エンパシー
「な、な…」
「そう来ると思ったよ。…ったく、」
俊葵は、ため息を吐いた。
「分かったから、顔上げろ!」
旋毛を見せていた光生が、上目遣いで俊葵を見た。
「一体、どんな記事が出るんだ?別に知りたくもないが、その内容によっては対策も違ってくる。」
「置いてくれるんすか?俺初対面すよ?」
パコーン、
俊葵が光生の頭を軽く叩いた。
「クソが!
お前、策士だな!良いったら、良いんだよ。乗りかかった船だ。」
俊葵がガシガシ頭をかいている。
これでもう、 寝癖は今日中には取れない。
「ほらほら、対策話し合うんでしょ?一体記事って何だったの?」
風磨が言うと、光生はようやくソファーに座り直した。
「記事っていうのは、俺と会長のことなんだ。」
光生は風磨と俊葵を順に見る。
「会長…自転車競技の会長でオリンピック委員の?」
「そっ、」
風磨に向かって微笑んだ。
「会長は、俺の実の祖父なんです。」
「え?」「あー」
風磨が俊葵に顔を向けた。
「俊葵さん知ってたの?」
「その可能性も考えてはいた。“畠山”は、日本の祖母さん方の姓か?」
風磨はこんな物事を探る目付きの俊葵を見た事がない。
光生がニッと笑った。
「会長とお祖母ちゃんは、随分前に離婚したんすよ。ママはお祖母ちゃんに引き取られて、
そう言えば、会長から俊葵さんの話聞いた事あるんすよ。俺、」
「え?」
またもや衝撃的事実発覚!
風磨は光生と俊葵の顔を忙しく見比べた。
俊葵が苦虫を潰したような顔になってる。
「ウチの祖父さんが生きてる頃からの付き合いだ。フォトグラファーになった時分、展覧会にもずいぶん来ていただいた。」
俊葵が訥々と話す。やはり自分の話をするのは苦手らしい。
「へ、へぇー、世間って狭いねぇ〜」
「で、お前と前橋会長の情報のどこが面白くて、週刊誌はお前を追いかけ回している?」
俊葵が、空気を変えるように言った。
「週刊誌って、一方的に、出ますよ!言ってくるだけみたいっすね。だから内容は知らないす。」
光生はケロッとしたものだ。
「うーん。」
俊葵が腕組みをして、壁の風景画を見つめている。
「あーでも、会長が心配してるのは、」
光生君が口を開いた。
「俺が東京オリンピックの代表になったら、会長の肝入りだと言われてしまうんじゃないかという事らしいっす。」
「そんな!」「ああ、いかにも言いそうな事だ。」
「え?」
「身内が権力に近いところに居るとな、その程度の事は言われるもんだ。」
そう言いながら俊葵は、風磨の髪の毛を整えるように指で梳いた。
風磨の寝癖もそんな事ではビクともしない。
光生がコクコク頷いている。
俊葵がデビューしたきっかけは、ヨーロッパのどっかの国のアートフェアだったと聞いている。俊葵の祖父が国会議員だったとはいえ、そんなところにまで顔が効くはずはない。
ーー言い掛かりにも程があるよ…ーー
風磨は拳をギュッと握りしめた。




