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Geom Jeong Saek  −クロ−  作者: 小路雪生
15/35

十五話

更に優は


「家の門の前に生ゴミを撒かれたり…どんどんエスカレートしていく気がするの」


低く暗い声で続けると困惑の色を浮かべた。

大音響で役者の笑い声が響くなか、ストーリーとはそぐわない、まるでホラー映画でも観ているかのような凍てついた優の表情が気にかかる。

警察に届けるなどの対処については以前から話し合っているようだが、こう立て続けに嫌がらせが頻発するとなると犯人が見つかりそうなものだ…靖聡は


「……大丈夫。気にするなよ」


そう優を見つめながら励ますように声をかけた。『俺がなんとかしてやる』心の中で呟くが、四六時中一緒に居られる訳ではない。靖聡は優の話を聞く事しか出来ない自分に腹を立てていた。


「…寒気がするわ…見られてるかも…」


やがて優が不意に呟くと、後方の座席を振り向いた。暗闇であるため顔は判別出来ないが見知った顔はなく、平素であればそう気にする事でもないはずだ。しかし優は


「誰か居るのかもしれない…」


続けて小声で囁いた。靖聡には何も感じられない。が、優の表情が硬く、怯えているように見えたため


「…出よう」


そう促すと上映中の映画を切り上げ、立ち上がった。

やや神経過敏になっている気がしなくもない。しかし、確かに考えれば薄気味の悪い話だった。


結局、悪い評判を振りまくように美容院に出没していたという二人の女は姿を見せなくなり、生ゴミの件も回数が減っていったのだが、飼っていた室内犬の行方は捜索用のチラシを配布したにもかかわらず分からないままだった。可愛がっていた愛犬が突然姿を消したことで優は落ち込んでいたが、時間が経つにつれ、徐々に明るさを取り戻していった。


そんな不吉とも思える“妙”な出来事の連続に優は「呪われている気がする」そう言ったのかもしれない…いずれの出来事も靖聡が解決出来る問題ではなかった。優を守ってやりたいがそれは神様でもない限り無理だ…イタズラ騒動もやがて落ち着くだろう…靖聡はそう自らに言い聞かせると、ブーツが欲しいという優のリクエストに応え、表参道へ向かうことにした。

この時の靖聡は一連の出来事にルミが関与しているなどとは思いもしなかったのだ。



そんなある日、夕方近くになってから返却期日が過ぎていた本を返そうと大学の構内にある図書館へ向かった。返す前に何気なく本の中身を確かめようと、靖聡が借りた本を開くと、小さなメモが挟まれていることに気づいた。

図書館の蔵書には時折、紙やメモ、時には書き込みがされている。メモ用紙が残っている事もそう珍しくはない。が、借りた時にこんな物が挟んであっただろうか…靖聡は不思議に思った。何気なく二つ折にして挟まれていた小さなメモ用紙を開いてみると、そこには


『靖聡くん。新宿の改札で七時にね 優』


と書かれていたのを見つけると、一瞬戸惑った。


『優? 俺宛なのか? …え? ウソだろ…』


思わず本をひっくり返した靖聡は、一頁目から最後の頁まで指で弾くようめくってみるが、特に細工された様子はない。

いつどこで誰が紛れ込ませたのだろうか…優ならばメールや電話で伝えるはずだ…どうしてこんな回りくどいやり方をするんだろう…靖聡は怪訝に感じた。

薄い水色のメモ用紙をしばし眺めていた靖聡だったが、やや右上がりの文字は優の筆跡に似ているようにも見える。が、不可解さを拭えない靖聡は、すぐに優の携帯にメールを送ってみる事にした。


「俺だけど、新宿でいいの?」


簡単な文面でメールを送った靖聡は、すぐに返事がくるだろう、そう思った。が、結局、七時が近くになっても優からの返信はない。


「参ったなぁ…」


刻々と時が過ぎる中、靖聡は妙にソワソワとし、落ち着かない気分になっていた。バイトで忙しい友人用にノートのコピーを取っていた靖聡は、腕時計に視線を走らせた。メモに書かれた時刻は迫っており、この間、何度か優の携帯電話にメールを送っていたのだが、一向に返事が来る気配がない。CDとシャープペンシルの芯を買おうと立ち寄った駅ビルの中から優の携帯電話に電話を架けてみるのだが電源が切られままだった。靖聡は軽く苛立ちながらもメモに指定された新宿の待ち合わせ場所へ向かって歩き出す。

本人に確認がとれないまま、どこか腑に落ちない感覚を抱きつつ雑踏をかき分けるように西口へ到着した。七時ピッタリだった。しかし、到着した靖聡が周囲を見回したものの、優の姿は見当たらなかった。



09/10/17 誤字脱字の修正を行いました。

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