魔力を流してみました。
次の日。バッハさんとの訓練を終えた後、加工屋へと向かっていた。
「さぁ、この先からは神殿の外、街だよ」
バッハさんが案内してくれる。
「これが…街…」
現実のものとは思えないほど、元いた世界と違った光景だった。建物はレンガづくりのものがほとんどで、店も家の前に物を並べて売っている。
「すっげぇ!!あ!あっちでいい匂いがする!」
俺、年甲斐もなくはしゃいでます!
「落ち着け。お前は一応でも勇者だろう」
そう言うのは案内人の一人、ガランさんだ。
「二日ほどしか経っていないが、最初に会った時とはまた顔つきが違っているな。なにか、自分を変えられたようだ」
「ガランさん。なんと、カジは人の名前を呼べるようになったらしいですよ」
「なにを言っているんだ、バッハ。人の名前くらい普通に呼べるだろう。それとも何だ、人の名前も覚えられない馬鹿なのか、そこの勇者は」
バッハさん、伝わらないと理解した上でその言い方したでしょ。
「あはは、ちょっと人の名前呼んで嫌な経験した事がありまして...」
俺にとっては結構キツかった。軽度のトラウマである。
「まぁ、私は深く聞くつもりはないさ。さっさと行くぞ」
ありがとうガランさん。
ガランさんとバッハさんの二人に街を案内させて貰ってから三十分ほど経って、加工屋の前へと着いた。
「ここだ。着いたぞ」
「なかなかに有名どころだぞ、カジ。やったな!」
「そうなんですか?鍛冶屋ブラストファイア...イタい名前だなぁ...」
後半はボソッと言った。
じゃなくて。中に入ろう。ガチャっと扉を開けて、中に入った。
「ごめんくださーい!」
この建物はけっこうデカい。神殿みたいにアホみたいに広いわけではないが、スーパーくらいの広さがある。中では、加工したり打ったりという作業がされている。
「お、ガラン。そいつが加工して欲しいもんがあるっていうガキンチョかい?」
「お前、いい加減目上の者に対して敬語を使ったらどうだ?」
「おうおう、いいじやねぇか。アタシの作った武器なけりゃ今頃アンタ死んでるぜ?」
ギャハハと笑っているこの女の人が加工してくれる人だろうか。
「紹介する。こちら、今回加工をしてくれるアリタニアだ」
「どもー!面白い素材持ってんだって?早く出しな?最高の出来に仕上げてやんよー!こっちこっち!」
凄い勢いだ。肩を掴まれ、奥に連れてかれた。
「ここ、アタシの加工場ね。専用の。キミ、名前は?」
「梶彰です!」
「元気があってよろしい!アキラ君な、覚えとくぜ」
勢いに呑まれている気がする。
「珍しい素材っての見せてくれよ。加工すんのはそいつだろ?」
「あ、はい。これに入ってます」
背中に背負っていたケースを降ろす。
「これに入ってる、ね。この箱の素材自体がかなり珍しいと思うんだけど。」
「そうなんですか?」
この世界には来たばかりだから、どんなものが普通かは分からない。が、このケースがこの世界に違和感があるかどうかくらい分かる。このケースは目立つこともない、普通の木の箱だ。
「マジックアイテムだね。目立たない効果付きの。金具がついてて、開くと...なるほど。」
アリタニアさんはそういって手で金属を掴む。
「魔法金属だね。アキラクンの転移時に発生したんだろ?魔力流せばなんか起きるじゃない?ちなみにこういうやつは本人の魔力じゃなきゃ意味が無い事が多いね…今流してるけど何も起こんないよ」
ぽいっと丸い金属を一つ投げられた。
「魔力ってどう流すんですか?」
「…おい、ガランとそこのバッ...カ野郎。なんで魔力の込め方も教えてねーんだよ」
「名前思い出せないからってそれは酷いですよ」
「物事には順番がある。最初は勇者達は自分の身を守ることもできない。そこからだ。」
なんでそんな人達を召喚するんだろう。戦える人を呼べばいいのに。
「魔力を物に流すって普通の事なんですか?」
もちろん俺はないぜ。
「アタシは職業柄しょっちゅう流してるよ。それでマジックウエポンができたりするからね」
「僕たちはそのマジックウエポンに魔力を流したりするからね。それなりには」
「他にも生活用品にも使う。灯りや暖房器具にな」
結構重要なことっぽいな。色んな事に使ってる。
「まぁ、そんな難しい事じゃないからさ、ホラホラやってみよー!」
魔力の流れをイメージすればいいらしい。簡単だ。
「おぉー、こいつは面白い!」
「魔法金属...こんなに性質が変わるのは初めて見た...」
「しかし、なんだこれは...奇妙な形だな」
別にこれを意識して作ったわけではないが。これは…
「スナイパーライフルだ」