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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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自分を大事にしている奴をぞんざいに扱う人間はいない

俊葵は、風磨からふっと目を反らし、また思い直したように目を合わせる。


「言い出したら聞かないもんな。お前。分かったよ。でも何から話そう…」


ビールの缶を持ったまま立ち上がり、俊葵はその辺を歩き回り始めた。

風磨はその姿を目で追う。


「俺は、なるべく偏りのない情報を伝えたかった…んだけど、それじゃダメだ。」


そう言って俊葵は、風磨の居るダイニングの反対側のソファーに腰を下ろした。

そうした方がいいような気がして、風磨も向かいに座った。

食事もできるようなちょっと高めのセンターテーブルは、マホガニーっていう木でできているのだとか、コーヒーとココアの中間みたいな色をしているそのテーブルに俊葵は片肘を突き、顎を乗せる。


「畠山 光生は、お前を恋愛対象として好きなんだと思う。」

「・・・・」

「風真?」

「え、あ…き、聞いてる。」


風磨の動揺を察してか、俊葵が片手を伸ばし、頭をポンポンとした。


「僕、小さい時、女の子によく間違えられたんだ。中学生になった位から段々とそんな事なくなってたけど、だから・・・えっと、何が言いたいかって・・・」


「お前の言いたいことは分かる。畠山が、お前を女のように思ってるんじゃないかって言いたいんだろ」


こくんと風磨は頷いた。


「畠山がそこのところ、どういうつもりなのかは、本人に聞かないと分からないとして、」


俊葵はまた言葉を切り、風磨の目を見つめた。

ランプシェードのステンドグラスを通した光が俊葵の瞳に落ちている。


「お前、ゲイってなんだか知ってるか?」


「え、えーっと、男の人を好きになる男の人?」


俊葵は大きく頷いた。


「俺は一時期、ロンドンのゲイタウンで写真を撮ってた。その時、嫌という程ゲイを見た。毎日話して、冗談を言い合ってる内に、世界の大半がゲイなんじゃないかと錯覚するくらいに、だ。

その時にはっきり分かったことは、ゲイと呼ばれる人は、男を性の対象にするってことだ。」


風磨が、首を傾げたまま俊葵を見つめる。


「何を当たり前のことを、って顔してるな。」

そう言って風磨の髪の毛に触れた。

「あ、髪、乾いちまったな。風邪引かなきゃいいけど。」


「僕、そんなにヤワじゃないよ。それで?」

「そう。つまり本来ゲイは、男を女の代わりに好きになる事はない。」

俊葵がここで話を止めた。


「俊葵さん、回りくどい…何が言いたいの?」

風磨がジトッとした目で俊葵を見上げた。


俊葵は、チロリアン柄の派手なソファーに背中をもたせ、眉尻と口の端を下げ風磨を見ている。

俊葵がそんな顔をする時は、心配事がある時で、その原因は主に風磨だ。


「俊葵さん。僕がショックを受けるかもって心配してるんだね。でももう遅いよ。俊葵さんは口を滑らせちゃったし、僕は聞く気満々だから。」


風磨はウインクした。と言ってもできないから両目をパチっと閉じただけ。

それを見て笑みを深くした俊葵は、ようやく、重い口を開いた。


「俺が初めて畠山 光生の名前を聞いたのは、自転車のオリンピック強化選手としてではなかった。友人のファッション写真のフォトグラファーから聞いたのが最初だ。

畠山がジュニアの有望株として台頭してきた時、まず話題に上ったのは、自転車競技者としての実力よりもルックスの方だった。」


ーールックスについては人のこと言えなくない?ーー

風磨は思ったが、そこは黙っておいた。


「何度も畠山との企画を組んだそのファッション誌の編集長がゲイだというのは、業界では有名な話だ。

そこで、その編集長がことほか畠山をお気に入りで、彼曰く、畠山は生粋のゲイなんだそうだ。」


俊葵は、眉間にシワを寄せている。


「立場のある者がそうそう口にしていい話題じゃない。俺もその友人も怒り心頭だった。当時、畠山は14歳になったばかり。未成年で、競技者としても伸び盛り。それが噂にでもなれば、マイナス面はあっても、プラス面はほとんどない。」


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