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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
70/76

ペイフォワード㉖

「俊葵さん。それについては私が、」

西崎だ。

「二神弁護士からの報告書です。まず、川東 浩二の略歴なんですが、青海学園の前の職場である県立高校を表向き病気療養のために辞職。その後二年半ほど経った頃、湯竹校長に誘われ、青海学園に就職しています。」

そこで西崎は、読み上げていたスマホから顔を上げた。早く続きを、とせっつく皆の視線を認めて微笑む。

「さて、川東が両手軍刀術という変わった武術を嗜んでいるのは、既にご存知の通りですが、」


そこで伯方が茶々を入れた。

「文言だけはな。片手軍刀術ていうんなら昔聞いた事があるんだが、両手云々は、ほとんど初めて聞いたようなもんだ。」


「おっしゃる通り、片手軍刀術は、競技人口はわずかではありますが、今も陸自を中心に活動が続いています。

ではこの両手軍刀術は一体何なのかと言えば、どこをどう調べても出てこないんです。」


「出てこない?」


「ええ。この川東氏と妻の()()()の二名を社員とする一般社団法人両手軍刀術協会以外には、」


「うーん。」

「して、活動はどうなっとる?」


「道場を自宅の一室で開いていたようですが、川東氏もどこの誰に師事していたかを明らかにしていないので、門下生も中々集まらなかったようですね。」

「開店休業状態か...」

「ただ、その家の中に入った事があるという近所の方にお話を聞けました。」

「ほぉ、」

「妻のこのみさんは、普段は街の中心部で和菓子店を営んでいますが、時々自宅で菓子作りの教室を開いています。数人の受講生と共に菓子を作り、出来上がった菓子を食べながらお茶を飲んだんだそうですが、そのお茶の時間を道場の方で過ごしたということなんですね。

道場は二十畳程はある板の間で、天井に近い壁には、天皇皇后、先帝皇太后の御影が掲げられていたそうで、」


「ほぉー、

別に悪いことははないが、今時なかなか珍しいな。」

と、伯方。


「ええ。そして片隅には、折り畳みの椅子とテーブルと天井に達する本棚。そこにはずらっと、国体論や仁政思想に関する書籍が。」


「こくたい?じんせい?」

風真がブンブン頭を振って大人達を見上げると、西崎と南雲以外が目を逸らした。


そんな風真を見ていた南雲がふっと目を細める。

「国体っていうのはこの場合、戦前の天皇を頂点とした国家体制の事を言ってるのだと思うわ。でも、もう一つの仁政思想っていうのは、明治よりもっと前、江戸の幕藩体制を維持する根幹とも言うべき思想って感じかな。でもねぇ...」

南雲は、助けを求めるように西崎を見た。


西崎は頷く。

「先生のおっしゃる通りですし、戸惑いもごもっともです。国体思想が近代天皇制を、仁政思想が徳川幕府の幕藩体制を表しているとすれば、明治維新を挟んで真反対の思想とも言えますからね。

しかし、南雲先生...」

西崎は言葉を繋いだ。

「これを民族主義と捉えると、俄かに合点がいくんですよ。」


「つまり、幕藩体制でも天皇制でも、日本民族を形作る体制だと見れば。という事ですか?」

と、俊葵。


西崎は頷いた。


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