コントラスト③
「わくいさんは、奥さんのサチエさんと二人三脚で作品をつくりあげていた。
撮影も現像もプリントも、だけど実務的な事、お金のことは、ほとんどサチエさんが面倒見てた。
わくいさんが、プリントの神と呼ばれ世界的に有名になってもそれは変わらなかった。むしろ、わくいさんにとって、世界とサチエさんはイコールで結ばれていて、世界的に有名になろうが、運送屋さんでアルバイトしながら写真を撮ってた駆け出しの頃だろうが、サチエさんさえ居ればいい。という感じだったらしい。
初期の頃から、わくいさんは自前の暗室を持っていた。その暗室のために高価な道具類を手に入れた時、サチエさんに約束させたれたことが一つだけあった。それは、道具に消せないサインを必ず一つは入れる事。
生活に困ったらまた売ればいい。そう考えていたわくいさんは、考えを見透かされていたと舌を巻いたんだそうだ。
プロになるからには、不退転の姿勢で臨め!というメッセージがその約束には込められていたのさ。
そのサチエさんが、死の病の床に伏した。」
風磨ははっと息を呑んだ。
俊葵が風磨の顔を覗き込む。
風磨はそのまま続けてと、頷いた。
俊葵はふっと笑い、また話を続けるべく口を開いた。
「その頃には、わくいさん自身も現像やプリントをほとんどやらなくなっていた。
サチエさんはわくいさんに言った。
『この道具達を、今度は若い人に分けてあげましょうよ!出来るだけ手の届く値段で届くように意図するわ。そして、アプローチしてきた子を弟子にしましょう!その子が私たちの子供よ。』
二人の間には子供がいない。」
「それで、それで、俊葵さんは、わくいさんの弟子になったの?」
「どうだろうなぁ。でも、わくい夫妻の東京の家に、交通費まで出して何度も招待してくれた。きっびしー暗室作業のレッスン付きで、」
「わぁ〜すごいなぁ〜」
「フフ。サチエさんはほんと強烈なキャラでな、俺も一つ約束させられた。」
「え、なになに?」
俊葵は微笑んだ。
「わくい みつおに学んだプリントの技術を俺も誰かに伝え、受け継がせる事。」
「ふぅ〜ん。て、え?僕?」
自分の顔を指差す風磨。
俊葵は頷いた。
「あの日砂浜で、夢中になって海を撮っているお前を見て、やっと見つけたと思ったよ。」
「うん。すごく怒られたけどね。
実はさっき僕もその時のことを思い出してたんだ。」
「そうか。
お前がやらかしてくれたから、早速カメラの扱い方から教えることができて、一石二鳥だったぞ。」




