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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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見えない糸が繋ぐのは③

「光生君飲み物はどうする?」

涼風に言われて、光生はわずかに眉を下げた。

「...じゃ何かノンカフェインので、」


椅子に座るため、光生に手を貸していた風真が目をぱちぱちさせた。光生のチョイスが意外だったらしい。

ふふ、

「俺、ずっと鎮痛剤飲んでるだろ?ちょっとこのへんがな。」

と苦笑いすると光生はみぞおちの辺りを摩って見せた。


「じゃお母さん。僕も...」

「いや。風真。俺の事は気にすんな。好きなの飲めよ。」

「ううん。僕、光生君ほどコーヒー好きじゃないから。全然だよ。」


「わーった。わーったから。」

押し問答になりかけたのを、涼風が審判員のように両手で制した。

「じゃ、コーヒーを飲みたい人は、後でセルフで。今は全員ほうじ茶を飲みましょう。これでどう?」


南雲と太郎もクスクス笑いながら頷いた。



「僕。絶対上手くいくって思うんだ。」

口の端に付いた餡子あんこを涼風に拭いてもらいながら、風真が唐突に言った。


タルトの中身の柚子風味の餡子を避け、甘味の少ないスポンジだけを用心深く食べていた光生が顔を上げる。


「だってさ、この船を操縦する予定だった人が、下重さんの会社の人だったなんて、こんな偶然ってある?」


皆の顔を覗き込んだ風真に、南雲、太郎、涼風も小さく首を振ったり微笑んだりしている。


「僕、それ聞いた時、勝った!って思ったもん。」


伯方の側近になる前、外国航路の船員からキャリアを始めた下重は、コツコツと一つずつ海技士の資格を取得。タグボートの船長をしていた頃に伯方と知り合ったそうだ。

下重が漁労長を引退した後、その腕を鈍らせるのは忍びないと、伯方は下重を代表とする海技士を派遣する会社を設立する事に尽力したのだという。今では、県内や瀬戸内対岸においても名を知られた会社に成長したのだそうだ。

そんな訳で、下重が操縦を買って出たのだが、


「病院の方は首尾よくいったんですよね?」

太郎が心配そうに南雲に尋ねた。

風真と光生も同じような表情で南雲を見上げる。

この航海は急遽決まったために、三人には詳しく知らされていなかったのだ。


「ええ。」

南雲が余裕の表情で微笑むと、

涼風も頷き、

「この人選はそのためだからね。」

風真を見てニヤリと笑った。



船内のインターフォンにて、目的地到着まで二十分と告げられると、南雲は診察室を出て行った。そしてカラカラと音を立ててストレッチャーを運んできて、

「さ、風真君。」

と、白いシーツに覆われた合皮マットをポスッと叩いた。


「「え?」」

風真と光生は顔を見合わせ、同時に南雲を見上げる。


「なるほど、」

太郎は腕組みした。

「カムフラージュですか。」


「そう。」

そして南雲は風真に向き合った。

「これから向かう病院には、風真君の名前で連絡がいってるのね。」


「え、」


「港には、患者輸送用緊急車両が待機しているはずです。風真君と涼風さんにはそれに乗ってもらいます。」


涼風は風真と目を合わせてきた。

しかし風真の顔は依然として強張ったままだ。

「光生君は?」


南雲は微笑んだ。

「彼の事は、私たちに任せて。」


「でも、僕は光生君に付き添えると思ったから、だから...」


同意を求めて目を向けた光生の顔もまた強張っていたが、すぐに光生はニッと口角を引き上げるように笑った。そうすると美貌と相俟あいまって絶世の悪役スターのようだ。


「風真...お前は知らない方がいい。そういう事ですよね。先生。」


南雲は頷いた。

「私は風真君と一緒に行きます。光生君には太郎さんと下重さんが付き添います。」














































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