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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
プロローグ
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プロローグ1



 …まぁ正直に言ってしまえば自棄になっていたのだと思う。




――――――――――――――――――――――――――




 僕は完璧だった。



 より正確に言うのであれば、僕は自分に対して完璧であることを求めていた。完璧であろうと努力をしていた。



 『完璧』という言葉はもともと傷一つない宝物という意味であり、当たり前の話だが欠点があった時点で完璧とは言えないのだ。



 しかし人間にとってどこからが『完璧』ではなくなってしまう『傷』なのかというのは難しい問題で、その人その人の価値観によるだろう。僕の価値観では多少性格が悪いとか目が悪いとか、生まれたのがどっかの大企業の社長の家じゃないとかそういった要素は『傷』ではなく個性に分類される。




――――――――――――――――――――――――――




 僕はどんなスポーツをしても上手かったが、どの競技をしても世界一位になれたかと聞かれれば答えはNOである。

 中学の同じクラスにいた100m走全国一位の友人にも一度も勝てたことがない。



 僕は学力も優れていたが、それも世界一かと聞かれれば答えはNOである。

 全国統一模試でほぼ毎回一位とかそう言った程度のレベルである。



 僕の容姿は優れていたが、世界中の女性が振り向くほどのイケメンかと聞かれれば答えはNOである。

 僕の容姿は並外れて優れていたが中性的(むしろかなり女性より)で、佇まい、服装、髪型に気を使わなければすぐに女の子に間違われる。



 だがこれらは当然『傷』ではない。むしろ僕という宝を光らせていた要素だ。



 体育の時間では女子生徒から黄色い歓声を浴び、テスト期間には男女問わず僕のもとに沢山の友人達が勉強を教えてもらいにくる。圧倒的能力とオーラ、それから試行錯誤した髪型のおかげで告白してくる女の子は後をたたなかった。



 他の要素だって光っていた。


 趣味でさわっていたピアノもバイオリンもなかなかのものだったし、これだけの才能を持っていながら誰からも僻まれたり嫌われたりしないカリスマもあった。



 そう。僕は完璧を求め、それを手に入れていた。



 では何が僕の『傷』になったのだろうか。



 僕はもともと勉強と容姿を除く要素はどこが欠けても傷にはならないと思っていた。例え音痴でも運動音痴でもそれを愛嬌として片付けられる魅力が僕にはあった。



 …なんで勉強と容姿を除くのかと聞かれても別に大した説明はない。それが僕の価値観なのだ。


 勉強はできないとだめだ。

 僕の持つ価値観では頭が悪いということは人間にとってはマイナスの要素でしかない。僕が幼い頃から様々な参考書を読んでいるのは趣味という理由だけではなく、この譲ることのできない価値観からくる義務感なのだ。


 容姿は良くないとだめだ。

 これは誰の価値観でもそうだろう。どんなに綺麗事を言う奴がいても、不細工とイケメンどちらが完璧かと聞かれればイケメンに決まってる。そもそも聞くまでもなく不細工を完璧という奴なんていない。




 そんな僕は完璧ではなくなってしまった。いや完璧にはなれなかった。




――――――――――――――――――――――――――




 僕の『傷』を説明することは難しくない。簡単な話だしこれまでの僕の話を聞いてもらえればなんとなく予想ができることだ。



 …僕は背が伸びなかったのだ。



 懸念はずっとあった。中性的なのは顔だけじゃなくて骨格からなにから全てなのだ。


 男とは思えないほど華奢な体格、不健康に見えるほど白い肌、いつまで経っても出てこない喉仏に、極め付きはちっちゃな手足。


 背が伸びないだろうと予想させる要素なんていくらでもあったが、父も母も背が高かったので伸びる要素だってあった。



 中学2年生までは希望を抱いていた。

 まだ背が伸びる時期ではないだけだと。1年で1cmも伸びなかったが問題はないと。


 でも中学3年生で諦めた。

 僕の身長は(測り方のせいもあると思いたいが)何故か1cm縮んで158cmだったのだ。



 僕の身長は、容姿は、いや僕と言う人間はそこで完全に崩れた。完璧なんかではなくなった。チビはイケメンになれない。チビはマイナスなのだ。チビは『傷』なのだ。



 僕の心は傷がついたなんてレベルではなく、完全に砕けてしまった。身体測定のあと周りに気にされないように立ち振る舞うたびに心が壊れていった。


 イケメンとして振る舞うことを高校に入ったらやめようと決意をした。わざと髪型を露骨に7:3に分け、丸眼鏡をかけ、白衣でも着て博士キャラになろうと思った。

 博士キャラが実は運動もできるなんてのも面白いかな、とかなんとか気を持ち直そうと頑張ったのである。



 でも結局僕の心は壊れたままだった。周りに対してなんでもないかのように振る舞う度に大事なものが崩れていくことがわかった。



 …だから僕は自棄になっていたのだと思う。

 きっと彼女たちは僕という完璧ではなくなった人間をこれ以上腐らせる前に、せめて最後は僕らしく華々しく飾るために、ちょうどいい言い訳だったのだと思う。

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