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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ペイフォワード⑤

週明け、花池 風真は通学のため、姫島に向かうフェリーの上に居た。乗船すると、どちらにするか少し迷って後部甲板に向かう。前部の開放的で広いスペースは、今の風磨には何だか心許なく感じたのだ。


それでも、気がつくと風真は鼻歌を歌っていた。

先週末に比べて、光生に関する心配事は一つ減って、新たに一つ増えた形だ。まだまだ解決には程遠いのだが、それでも一人(正確には母の涼風すずかは息子の不安な胸の内を聞いてくれていたから、二人)で抱えていた先週に比べればはるかに前進と言っていい情報が得られてた。



金曜日の事、しばらく母以外が鳴らすことのなかったスマホが着信を知らせてきた。


【なかなか連絡できなくてすまん】

俊葵だ。


[無事ですか?]


【ああ。詳しくは後で話すが、電話番号を変えた。それで連絡が遅くなった。】


[了解です。

あ、今電話鳴らしていいですか?]

念には念をだ。声を聞くまでは安心できない。


【いいぞ。番号は、×××-××××-××××だ。】


二つ目のコールであの喉奥を震わすような低音のクツクツ笑いが聞こえた。


『風真俺だ。信用してくれたか?』


いつもの揶揄うような口調。それを聞くと膝から力が抜けるような感じがした。


「ごめんなさい...」


『いや。

むしろそれでいい。風真お前、見かけに寄らず知恵が働くな。フフ、』


「見かけに寄らず...

と、そんな事は良いんです。それよりずっと光生君と連絡が取れてないんです。それを相談したくて、」


『今話したいのはまさにその事だ。ある人に島に様子を見に行ってもらえるようにお願いした。信用できる人だ...おっと、そろそろ待ち合わせの時間だ。話の続きはラインで頼む。』


そう言ってプツっと電話は切れた。

呆気に取られた風真だったが、その一方で、少し言いにくい報告を口頭でせずに済んでホッとしていた。



ーーま、もう少し早く俊葵さんが連絡してくれていたら良かったってだけの事だしねーー


その後聞いた情報によれば、既に俊葵は島に入っているはずだ。そして風真が独断でSOSを出した葵と鉢合わせしたのは間違いない。


「俊葵さんどんな顔したんだろ、」


ーーそれにしてもーー

風真は思った。

ーー俊葵さんと葵さんって、ちょっと変だよな...

長い間離れて暮らしてたとは聞いてるけど、もうちょっと打ち解けてても良さそうなもんなのに、やっぱ異性同士だから?

いやいや、そういうんじゃなくて...初めっから葵さんは普通だったっていうか、親しみがあったのに、俊葵さんの方がむしろ余所余所しいっていうかーー


やはり、兄弟関係は一人っ子の風真には預かり知らぬものなのか、人間関係にはその当事者にしか分からない事情があるのだろうか。


風真は、かつて俊葵と議論した光生のゲイカミングアウト問題を思い出していた。光生とその父との関係も風真にとっては未だ想像の域を出ていない。そこで風真は包帯でぐるぐる巻きになり、ベッドの上で横たわっているであろう光生の姿を思い浮かべた。


ーー光生君...

知ってる人が全くいないところで、痛い思いをしてどれだけ心細いだろう。

すぐに、そばへ行ってあげたいけど...ーー


そこまで考えて風真は、入港が間近となり、にわかにざわつき始めた船室へそっと目を移す。


ーーひょっとしたらあの中に...ーー

改めてそう認識すると、ブルっと震えがきた。


風真は、光生が怪我をした原因である、あの家の敷地に入ってきたという車の存在が気になっていた。


ーー光生君に繋がる可能性があると見るやどんな細い枝葉も辿ってみせようとする人達が確実にいて、僕の様子を窺っている。そうでなければ、俊葵さんのあの家にわざわざ車を乗り入れたりするはずがない...ーー


「気を抜くな。風真!」

風真はパシっと両の頬を叩いて自分気合いを入れた。

今や風真は、光生に繋がる枝葉の最も太いところに位置している。















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