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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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親切は人のためならず⑦

「こんな所に呼び出して、随分と疑い深いと思っただろう?

ところがそうとばかりも言えんのだ。」

いたずらな視線を送ってきたかと思うと、唐突に口元を引き締める。

「儂の所に警察が来た。それだけじゃない。尾行も。ん?なんだ、驚かんのか。」


俊葵は前橋から目を離さずに頷いた。


「このボクシング会場に来るように指示された時、正直、理解に苦しみました。しかし、ある種の取引を公共の場や雑踏に紛れてやるなんて事はザラにある。前橋さんには俺と同様、面会を隠したい意図があると思いました。もしそうなら、あなたには監視が付いているはずだと、」


そう言って俊葵はドアの方をチラッと見た。


「ん?尾行が気になるか…

儂はこの後、祝賀会に参加する予定になっているから、あちらさんには会場に先回りしてもらってる。ここには居ない。」


前橋の言葉に引っかかりをおぼえた俊葵が眉間にしわを寄せた。

前橋がニヤリと笑う。

「黙って付け回されてるだけじゃあ芸がないからな。」


タン、

前橋が勢いよく膝を叩いた。

「さ、俊葵君教えてくれ。君が儂と人目を忍んで会いたい理由はウチの孫だろう?」

椅子に深く座り直すと、小柄ながら筋肉質な前橋の身体に、パイプ椅子がギシリと軋む。


「仰る通りです。

俺の身元が知れたら、彼の身の安全に関わるから。黙ってて済みません。」


慎重を期した俊葵はアポを取る際、前橋に本当の目的を告げていなかった。


「しかし、身の安全とは…つまりなんだ。君は光生が何処に居るか知ってるって事か?」


「はい。」

俊葵は一段と声を落とした。

「俺の家です。姫島の。」


「なんと、」

ピシャリ、

前橋は己の額を掌で叩き、クツクツと笑い始めた。


「前橋さん?」


「済まん済まん。」

正面に向けられた前橋の顔は、見たことがない程穏やかなものだった。


「そうか、灯台元暗しとはこの事だ。まさか光生の学校のある島だとはな。儂はまた、婆さんの田舎の九州に行ってるもんだと、そこに警察の目を向けさせんように、俺の田舎の北海道でひと芝居打たせていたんだ。

しかし…お前さんと光生が知り合いだったとはな、」


「いや、それは全然。帰国したその日に俺の家に突然やって来たのが初対面で。畠山は、俺の写真の教え子の友人で、その子が俺の家に滞在してると見当をつけて訪ねてきたようです。もっとも、その時点で我々は、彼を追っているのは雑誌記者だけだと思っていたわけですが、」


前橋は、軽く指を組み合わせた手を顔の前に持っていき、俊葵の話を聞いている。


「畠山の高校に警察が訪ねてきて、何のためかは言えないが、ヨーロッパ遠征に参加していた選手やスタッフ役員から情報を聞く必要が有って訪ね歩いている。畠山だけ所在が知れないので、どこに居るのか知らないか?と言ったそうです。校長や担任が知らないと答えると、では、知っていそうな人物を知らないか?と、」


「それを誰が君に教えてくれたんだい?」


「その畠山の友人です。俺の写真の教え子の。」


「そのお子には礼を言わなねばな。そのお子が黙っててくれて、光生が無事でいられる。」


コクコク、

俊葵は頷いた。


「俺が思うに、学校にやって来た警察官を名乗るその男は県警では無いです。」


「なぜそう思う?」


「県警の警官が島で行動する時は必ず島の駐在を連れて行きます。道案内のためも有りますが、そうすることによって、島民の態度が軟化して話が聞きやすくなるからです。駐在に、それとなしに探りを入れましたが、その日は畠山の高校には行ってませんでした。

その日フェリーの切符もぎをしていた男にも話を聞きましたが、フェリーを乗降した他所者の客は一人しかおらず、その人物は一見優男風でいて、眼光鋭い、細っこいように見えて鍛え上げている。そんな男だったそうです。あれは本島の人間ですらない。大都会の人間だとも言っていました。」


「ほほう、君は相変わらず機転が利く。」


「いや、たまたま駐在が小中学校の後輩で、フェリー乗り場に居るのが同級生というだけです。フェリー乗り場の同級生は、畠山が人妻に手を出してその旦那と週刊誌に追っかけられてる間男のファッションモデルだと思い込んでいる。だから、週刊誌の記者かもしれない他所者には目を光らせてくれているんですよ。」


はーっはっはっは…

前橋が豪快に笑った。

笑う時、前橋は本当に愉快そうに笑う。


「そういえば、スペインに派遣していたチームとは連絡が取れたんですか?映像に映っていた選手はどうなったんです?」

俊葵は気になっていた事を尋ねた。


「連絡は取れたんだが、依然帰国は許されていない。他国のチームも同じだそうだ。あの選手は少し強く頭を打っていたんだが、検査の結果そっちには異常はなかった。ただし大腿骨を骨折していて今期は絶望的だ。」


「あ…それは御愁傷様…」


「フフフ、君が言わんとしている事は分かるがこの場では必要ない。儂は今、会長としてではなく光生の祖父として話している。公式なコメントでは無くな。」


慣れぬ忖度をしてしまった。急に恥ずかしくなった俊葵は、

頭を掻いていて、急にあることに思い至った。


「やっぱり、青海学園を訪ねた男は、明らかに畠山にターゲットを絞ってますね。今確信しました。そう言えば、続報が不自然な程報道されてないんですけど、

これって、前橋さんの顔の広さが関係してるとか?」




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