アラジール
謎の金属はケースいっぱいに入っていた。
「絶対に金属なんだけど...なんだこれ、軽すぎじゃないか?加工して武器でも作れってか。」
そう言うと、アリスさんが答える。
「そういう、魔法金属かもしれませんね。もしかして魔剣になるかもしれませんね。」
「魔剣...絶対Sランクに使わせた方がいいものだろうな。俺は後ろからのサポートに特化しているのか?」
後ろといってもスナイパーとかじゃない。武器製作とか、準備段階での話。戦闘では役立たずなのではないだろうか。
「では、加工してくれる所を探しておきますね。ありがとうございました。あとは部屋でお休み下さい。急な事で疲れているでしょうから」
というわけで今。もう寝ようか...明日以降いいことあるといいんだが。
「...ん、朝か。何時だ?」
日の光で目を覚ます。
「あ、ここ家じゃない...」
なんだったっけ?と思いながら身体を起こす。そして少しずつ思い出す。二日目である。そりゃ慣れてないから仕方ないだろう?と自分に言いながら目をこする。
「ん...なんか目痒いな...」
ゴミでも入ったか。すると、ノックの音がした。
「失礼します。朝ですので...おや、お早いですね。」
「いや、誰?」
。
「失礼しました。私、勇者様のお世話をさせていただく者の一人のアラジールです。」
粗汁...?
「着替えをお持ちしました。それと、身嗜みを整えるお手伝いに。」
「あ、ありがとうございます...」
50歳くらいの白髪の混じった男の人。執事っぽい人が来た。
「ぜひ名前でお呼び下さい」
「え?」
会って30分くらいだろうか。洗面所とかの案内をされていると、急に言われた。
そういえば、何度か話しているがすいませんかあの…としか言ってない。そこに気づいたのか?
「あー、いやその、申し訳ないんですけど、人の名前を呼ぶのはちょっと苦い経験がありまして、その...はい、怖いんです。」
「勇者は強くあるべきです。まぁこちらが了承も得ずにあなた方をお呼びしたのですが。名前も呼べないのでは人生、楽しめませんよ?」
アラジールさんは50歳に入ったくらいだろうか。雰囲気漂うおじいさんである。
「えーっと、じゃあ...少しずつで。よろしく。あと、ありがとうアラジールさん。」
「いえ、問題ありません。」
思わぬところで軽減された苦い思い出の産物。
これからは積極的に人を名前で呼べるようにしよう。
粗汁ではない。