ペイフォワード➈
「それにしても、川東遅くね?」
良太が時計を見上げる。
「え、良太そんなに授業受けたいのぉ、」
と、いつも芽衣にくっ付いている樹里が素っ頓狂な声を出すと皆がドッと笑った。
その時、
「やべ、武藤組の鷹野が来た。芽衣どうする?」
窓際で廊下を監視していた男子が声を上げた。
ちなみに。武藤とはA教室の教師の名前で、B教室のこのクラスは、川東組と呼ばれている。
「どうせ大和に会いに来たんだろ。」
大和と呼ばれた男子は、ポッと赤くなり、「え、何かごめん、」と窓の外を見た。
「んや。どうせ、追い返しても変に思われるだけだからな。取り敢えずここはお開き。続きはまたグループラインで。いい?」
芽衣はなぜか風真を見た。
どうやらお開きと聞いて喜んだ風真を解放してくれる気はないらしい。
どう言い返したものか、考えて風真は白い靴下だけの足に目を落とした。
「あ、上履き...」
風真の視線につられた良太が呟く。
「へへ、靴脱いだとこでラッシュが来てさ、キューピー先生怒ってるし、下駄箱まで行けなくて...」
渡りに船と、良太を上目遣いで見上げると、
「ゲッ、まさか外履きはその中って言わないよね?」
樹里が強張った顔で風真の鞄を指差した。
「いえ、言います...」
「あー、やってらんない。これだから男子は。マジで風真のお母さんに同情するわ。」
樹里が大袈裟に顔を顰めた。
そこで教室のドア鍵が開けられ、武藤組の鷹野が入ってきた。
「何なに?なにが同情?」
お調子者の鷹野が樹里に食いつく。
「自習ってわかった途端、隣のクラスに繰り出す生徒を受け持ってる武藤に同情するって言ってんの!」
樹里が言うと、皆がドッと沸いた。
「えー、」
鷹野の講義の声を尻目に、風真は良太に声を掛けた。
「一緒に玄関行ってくんない?」
「いいけど...あ、そっか。さっきのおっさんがまだ居るかも知んないしな。」
「多分いねぇと思うよ。」
外窓を覗いていた男子が言った。
「下に駐在所のパトカーが来てるし、」
「そっか。」
ーー駐在か...相手の大きさを考えると、安心感も限定的な気はするけど、ーー
それでも皆の手前、安堵の表情を貼り付けておく。
「ま、でも暇だし行ってやる。」
良太が立ち上がった。
「ありがと。」
芽衣は他の女子と話し始めていて、もう風真を見ていないようだったが、念のため、さも降って湧いた自習時間にウキウキしているかのような笑みをさらに貼り付けて教室のドアを開けた。




