ペイフォワード㉔
一足先にフェリーに乗る事にした涼風が、帰る前にもう一度、光生の様子を見に行った。
俊葵がスマホを見ると太郎から一件ラインが入っていて、これから姫島行きのフェリーに乗る。というものだった。取り込み中だったとはいえ、悪い事をしたと苦笑いする。
ーーそう言えば...なぜ太郎さんが島に来たのかを聞いてなかった。西崎さんなら用は色々あると思うんだけど、ーー
などと考えていると、涼風が上機嫌で戻って来た。
「ねぇ、
光生君が目ぇ覚ました覚ました!お腹空いたってさ。フフ。もう大丈夫だよね。何か作ってもらえるように下重さんに頼んで来たよ。あ、もち、風真の事は言ってないから、」
そんなの端から心配していない。気もそぞろながら俊葵は頷いた。
「あーん。帰りに買い物して帰んなきゃ。冷蔵庫の中が寂しいわ...」
涼風は呟いて、
ボーッとしているように見える俊葵を気にしつつも、「じゃ、」と、バックを肩に掛けた。
すると、
「ちょっと待って、」
俊葵が言った。しかしその意味を説明しないまま、俊葵は怪訝そうな涼風をよそにどこかへ電話を掛け始めた。
それから四時間後の戒田邸。
太郎は、zoomの画面に写った俊葵の唖然とした顔を見て、したり顔だ。
「俊葵君分かる?先生を見た時の僕の気持ち。」
俊葵はコクコク頷いた。
「まさか、南雲先生があの船に乗っていらしたとは...」
「ふふ。お久しぶり。俊葵君。ごめんなさいね。驚かせたみたいで、姫島に通ってればいつか会えるかも知れないとは思っていたけど、意外と早かったわ。」
南雲はふわりと微笑んだ。
かつて、葵の主治医であった南雲 悦子は、年度末に県立病院を辞め、この四月から瀬戸内海の島々を巡る健康観察船に乗船しているのだそうだ。そう言えば、前より少し日に焼けているかもしれない。
「あ、いやこちらこそ。随分...こぶた、ごぶださ?してしまって、」
ブハッ、
「それを言うなら、ご無沙汰。もう!俊葵さんてば、」
南雲の隣で風真がクスクス笑っている。
つられて、画面を挟んで全員が笑った。
「何だよー、ちょっと間違っただけだろ。」と頭を掻く俊葵の声が心なしか弾んでいる。風真の普段通りのツッコミが嬉しいのだ。
「さて、そろそろ本題に、」
今の笑いで多少緩んだ雰囲気を引き締めると、西崎が言った。
「おし、いいぞ。」
俊葵の横で伯方が頷いた。




