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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第一章 僕爆誕
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第七話 あけおめことよろなのである



 僕は昔から正月というものが好きではない。



 というのも別に年が変わったところでなんてことはないからである。


 正月というのは社会全体の区切りであり、個人にとってはそれほど重要なものではない。

 個人の区切りであれば、生まれてから1年ごとにある誕生日の方がいい区切りだし、日本では結局「年度」という区切り方の方が社会全体としても大きいものであった。



 要するに正月というのは、実務的にも感覚的にもそれほど重要な区切りではないのだ。



 お年玉をもらえるからなんだという話だ。

 現金をもらうことは芸がない気がして好きではない。クリスマスのようにプレゼントを貰える方が心に残る。



 結局、正月なんていう日は酒を飲みたい大人の言い訳であり、子供達はお年玉という露骨な餌でその事実を誤魔化されているのだ。



 神道ならー…とか、仏教ならー…とか立派な理由があれば別におかしなところもないのだが、大した宗教観も何もない連中が「初詣!」とかいって何をやってんだか、って感じだ。




 …あとはまあ、なんだ。

 別にこれは大したことではないし、僕が正月を好きじゃない理由とはそんなに関係ないことなのだが、おせちが嫌いだ。




――――――――――――――――――――――――――




「「かんぱーーい!! がは! がはははは!」」


「…はぁ…2人ともほどほどにね…」


「まあまあ、別にいいじゃない。 新年なんだしさ」


「うーん…とは言っても、子供たちも見てるし…」



 仕事から帰ってきたパパとセドルドさんは酒を飲んで暴れていた。


 正月とは言っても職業上、午前中は仕事だったのである。お疲れ様ですといえばお疲れ様ですなのだが、赤ん坊2人の前で酒を飲んで暴れるのはどうなのかとは思う。



 …まあ、別に正月くらい羽を伸ばさせてあげよう。



 正月という日はいいものだ。

 1年間働いていた人々にとっての一区切りであり、今年も1年がんばろーっと意気込む日でもある。

 そんな日くらいお酒を飲んでパーっとやったって誰も責めやしない。


「はい、アーニャ」


「あい」


「アーニャちゃん、これも食べる?」


「たべる」



 子供たちにとっても一区切りである。


 仕事をしているわけではないが、生きていれば子供も、それなりには疲れるのである。

 普段は甘いものや塩っ辛いものを食べさせて貰えない赤ん坊も、労いの意味を込めて少しくらい食べさせて貰えるのだ。



「アーニャにアイスはまだ早いかしら?」


「うーん…どうかしらね? まあでも正月くらい…」


「たべる!」




 正月というのは社会にとって重要な区切りなのだ。



 できる人間たるもの、1年の区切りこそ大切にしないといけない。




――――――――――――――――――――――――――




「ハッピーバースデートリシア!」


「ままおめでと」


「2人ともありがとー!」



 正月を終えて日常が戻るかと思えばそうでもない。



 1月2日はママの誕生日であり、セドルドさん一家は呼ばずに3人で出かけていた。


 呼ばなかった理由はトゥリーを外食に連れて行くことが心配だったからだ。やつはまだすぐに泣くので他のお客さんの迷惑になる可能性が高い。


 僕は生まれて初めての外食である。それどころか、お店に行くのも初めてである。

 うちの家ではいつも、パパが生活用品を買ってきてくれていたのだ。



 僕らの暮らす『ガポル村』は、トールマリス王国北西部『パークス領』の最北部に位置する小さな村である。


 ガポル村は人里と、魔物の住む森との境目に位置しているためほとんどの住人は衛兵の家族であり、村とはいうものの、民家と砦以外には住民の気晴らし用の公園(6ヶ月のピクニックで行ったところ)くらいしかない。



 なので買い物に行くとなると、隣接する『ナスフォ街』に行くこととなる。


 今日僕らが来ているお店は『ドシンミートハウス』というナスフォ街の中でも一番の高級店らしい。

 実はうちはお金持ちなのだ。父の立場を考えればそれほど驚くことでもなかった。


 しかし残念ながら僕はステーキを食べたりなんてことはできないし、雰囲気を楽しむだけだなのである。



「あー…っと、その、なんというかだな、…あー照れるな…」


「うん?どうしたの?」


「こ、これ。 誕生日プレゼント。 お、おれこういうのよくわからないから、趣味じゃなかったらごめん!」


「えへへ、ありがと! 毎年言ってるけど、どんなものでも私は嬉しいわよー」



 そういってパパが渡したのはエプロンだった。

 直で渡すのはどうなんだ?



「か、勘違いしないでくれ、それただのエプロンじゃないんだ! なんか今流行りのブランドらしくてさ! guwopard蜘蛛の糸を編んで作ったもので、頑丈だし、汚れがすぐ取れるとかで、その、とにかく人気のやつらしいんだ! デザインとかはよくわからないけど…トリシアにはオレンジが似合うかな…って…ど、どうかな?」


「うん!とっても可愛いしすっごく気に入ったわ! ありがとね、ロンド! えへへ、明日からこれ使わせて貰うわね!」


「そ、そうか、へへっ!」



 僕はママにはピンクが似合うと思うんだけどなー。

 別にオレンジも似合うけど、てか何着てもかわいいけど。




 

 …結局ママとパパがイチャイチャしっぱなしの日だった。


 外食って言っても僕はそれほど嬉しくないし、僕はママにプレゼントあげられないし、2人とも若干僕を忘れてる節があるし、なんだかなー。




 …なーんだかなー。おもしろくないのだー。あー。




 あーあ。正月はいい日だったなー。


ドシンミートハウスは文字通り肉料理が中心の店です。ナスフォ街自体が田舎ですので貴族御用達といったような店ではなく、メインの客層は金持ちの商人です。

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