ペイフォワード㉓
風真を無事救出したという一報が届いたのは、それから一時間後の事だった。
下重の電話にその連絡が入り、下重が満面の笑みで頷いた時、涼風はその場に泣き崩れた。
風真は、自身のiPhoneに届いたメールの通り、青海寮の光生の部屋の中で保護されたという。青海寮は漁港のはずれにあると聞かされたところで、俊葵にはピンと来なかったのだが、それもそのはず、青海寮はかつての姫島漁協の独身寮で、俊葵がヨーロッパへ留学している間に廃止となり、その後青海学園の男子寮として生まれ変わっていたのだ。
救出された風真は、伯方によって、まず姫島漁港へ向かうと聞かされた。この日漁港には県の委託で、東京の医療法人が運営する健康観察船が入港しており、島民の健康診断業務にあたっているという。その船には医師が乗船しているので、その医師に怪我の有無などをチェックしてもらうつもりだという事だった。
島にも診療所はあるのにどうして。と考えて、俊葵は気付いた。診療所の医師に風真の今の状況を話す訳にはいかない。かと言って、何も説明せずに診てもらうことなど不可能だろう。だとしたら、島民と直接の関係性はない観察船の医師に適当に言って診察してもらう方がハードルが低いはずだ。
「それで相談は、診察が終わった後の風真君のお迎えなんですが、」
電話を手で押さえながら下重が言った。
「もしあれなら、労長が船を出すって言ってますけど、湯竹さんにどうしてそこまでするのかって言われたみたいで、」
「なるほど。畠山の事を話せない以上、それは不自然か、」
俊葵が呟くと、涼風も頷いた。
「私が行くのが一番自然よね。」「俺が行くよ。」
俊葵と涼風の声が被ったその時、
ガチャ、
ドアが開いた。
「えっと、僕が行きましょうか?」
「太郎さん!」
そこには、鈴木 太郎が立っていた。
「それは良い考えです。どうですお二人?」
パッと表情が明るくなった下重が俊葵と涼風を窺う。
太郎と風真を引き合わせたのは自分だ。それに太郎は腕に覚えがある。俊葵が口角を上げると、涼風は頷いた。
下重がその旨を伯方に話している。
どかっとソファーに腰を下ろした太郎は、人の良い笑いを浮かべ、
「て言っても、ついさっきフェリーで着いたばっかりで、何が何やらさっぱりなんですけどね。」
と言うと、額に浮かんだ汗を忙しく拭った。




