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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ペイフォワード⑯

その時、

ドタドタドタ...

玄関の方から伯方の部下の下重が小走りに走って行くのが見えた。光生の治療のため、足音や大きな声には気をつける様に徹底されているはずだ。涼風と俊葵は思わず顔を見合わせた。そして頷き合うと、その後を追った。


二人が書斎の前に着くと、中からドアが開いた。


「あ、俊葵さん。今呼びに行くところで...花咲さんもちょうどよかった...」

下重がホッとしたように言い、二人を招き入れる。


「あ、え、ちょっと待ってくださいね。取り敢えず愚息の学校に電話をしてから窺いますから、」

座るように指さされたソファーを見て、涼風が思い出したように立ち止まり、廊下に戻りかけると、


「ちょい待ち!その事で呼んだんだ。これ、」

伯方はそう言って、手の中のものを見せた。


「これ...」「これは!」


みるみる顔を強張らせた涼風と俊葵は目を見合わせる。

伯方の手の中にあったのは、一台のiPhoneだった。


下重が小さく咳払いをした。

「ついさっき、青海の制服着た子が玄関先にやって来て、渡してきたんです。とても怯えていたので名前を聞き出すのもやっとで、」


「でも聞き出したんだろ?」

伯方が合いの手を入れると、

下重は頷いた。

「名前は白石 良太。」


涼風が息を呑んだ。

それをチラリと見て下重は続ける。

「これを渡してきたのは、風真君だそうです。昨日の放課後、風真君と白石君は玄関まで行き、忘れ物を思い出した風真君は教室に戻った。寮生の白石君はそのまま帰ろうかと思っていたところに息急き切って風真君が降りてきた。そして、この携帯を手渡し『もし僕が明日学校に来なかったら、これを伯方 保洋やすひろさんの家に滞在している戒田 俊葵さんに渡して欲しい。』と言ったそうです。白石君が心配そうな顔をしていると、『明日、登校してたら返してくれたらいいから。』と言い、その直後に担任が降りてきて、『行くぞ。』と言って階段を登って行った。それに風真君が付いて行った。そういう事だそうです。」


「で、その白石君は?」

俊葵が問うと、

下重は首を横に振った。

「中に入るように言ったのですが、学校に戻らなきゃというので行かせました。」


「じゃあ、この担任が今日出勤してるかどうかは聞けなかったんですね?」


下重は済まなさそうに頷いた。

すると伯方が笑うように唇の端を引き上げた。

「それを今から聞けばいいんじゃないか?」


「あ、涼風さん。電話掛けて下さい。学校に、」

ハッと顔を上げた涼風は頷き、自分のスマホのアドレスをタップした。



「...ええ。私看護師をしておりまして昨夜は夜勤だったものですから、息子が帰宅した気配がないので、昨日の息子の様子や登校はしているのかと、その辺の事を担任の先生に窺いたいと思いまして、え、ああそうですか...」


涼風が皆に向かって頭を振ると、俊葵が大急ぎで紙に何かを書き付け涼風に見せる。


「あの、もしお手すきなら、校長先生とお話ししたいのですけれど...」

涼風はそれを読み上げるとすぐにスマホのマイクを手で覆った。

「取り次いでくれるそうです。」


「俺が学校に行ってくる。涼風さんアポ取ってくれませんか?」

俊葵が言うと、

「いんや。俺が行こう。」

伯方が被せるように言い、

さらに被せるように下重が言った。

「(魚)労長ろうちょうは青海ができる時、かなり尽力したんですよ。湯竹さんとも旧知の中ですし、」


ほぉ、

感心したように俊葵が息を吐くと、

相手が出てきたようで再び涼風が話し始めた。

「あ、校長先生ですか。恐れ入ります。花池 風真の母です。ウチの息子が昨夜から帰ってきていないようで、ええ、夜勤だったので。昨日の学校での様子をお聞きしようと川東先生を呼んでもらったら、先生も出勤されてないとのことで、ええ、ちょっとご相談したいと思いまして...」

そこで伯方が手を伸ばし、その意味を解した涼風がスマホを伯方に渡した。

「もしもーし、お電話代わりました。湯竹さんか?伯方です。えらくご不沙汰してしもうて。早速なんだがちょっと込み入った事情がありましてな。お話ししたい事がある。これからお会いしたいんですが、時間はよろしいですかな。」


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