ダークホース
明日が早いと言って俊葵は早々に寝室に引き上げていった。
風真も一時間ほど前に『ごめん、もー眠くて、』と欠伸を繰り返していたから、そうしてもらった。
ーーあれ以上、二人っきりでいたら、まじヤバかったーー
両手いっぱいの写真の中に、自分が写ってるのを見つけ、思わず抱き締めてしまいそうになった。
風真の、『ごめん…』って言いながらの上目遣い…写真を差し出してくるちょっと震える手。
クラスの女子にスマホ向けられて、光生が嫌がってるのを知っているせいなのだろう。
『謝んなよ。上手く撮れてんじゃねぇの?』と言うと、ホッとしたのか風真がにこっと笑った。
ーーあれも、かなりキタ…ーー
パサリ、
写真の束が手から滑り落ちる。
ーーおっと、久しぶりの風真をちょっと反芻し過ぎたーー
苦笑いして写真を拾い上げ、もう一度目を落とす。
それにしても、被写体は風景や建物、光や影、木や植物ばかりだ。
港から学校に向かう道すがら撮ったもののようで、動くものは猫と校長の車。人物は光生だけ。
学校では誰にでも分け隔てなく接する風真のことだからこれはちょっと以外でもある。
ーー俺だけってのは、ま、嬉しいよな。でも、たまたまここにないだけかも、
他の奴のもあるのか、なんて、聞ける訳ねぇけどよーー
光生はまた、自分のショットに目をやった。
ーー俺、こんな顔すんだな。
でも、上目でレンズを見ている目は締まりがねぇし、締まりがねぇのは、目ぇも、頬も、口なんかもっと…
あ〜あ、これじゃあ、俺の気持ち丸わかり…ーー
はぁぁぁ〜
とすん、
光生は、色で溢れかえったベッドに背中を投げた。
おっ、
意外とスプリングが硬く、体が弾んだ拍子に思わず声が出る。
慌てて、そば殻の枕に顔を埋めた。
さっき、俊葵がこのド派手なリネンに替えてくれたから、洗い立ての洗剤の香りしかしないはずなのに、何というか、このベッドにもこの部屋にも、いや、家全体に、長い間動かなかった空気特有の埃っぽい匂いがする。
俊葵は、東京で大学の先生をしながら一人暮らしだと言うし、
この家は普段、無人だと言っていた。
ーー俊葵さんかぁ、風真の話に時々出てきたから、名前だけは知ってたけどね、けど、あんないい男とか、まじ聞いてねぇ!ーー
光生は風真の周りをそれとなく探ってた。だから、風真の世界がごく狭いものだということには気が付いていた。だからこそ警戒すべきは校内だと、正直、高を括っていたのだ。
カメラ教室なるものに参加してるのも、その手伝いをしてるのも、参加者は定年退職したおじさんや、本島から来るおばちゃん達だいうのも風磨から話だけは聞いてた。
ーーけどまさか、教室の講師がダークホースだったとは・・・ーー
ーー会長の知り合いなら、写真家としての実力も折り紙つきだな。
あの人は実力の無い人間は傍らにも寄らせねぇし、ましてや、作品展に自ら足を運んだってぇんだから間違いないよな・ ・・ーー
風真の友達と聞いただけで、一度も会った事の無い光生をこの家に上げてくれた。あの二人の信頼関係がここにも表れている。
さっきも話の途中で俊葵の舌打ちのせいで、風磨がビクッとした時、俊葵は風真を優しくいたわるみたいな目をして謝っていた。
その様子は、何か訳有り気に見えた。その訳も俊葵はきっと知っている。
俊葵は風磨を可愛いがってて、大事に思ってる。
それは疑う余地がない。
ーーじゃ、風真は?
俊葵さんをどう思ってるんだろう…ーー
「あー、試合優勝したら言うって決めてたのになぁ〜」
そう呟くと光生は、枕に顔を埋めた。




