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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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当たり前なんて本当はどこにもないのに、③

葵と桂葵を含む“ひかりあそび”のメンバーが港に到着すると、細身のダークスーツに身を包んだ背の高い男がターミナルのドアを弾き飛ばしそうな勢いで、飛び出してきた。

男は、風磨と手を繋いでいる桂葵と葵を認めるや、ほっとしたような笑みを浮かべている。

男は、風磨に向かい、

「妻と息子がお世話になりました。私は、弓削 慎之介と言います。」

と、右手を差し出してきた。


「はぁ、」

風磨は差し出された手をおずおずと握る。


「もう!あなた。選挙じゃないのよ。第一、風真君はまだ17歳なんだから。」


「何だよ。選挙以外じゃ、僕は握手したらいけないのかい?握手しても良いよねー。風磨君。」


語尾を上げ気味にそう言われて、それがこの人にどうしようもなく似合わないと思ってしまった風磨は、

「はぁ、」

とまた、気の抜けたような声を出した。


弓削は、風磨の後ろにいた俊葵に目を当てた。

「久しぶりだな。橋本。あ、今は戒田か。」

そう言った弓削は、目の奥が何か面白がっている。


ここに誰も居なければ盛大に舌打ちしたであろう俊葵は、渋面を作って黙りこんでしまった。


二人の話を聞いていた“ひかりあそび”の参加者の一人が、

「弓削 慎之介さんて、参議院議員の?」

と話に割って入ってきた。


弓削は、男性にしては高めの声で、

「ええ。そうです。」

と言うと、目尻にくしゃっと皺を寄せて頷く。


それを聞いた、待ち合い客が弓削の周りに集まってきた。


島では見たことのない人の群れからようやく抜け出てきた風磨を見て俊葵は、

「災難だったな。」

と、自分の横のベンチを指差した。


風磨は頭を振り、

「でも、人が集まってきてくれたおかげで、解放してもらえたからね。」

と笑った。



本島からのフェリーが、真っ白い船体に初夏の夕陽を受けながら沖合の防波堤と防波堤のスリットをゆっくりと入ってくるのが見えてきた。

この船が乗客と積荷を下ろすと、今度は本島行きの便になる。


荷受をする郵便局のおじさんや島の雑貨屋のおばさん、お客さんを出迎えに来た民宿の若者で徐々に賑わいを見せ始めたターミナルに、

フェリーが間もなく到着するというアナウンスが流れた。


弓削の周りには人垣がなおも引きを切らない

一緒に写真を撮ってくれとせがむ人。本当に弓削の事を知ってるのか、握手を求める観光客までいる。


「お兄ちゃん。」

「風磨お兄ちゃん。」

その人垣から、葵と桂葵よしきが走り寄ってきた。


葵は、気まずそうに俊葵を見上げている。

「お兄ちゃんが、この島に戻ってきてるなんて、私、知らなかったの。

今日は、久しぶりにお墓まいりに来たのよ。そしたら、まめに手入れされてる様子だったから。ひょっとしたらお兄ちゃん帰ってきてるのかしらと思っていたの。」


「ここで、カメラ教室やる時だけだ。戻ってきたわけじゃない。」


俊葵は、葵の背後をちらっと見て、また苦虫を噛み潰したような顔に戻った。

悠然と弓削が近づいてくる。


「君に許可を取らなくったって、いつ戻ってきてもいいじゃないか。あの家は、戒田のものなんだから。」

弓削がにこやかに言う。


「あなたは、お兄ちゃんがここに来てるって知ってたのね。」

葵が弓削さんを軽く睨んだ。


「まあ、ここには俺たちの高校の同窓生も多いからな。そもそも、戒田にカメラ教室をやってくれと頼んだ教育委員会の担当者も同窓生だからね。」


「なるほどな。俺はお前に逐一監視されていたわけだ。」

俊葵が重低音で言った。


「いや。そうでもないさ。この可愛らしい助手さんのことは知らなかったからな。」

弓削は、風磨の頰に手を伸ばした。

パシッ!

その手を俊葵が払い除ける


その音に怯えたのか、桂葵が肩をピクリとさせ、風磨の脇腹に顔を押し付けてきた。

二人のやり取りに呆気に取られていた風磨も、桂葵の体の震えで、我に返る。


「二人とも、やめて下さい。桂葵君が怖がってます。」

風磨は周りを見回し、二人を諭した。


周りにチラチラ目を遣りながら、

「や、やーねぇ。いい歳して、高校生みたいにじゃれ合って。」

心持ち高めの声で葵も応じる。


『本島行きフェリーの出航準備が整いました。乗客の皆様は、二番のりばからご乗船下さい。なお…』


そのアナウンスで二人はようやく顔の強張りが解けたようだ。


風磨は桂葵の目線までしゃがみ込み、

「お父さんとお母さんが良いって言ったら、また“ひかりあそび”においで。待ってるからね。」

と言って、弓削と葵、俊葵を見上げた。

桂葵も三人を見上げる。その目は期待でキラキラ輝いている。


弓削は、選挙ポスターかと思うような笑顔を見せて、

「もちろんさ。桂葵にも伯父さんの芸術的才能が受け継がれているといいなぁ。」

と、桂葵の頭を撫でた。


葵も、

「私と桂葵は基本的に本島に住んでいるから、きっと来られると思うわ。人見知りの桂葵が誰かにこんなに懐くのなんて初めてで驚いてるのよ。また遊んでやって下さる?風真君。」

と言って微笑んだ。


「はい。僕で良ければ。良かったね。桂葵君。」


「うん。また遊ぼうね。風真兄ちゃん。」

桂葵が、嬉しそうに笑った。














































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