何もなかったということでお願いします」


「!それがいいですわね!そうしましょう!それなら(わたくし)もお母様に怒られませんし!」


「あ、最後にご尊顔を拝見させて頂きたいのですが、ダメですか?なにぶん王族の方を見かけるのは初めての田舎者でして、それに姫様の何もかもが可愛すぎてお顔を見られずにお別れすることが耐えられないのです…」


「?山ほど肖像画が出回っていますわよ?」


「姫様、その者は姫様のお名前を知りません」


 いつのまにかハートバルドが帰って来ていた。

 こいつはこの優秀な7人の中でもずば抜けている。ギャグ漫画みたいなやり取りばっかしていたが、その実力は化け物レベル。それなりに化け物と出会って来た僕だが、そのどれよりも強そうである。


「えーと、名前を明かすのと顔を明かすの、ハートバルドはどちらの方がよいと思いますか?」


「どちらも明かさないという選択肢のみが正解です」


「もうっ!意地悪しないで!」


「ではどちらでも同じ話ですのでお好きなように」


「…もしかして怒っていますか?」


「いえ。どうせ(わたし)は小うるさいですから」


「ねえ、ごめんなさいってば!」


 さっき姫様の恐ろしい姿を見たばかりだというのに、ハートバルドだけは姫様のことをチビチビ白マントとして見ている。他の6人はずっと、思えばラファに教えられて集団を見た時からずっと、姫様の一挙手一投足に怯えている様子がある。


 そうか、ハートバルドは大好きな姫様を見つめていたからバレバレで、他の7人は姫様に怯えていたからバレバレだったのか。



 痴話喧嘩?を終えたチビチビ白マントがフードに手をかけこちらを向く。思っていたよりすらっとした美しい手から考えると、年齢は僕とそう変わらないかもしれない。


「お、おほん。良いでしょう。(わたくし)のご尊顔をどうぞご覧になってくださいませ」



 姫様が自信満々にフードを脱ぐ。



 現れるのは眩く光る淡いプラチナブロンド。

 細やかな髪は風に靡くと、陽の光に隠されてしまう。そして案の定髪からは甘い香りがふわりと漂う。


 自分の顔に絶対的な自信があるのだろう。

 ドヤ顔という他ない表情を浮かべるそのご尊顔は、お人形のように美しい。サイズで言えばハートバルドの握り拳ほどに見えるが、この世の可愛いがそこには詰まっている。

 タレ目のようで目尻だけ上がった大きな猫目、大きな笑みを浮かべている小ぶりで形のいい唇、彫りは浅いのに綺麗なEライン。真っ白な肌にほんのり桃色の頬と鮮やかな唇。唇の端なんかから頬の柔らかさが伝わってくるのである。


 そりゃ肖像画が嫌というほど出回るわけだ。

 本人自体が絵に描いたような美少女。


 美人ではなく美少女。ロリコンホイホイみたいなドール顔のプリンセス。


 そしてやっぱり特徴的なのはその瞳。


 僕より少し暗い銀色は、光の加減によってはブルーにもグリーンにも見える。


 苔むした教会、固めただけの土の道、頭上の青空、全てがどうでもよくなる。


 このお方の前では全てがどうでもいい。



 まるで目が離せないのである。



 周囲にいた数人の野次馬からも思わず歓声が上がる。

 言葉にならない声。腹の底から漏れ出てしまった感動。



 そして、その耳は全て姫様に傾けられる。


 その目は姫様の唇に吸い寄せられる。


 全身で、姫様の言葉を待つ。




「ーー私こそが王位継承権第四位、第六王女ディファリナ・トールマリスです。ふふん」





 僕は生まれて初めて







 恋をした。





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