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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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当たり前なんて本当はどこにもないのに、

葵と佳葵も教室の参加することになり、撮影会は順調に進んだ。

二人は、本島の自宅に帰る途中だったのだそうだが、フェリーの時間までどうですかと、風磨が誘ったのだ。

桂葵はすぐに風磨に懐いた。

抱き上げられては、皆のレンズを覗かせてもらい、風磨のアイフォンのシャッターを切る。それを確認しては、「もっとこうしよう。」「こうしたらどうなるんだろう?」と、幼いなりに研究熱心さを発揮していた。


青空撮影会は、太陽が出ている間が勝負。昼食の時間も惜しんで一気にやってしまうことが多い。今日の撮影会も例に漏れず、15:00までノンストップで撮影をやり切った。

皆で、お疲れさんと言い合いながら、“ひめじま”の食堂に向かう。

完全予約制のこの民宿は予約しなければ、食事にありつけない場合があるのだが、葵と桂葵も参加する可能性があるからと、少し多めに作ってくれるように風磨が事前に頼んでおいたのだった。


「余計な気を使わせて済まんかったな。」

俊葵が風磨に耳打ちした。


「ううん。それより、桂葵君が楽しんでくれてよかったよ。」


桂葵と葵は、矢野と白井の間に陣取り、楽しそうに会話している。

参加者の一人、島の住人の前嶋が立ち上がり、カウンターの端にある大きなアルマイトのヤカンを手に持った。そして、そのついでのように、傍にあるテレビのリモコンに手を伸ばす。

天気予報かフェリーの時刻表かを見たいのだろう。

田舎に住んでいると、ケーブルテレビほど天気予報とフェリーの運行状況を知るのにいい手段はないものだ。

使い慣れなれていないリモコンで上手くいかないのか、画面がひっきりなしに変わる。

その様子を何気なく見ていた風磨の目に、ごく短い瞬間、自転車と大勢の人が走って逃げる場面が飛び込んできた。


「待って!さっきの、」


風磨は、尚もチャンネルを変え続けている前島に向かって思わず大きな声を出してしまった。

ん?

気を悪くした様子も無く、前嶋は、ほれ、と、リモコンを風磨に差し出した。

風磨はぺこりと頭を下げてそれを受け取り、数字を押していく。

だけどもうどこにも、さっきのシーンを映し出しているチャンネルは無かった。


「風真?」

俊葵も立ち上がった。


「自転車…Japanのユニフォームを見た気がして…そのすぐ後に大勢の人が蜘蛛の子散らしたみたいになったんだ。前嶋さん。ごめんなさい。」


風磨は前嶋にリモコンを渡した。


「いや。全然。それより、風真君が言ってるのって、これの事か?」


そう言って、前嶋は自分のスマホを見せてくれた。

そこには、ヤフーニュースの映像が流れていた。


あまり鮮明ではない映像だった。

撮影者は、弓なりの道路のおそらくカーブの外側から自転車競技を撮影してる。画面の奥から手前に向かって、選手が四、五人ほど段々と大きくなってくる。漕いでいる姿勢から、上り坂のようだ。手前の選手が撮影者のお目当てらしく、突然顔がどアップになった。

その直後、急に映像が大きくぶれ、徐々に画面全体が霞んだようになって、逃げ惑う見物客がカメラを追い越すように映っていき、やがて暗転した。


「風真君。テレビ、出たわよ。」

気がつくと、白井がリモコンを握っていた。


それはさっきとは別角度で撮られた映像で、中世の街並みの角を曲がって来る選手の袖の部分が映っていた。日の丸だ。見やすいように、クローズアップされている。その後通常サイズに戻ると、画面左から煙が上がり、色々なものが飛び散る。さっきと同一人物だと思われる日本人選手がそのままの姿勢で横倒しになり、ヘルメットが外れて転がった。風磨は目を凝らしたが粉塵を通した映像では、個人の判別は難しかった。

その後、この撮影者も避難を促されたのだろう。映像は激しくブレて、途切れた。


「風真君が気にしてる子って、この辺でよく練習してる子だろ?」

食事を配り終えた、厨房の吉田が風磨の側に来ていた。


「う…ん。」


「とにかく、インスタでも、フェイスタイムでもメッセージ入れときなよ。返事あったら御の字だし、何も情報がない内に心配しても仕様がないしさ。」


「その通りだな。」

俊葵が、風磨の頭をポンポンとした。

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