カサンドラ法
2040年 4月 新しい法案が可決された。『カサンドラ症候群法』 これは、2020年を過ぎた頃から急激に増えたと言われる【カサンドラ症候群】の女性達を守るための法律である。いや、実際には増えた訳ではなかった。それまでは決して認識される事の無かった【カサンドラ症候群】が一般的に知られる様になり、それに悩まされていた女性達があちこちで悲鳴をあげたのだった。それが社会問題になり、日本初の女性総理大臣の元、政府全体が真剣に対処した結果であった。
※【カサンドラ症候群】とは、『パートナーや家族がアスペルガー症候群であるために情緒的な相互関係を築くことが難しく、不安や抑うつといった症状が出る状態』の事を言う。全てが[アスペルガー症候群]に起因し、本人には何ら責任が無いのが特徴的と言える。
※[アスペルガー症候群]とは、自閉症にみられる特徴(社会性発達の質的障害、コミュニケーションの質的障害、興味や活動の偏り)を共通の類似点として持っている。自閉症では知的障害や言語発達に遅れを伴うことがあるが、アスペルガー症候群ではそれらは当て嵌まらない。
2010年以前でも上記の2症候群に属する人達は存在していた。そしてそれは、その当事者達が其々に対処する事で機能してきた筈であった。ところが、2037年に起きたある事件により、社会全体の問題となっていったのである。
2037年の7月、稀に見る異常気象が続いた。連日38度を超える狂った様な日々であった。そんなある日曜日に事件は起きた。そこは下町の商店街、いつもの週末らしく、通りは多くの人々で賑わっていた。丁度お昼時で、一組の中年カップルが連れ立って蕎麦屋に入ろうとしたその時だった。店の入り口でその女性が、いきなり連れの男性に切りかかったのである。首を切られ男性はそのままそこに倒れた。すると女性はその体に馬乗りになり、執拗に胸を何度も何度も差し続けた。血まみれになりながら、男性がこと切れた後もそれは続いた。まるで地獄絵図である。その日の夕刊によると、2人は夫婦であり、近所の人達の話によると、普通に仲の良い夫婦に見えたとの事であった。
その日から何故か同じ様な事件があちこちで起こった。それは所かまわずであった。家の中、図書館、劇場、カフェやレストラン、ホテル等。
ただ、そのどの事件の家族間で起こったのである、それも女性が男性を、姉が弟を、娘が父親を、嫁が舅を、、等々。
最初はそれらはただの偶然かと思われたが、その後の調べで、それらの事件に一つの共通点がある事が分かったのである。被害者が全て「アスペルガー」(境界性パーソナリティー障害を含む)であり、加害者が『カサンドラ症候群』を患っていたのであった。それらの事件は、〖加害者の心神喪失〗で決着するかに見えたが、意外な方向に向かったのである。、
それは、、、⦅カサンドラ症候群を守れ⦆という声が日本全国から上がったのである。署名活動も行われ、、その数はなんと2千万を超えたのであった。そこからそれが国会で取り上げられ、ついには〖カサンドラ症候群法〗として施行されたのである。
それは理解を超えた「絶対無罪」である。治療の義務も無く、拘束される必要も無い。その全ての責任を免除されるという、『カサンドラ症候群の女性』を完全な自由に導く法律であった。