十話
靖聡への関心が高まったルミは、素っ気ない靖聡の隣の席を陣取っては靖聡と同じ飲み物を注文する。
「また君か…」
靖聡は呆れ気味だった。待ち伏せでもしているのだろうか、靖聡が行きつけのバーでカウンターに腰を下ろすとどこからともなく現れるのだ。
しかし、シラケた表情を見せる靖聡を前にルミは澄まし顔だ。
「…どうして、ここにいるんだ?」
「どうしてって?」
きょとんとした顔で聞き返すルミに靖聡はため息を吐く。
「…マスター、彼女は昨夜と一昨日、ここへ来た?」
ルミに問いただしても無駄だ…靖聡はマスターに声をかけると一瞬戸惑った表情で首をすくめた。まるで「本人に訊け」と言ってるようだ。
「…僕を見張ってるのか?」
ルミはとぼけた様子でソルティードッグを口に運ぶとグラスの縁を舐めるように口をつけた。
「…見張ってるって?…」
「…」
オウム返しのルミの答えに、押し問答になるだけだと悟った靖聡は尋ねるのやめた。
「…悪いけど、一人で飲みたいんだ。離れてくれ」
「どうして?…え? どういう意味なの?…何か誤解があるんじゃない?」
「誤解じゃない。帰ってくれ」
「え…そ、そんなぁ…」
わざと困ったように受け答えるルミが靖聡にはわざとらしく映るのだ。
鬱陶しい…心底そう思ってるのが伝わらないのなら面倒なだけだ。とぼけているなら一層たちが悪い…真面目に相手をするのが煩わしくなった靖聡は席を立つと一人で店を出ようとした。
「…待って!…」
ルミは店を出る靖聡を追うように後ろから声をかけるが、靖聡はその声を無視するように薄暗い照明の中を出入り口に向かった。




