十八話
『なんてツイてないんだ…電話も繋がらないし…まったく、呪われてるよ…』
そう心で呟きながら、苛立ったようにドアと格闘する靖聡の様子を二人の女は黙って眺めているだけだ。
「いい加減にしろ! どうして開かないんだ! ぼったくりバーか、ここは!」
靖聡は思わず声を荒げた。
「お会計が済まないと開かない仕組みになってるの」
ユウ、ことルミは、冷静な口調で答える。
「ウソつくな!!!!!」
「ウソじゃないわ」
今度は野之が答えた。その言葉は静かだが、どこか威圧感がある。しかし、いかにルミと野之が二人掛かりで靖聡を欺こうと靖聡が怯む理由はない。
「優なんかいなじゃないか!」
「どうして居ないって言えるの?」
女二人掛かりで靖聡をいたぶろうとしているようだ。
「奥に居るかもしれないじゃない…ってゆーか、私も“ユウ”なんですけどね」
ルミは上目遣いでそう呟くと悪びれた様子もなく靖聡をじっと見つめる。獲物を見つけた肉食獣か、お前は…靖聡は太々しいルミの態度を前に思わず鼻で笑ってしまう。
「はっ! これじゃ監禁と同じだね。 警察呼ぶぞ!!」
靖聡は負けじと言い返すとポケットの携帯を取り出し、110番を押した。しかし、無情にも電波が届かないとのメッセージが流れる。
『万事休すとはこの事だな…』
地下にあるこの店では携帯が使えないようだと悟った靖聡は、無言のまま二つ折りの携帯電話を閉じると溜息を吐いた。
「心配しないで。お詫びに今日は私がご馳走するから」
このシチューエーションは日常的なのだろうか、ルミは屈託なくそう言うと、靖聡の腕を取り奥のフロアへと引っって行こうとする。が、ストーカー女にそう易々と思う通りにさせたくない靖聡は、男性の腕力で抵抗を続けた。頑として入り口から動こうとしない靖聡に、ルミは今度は色仕掛けのつもりなのか顔を寄せると
「あら、こういうお店来た事ないの? やーねー、ビクビクしちゃって。男らしくないわ」
挑発するようにけなし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。煩わしくなった靖聡は顔を背けながら
『やられたな…』
舌打ちをする。
靖聡は無言のままなす術もない心地でその場に佇んだ。が、こんな所で押し問答をしていても始まらない…開かない扉と格闘しても無駄だと判った靖聡は、早々に切り上げ店を出よう…そう決心すると、腕に絡み付いたルミの手を振り払い、奥へと進んだ。




