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波の音
右手の平から目もくらむような金貨が溢れてくる――歪な金属音が価値と共に押し寄せて落下しては鈍い音が降り積もる。
光に当たりより眩しく、影に重なりより眩しく、強大な権力を付随しながら落ちていく。
左手より力が発せられる――権力にも似て、権力と非なる。
純然たる力は畏怖と恐怖を宿らせる。
ほほ笑む悪魔が一人。
どちらにも惹かれ、どちらにも引き寄せられる。
欲しいと思い、喉から手がでるほど欲しいと、それさえあれば、怖い物など、恐ろしい物などなにもない。
ただ、そのどちらにも手が伸ばせなかった。
何よりも怖いのは自分が変わってしまう事。
違う、自分の本質が露呈してしまう事。
いつかぼくがぼくで無くなる事。
だからぼくは、どちらも手に取らなかった。
掴むのは悪魔の服の裾。
「強欲ね」
にたりと笑みを浮かべて悪魔は笑った。