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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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親切は人のためならず⑧

「顔の広さが…とは、儂が報道を抑えさせてると言いたいのかな?」


「ええ、まあ…早い話が、」


「抑えさせてるも何も…ヨーロッパ(向こう)の方から何も聞こえてこなんだ。抑えさせてるのはむしろ、ヨーロッパ(向こう)の警察の方だろう。儂も、あまりにもウチのメンバーの消息が掴めんので、ありとあらゆる伝手を伝い、一昨日になってようやく監督と連絡を取ることができたくらいだからな。

それにな、俊葵君。人脈とやらは案外使えんぞ。んなもん使ってみろ、かえって光生がクロだと認めてるようなもんだろう?」


全くだ。

俊葵は居たたまれない気持ちになった。


それでも当の前橋は気にしてないという証拠に笑って肩を叩いてきた。


「しかし、警察(連中)が光生を怪しいと踏んだきっかけらしきものは掴んでいる。」


俊葵は身を乗り出した。


「チームメイトとコーチから聞き取ったんだが、

光生はコーチと会った後、何やら喚きながらホテルの部屋に戻ったそうだ。荷物を纏め始めたのを最後に誰も姿を見ていないらしい。」


その辺りの事は既に光生に聞かされていたので、反応はせず、続きを促すように前橋を見つめた。


「光生は、スプリンターというポジションを任されているんだが…」


前橋は、俊葵がその用語を知っているかどうかを確認したようだ。

俊葵が頷いて見せると話しを続ける。


「パンチャーやクライマーへの転向を望んでいるんだ。コーチは反対している。」


そこも聞いていると、俊葵は頷いた。


「光生はコーチに黙って、ヒルを練習していたようだ。今回の試合でポジション替えをコーチに願い出たんだが、コーチにそれを却下され、かつ、スプリントのタイムが落ちているのはその練習のせいだと叱られてしまった。」


「コーチはそれを警察だかに話したんですね…え?」


俊葵の顔が凍りついた。


「それだけ…たったそれだけで、その畠山が望んでいるポジションにある、そのチームメイトを狙ったとでも?」


「ヨーロッパの伝手の一人がそう言っていた。光生は英語とフランス語ができる。それも目をつけられた理由なんじゃないかと…

あまりに稚拙な理由だ。まったく…ありえん…」


前橋は、もっと苦い物を飲み込んだような顔をしている。


「レギュラーから外された件はコーチよりも先に光生から報告を受けた。その折、例の()()()文芸誌が記事を掲載すると通告してきていると伝えて、パリのマキシム…光生の父親の名だが、マキシムのアパートにでも隠れてろと言ったんだが、それをどう捉えたのか、光生は、そのまま帰国する。隠れ家にも心当たりがあると言い出して…儂もそれはそれで構わないと思ってそう伝えたんだが、

どうも、マドリードからパリ、パリから関空という帰国のルート取りがあまりにも素早かったもんだからな、」


確かにその素早さには俊葵も驚いた。畠山が訪ねてきた時には、当の風真が腰を抜かすほどだったのを思い出す。


「それだって、航空券は本人が全て空港のカウンターで、しかも当日に買ったと言っています。そんなにすぐに足がつくような逃亡を諮るテロリストがいるでしょうか?」


「儂もそう言ってやりたいんだが、連中は今のところ儂の後を付け回しているだけだからな。そんな相手にいきなり振り向いて、『そういうことです。光生は犯人ではありません。』などと話しかける訳にもいかんだろう。」


たしかに…

俊葵は頭をクシャクシャと掻き回した。


「あちらも、前橋さんの人脈が怖いから、決定的な事を聞けなくて尾行(そう)しているんでしょうし、畠山は今はまだ数多あまたいる参考人の一人で、新たな情報が出てくるまでのキープと言うか、」


「そうだな。今は()()

前橋はニヤリとした。


それを見て、失言に気がついた俊葵は頭をペコっと下げた。


「いや、君が言うんは構わん。()()事件では君はひどい目に遭ったからな。むしろ、その経験から教えて欲しい。」


前橋は頭を下げた。


「いやいやいやいや…頭を上げて下さい。」


俊葵がそう言っても、前橋は頭を上げようとしない。


俊葵は苦笑いした。

「前橋さんは、俺が祖父さんそっくりだと言いますが、その言葉そのまま()()付けて返しますよ。全く。光生君はあなたにそっくりだ。」


頭を上げた前橋は、クツクツ笑い出した。

俊葵は怪訝そうな顔をする。


「それを言うなら、()()だ。」

まだ笑い足りないのか、前橋は肩を揺らしている。


俊葵は眉を下げ、肩をすぼめた。


「しかし、案外嬉しいものだな。似ていると言われるのは、

橋本先生の気持ちが今なら分かる。君の展覧会を見た後は決まって、橋本先生と食事をしたが、似ていると言うと、あの鉄仮面が緩むんだ。」


俊葵はいよいよ目を泳がせ始めた。


「はは、苛めすぎたな。済まん。

しかし、教えを請いたいのは本当だ。」


前橋は上目で見上げた。


俊葵は咳払いし、

「もちろん。俺でよければ…

そうですね…一つ言わせて貰うと、確実に言えるのは、前橋さん自身は動けないという事ですね。祖父である前橋さんを尾け回せば畠山に辿り着くと向こうは考えているはずですから…」

と。考え考え言った。


「ふむ…そこまで考えてはおらなんだ。確かにその通りだな。」

前橋は中肉中背の自分の身体を抱えるように腕組みをしている。


その時、俊葵の頭に、ある顔が一つ浮かんだ。

不快なあまり、ブ思わずルリと身体を震わす。


「俊葵君。どうした?」


「ろくでもない…いや、やっぱり、ろくでもない。でもこれしか・・・」


「俊葵君?」


はぁーっ、

俊葵は大きく息を吐いた。


「島の友人をいつまでも誤魔化してはおけないし、公安か何だかが本気を出して探し始めれば、畠山の所在が知れるのは時間の問題だ。もうこれしかない…」


俊葵はブツブツ言うと、前橋に向き直った。


「前橋さん。これから話す内容は、提案ではありません。ぜひにそうしなければならない。それしか方法がない。そういうことです。よろしいですか?」


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