スプリンター
「分からない…」
風磨は頭を振った。
「でも、それほどまでに隠したい事なんだから、僕はそっとしといてあげたい。」
それからしばらく、二人は別々に物思いにふけっていた。
ふいに、風磨のiPhoneが着信を告げた。
画面を見ると、インスタグラムにメッセージの返信があったという。
『ふうまほんものかれんらくできなくてごめんなおれぶじだよへんじのときほんものしょうこにあのあいさついれてくれな』
「よ、良かったぁ〜」
安堵のあまり、風磨はテーブルに突っ伏した。
「畠山か?」
「うん。ほら、」
風磨は、iPhoneを持ち上げて、俊葵の目の前に突き出す。
俊葵が黙ったままなので、どうしたのかと、風磨は顔を上げた。
俊葵は眉間に皺を寄せて画面を見つめている。
「え、ホッとしたって顔じゃない…何で?」
俊葵は首を振った。
「俺は、端っから心配しちゃいない…」
「どうしてだよ!あんな映像見ても?」
俊葵があまりにもさらっと言うから、風磨はムキになってしまった。
俊葵は頭をかきながら
「あー、風真お前、畠山のポジション知らねぇのかー」
「なんだよ。それ、」
俊葵がまた頭をかく。
「あー、あの映像は、ヒルの登坂の場面だったろ?」
風磨は思い出そうと、天井に目を向けた。
「…確か、撮影者は、進行方向から選手を正面に見て撮影していた。選手は立ち漕ぎをしていて・・・うん。そうだね。」
「あの選手たちは、クライマーやパンチャーと呼ばれる選手だ。ヒルでのアップダウンに特化した選手だ。
一方、畠山は、スプリンターというポジションの選手だ。平地でひたすらスピードを競い、トップ争いの駆け引きをする。ヒルの区間に出走することはない。」
「え、じゃあ、初めっから俊葵さんは、あの倒れた選手が光生君じゃないって知ってたの?」
「確信はないさ。ただ、畠山は日本人としては珍しいスプリンターのポジションで頭角をあらわしてるっていうんで有名になったし、お前は畠山と親しくしてるみたいだから、てっきり知ってるもんだと思ってたのさ。」
俊葵は気まずそうに風磨を見た。
「うう、そのスプリンターっていうの、たとえ聞いてたとしても、光生君があの場面にいるのか、いないのかの判断がついたか、僕自信ない・・・」
「そうだな。あんなに真っ青になってたもんな。俺は、テロの可能性って情報に気を取られてたから。お前の気がかりもてっきりそれだとばっかり…
言ってやりゃあ良かったな。すまん。」
そう言って、俊葵が頭を下げた。




