ペイフォワード⑰
慌ただしく出掛けて行った伯方を見送ってから、様子を見て来ると言って、涼風は光生の病室へ行った。
全く恐れ入る。
対する俊葵は渡された風真のiPhoneを手に茫然としているだけだというのに。
「女性には頭が上がりませんね。」
下重が穏やかに言って、お茶を勧めてくれた。
俊葵はペコッと頭を下げて、湯呑に口をつけ、その芳しい香りにホッと息を吐く。
「全くです。俺も同じことを思っていました。でも、涼風さんが言う通り、それぞれがやる事をやるしかないですよね。とすると、まずはパスコードの解除なんだけど、」
そう言って、コードの候補・・・風真の誕生日、番地、涼風が思いつきで書き起こしたベタな候補から試していった。
その全てがボツとなったところで涼風が戻ってきた。
「ダメ?」
俊葵は頷いた。
「5個打って、1分間ロックされて、6個目がダメで5分待って今です。」
「そっか、
私の誕生日までダメだとすると...」
涼風はiPhoneを受け取り、数字を打ち込んだ。
「あーん、ダメかぁ、次15分後...」
俊葵はソファーの背にドサッと倒れ込んだ。
15分後、ロックが解け、再び涼風がいくつか数字を打ち込む。
「ん、もう!あのバカ。バカのくせに凝ったナンバー選びやがって!一体何なのよ!」
またもやエラーが出て、涼風はイライラとiPhoneを投げつけんばかりだ。
「落ち着いて涼風さん。今打ったのは何の番号?」
俊葵が宥めるように言う。
「え、あ、亡くなった主人の誕生日なの、」
「そっか...」
声のトーンが下がってしまった俊葵の肩を摩りながら下重が聞いた。
「あと何回残ってるんです?」
「2回...」
眉間を人差し指と中指でトントンと叩いてから、
「そのうちの一つ、提案させてもらってもいいですか?」
下重が神妙な声で言った。
コクリ、
涼風が頷く。
下重は力を込めて頷き返した。
「ご夫婦の結婚記念日はどうでしょうか?」
ハッ、
息を呑んだ涼風は
コクコク頷いている。
指が震えもなく踊るように動いた。




